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その恋、僕には関係ないはずですが…手を放しませんか?  作者: 麒麟


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3/9

act-1 旅路の始まり…

本作品はフィクションです。

登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。

また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。

 出版社のある新宿から、夜の首都高へと上がる。

 時間的なこともあるが、比較的空いているはずの時間帯…

 のはずだったが、紘一の予測に反してそれなりに交通量がある。

 昼間の驚くほど動かない時間に比べれば、60キロ近くで走れるだけ流れているといえる。

 ただ、爆音を響かせて右へ左へと車線を変えていく車は存在している。

 警察も取り締まりをしない時間というのを知っているのだろう。

 車間距離を保つ車の間をすり抜けていった。

 ――ガッシャ!

 鈍い音の響きに紘一は視線だけを向けて確認する。

 合流地点。左の合流車線から入り込んだセダンは、軽快に右へ右へと流れるように移った。

 合流点は時速40キロとなっているが、スムーズに入るために80キロ近く出ていたのだろう。

 追い越し車線を走る車が、横切ったトラックの影から飛び出し、それを互いが避けようと交錯した。

 後ろから眺める範囲では、間一髪というところだったのに…

 本線に入ってきたセダンは体勢を立て直せずに壁に接触。

 あわや車に当たりそうなところで前を横切った。

「これ…見世物か?」

 助手席で寝転ぶ狸のぬいぐるみが顔を上げて紘一に尋ねた。

 そういえば、車で留守番させているときに、ワイルド何とかという一般道でレースするというアクション映画を見ていたな、と紘一は苦笑いがこぼれた。

「いや、ただの事故だ」

 サイドミラーに映る騒ぎを確認しながら紘一は答えておくことにした。

「そっか…事故か。気を付けて運転しろよ」

 のほほんと狸は言いながら、頭の後ろで手を組んだ。

 正確には、手が短くて組むことはできないから回したという感じだが…

 この信楽焼き狸のキーホルダーは、生きている。

 魂魄というものを持った存在だ。

 ただし、ぬいぐるみに命が宿ったわけではない。

 とある事情で、宝珠を媒介にぬいぐるみを依り代にした自称観音様が宿っている。

 その名を龍騎というのだが、完全にコイツの読み違いだ。

 竹生島に鎮座する黒龍大神が名前を漢字で書いてくれたときに横書きと思い込んで読んでしまった。

 龍に騎兵のごとく手伝ってもらえるようにと付けてもらった名は『騎龍観音』。

 書いてくれているときに余所見をしていたコイツが悪いのだが…

 名前の認識は実在化につながるため、直すことができない。

 そして、黒龍大神が『観音』まで書かなかったために名の認識が『龍騎』となっているお茶目なぬいぐるみだ。

 ただ間違いなく、その役目も能力も菩薩位としてのものらしい。

 縁あって、行きつく先が見つかるまでの旅連れになっている。


 やり過ごした事故ではなく、別の事故の影響で首都高速道路を抜けるには少し時間が必要になっていた。

 渋滞というほどではないが、それでも、流れては止まり、また流れる。

 高層ビルの明かりを横目に、前を走るテールランプを追いかけられるだけまだマシな状況だといえる。

 それでも少しすると車に流れが生まれる。

 夜の高速で勘弁してほしいのは、速度の向こう側を探すような乱暴な運転をする輩たちだ。

 昼間なら人と車で溢れている街も、夜になれば少しだけ表情を変える。

 ビルの窓に残るポツポツとした明かり。

 複雑に交差する高架道路。

 その隙間を縫うように、車列が赤いランプを連ねて走る。

 仕事を終えて家路につく人もいれば、これから夜の現場へ向かう人もいる。

 そして…紘一のように、東京の街をあとにしようとしている者もいる。

 同じ道路を走っていても、それぞれの向かう場所は違う。

 渋滞を抜ける頃には、車の流れも少しずつ軽くなっていた。


 首都高から常磐道へと移るころになると龍騎は静かになっていた。

 簡単に死ぬ存在ではないが、それでも身動き一つしないのは怖い。

 ましてや、タイミングがいいのか、街の明かりが減り始め暗さが増していった。

 複雑に入り組んでいた高架を抜け、三郷JCTを過ぎていく。

 それまで眼下に広がっていた街の明かりが一気に遠くへと離れていく。

 車の流れに乗って走れるようになると、休憩を挟む場所をどうしようか悩んでしまう。

 フロントガラスの向こうに広がる黒々とした暗闇は、着実に東京から離れつつあることを教えてくれていた。毎度のことだが、それはそれで寂しい。

「まぁ……頑張りますか」

 紘一は自身を奮い立たせるように、独り言のように呟いた。

「気負い過ぎると疲れるぞ」

 助手席から龍騎が返してくれる。

「! 起きていたのか?」

「まぁ、色々と考えていると眠りそうになったな」

(……寝てたよな…)

 そんなことを思いながら、紘一はアクセルを少しだけ踏み込んだ。

 ジョイントをの上を抜けると拾う「ガタゴト」という周期的なタイヤ音が響く。

 繋ぎ目だから起きる音は夜の静寂に規則正しく響いていた。

 確か…関西方面、阪神高速環状線では適切な速度で走ると三三七拍子を聞くことができるらしい。

 メロディロード…そういうものもあるのなら走ってみるのも悪くはない。

 やがて大きな川を渡る橋梁へと差し掛かると、眼下に黒い水面が鈍く光り、遠くに守谷の街灯りがぽつりぽつりと浮かんで見えた。

 県境を越え、茨城県へと入る。

 首都高のせせこましい車線変更から解放され、まっすぐに伸びる常磐道の直線。

 漆黒の夜気の中、車のヘッドライトだけが白い光の筋となって前方の舗装路を切り裂いていく。

 紘一は、モニターに映されている時計で時間を確認した。

 SAまでの距離の表示が出てくる。

「そろそろ休むか」

「賛成」

 龍騎の返事は早かった。

「お前……休憩したかっただけだろ」

「腹も減った」

「(食わない癖に……)…やっぱりな」

 紘一は苦笑しながら、守谷サービスエリアへと車を入れた。

「なんか悪いことを思っただろう?」

「まさか」

 紘一は、あえてニッと口角を上げて龍騎に向けてみた。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です。

よろしければお付き合いください。

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