8話 祝福の日
お披露目会が終わり、私達は片付けを始めた。
元あった位置に物を動かそうとすると、ミレナさんから、私達が今回作ったこのスペースは今後、試奏するための場所にすると言われた。
どうやら店内で演奏してる姿がとても気に入った様だった。
結局―
ガルドさんは、あの後何も言わなかった。
「……じゃあな」
それだけ言って、作業に戻っていった。
(……なんだったんだろう)
引っかかる。
でも、聞くことはできなかった。
褒められた。
それは、分かる。
だけど――
(それだけじゃ、ない)
あの視線。
あの、言いかけた言葉。
頭のどこかに、ずっと残っていた。
でも、やることは変わらない。
それから私達はまた、練習の日々に戻った。
ギターを持ち弦を弾く。
そして、カノンと音を合わせる。
ただ、それだけだ。
「シオン!そこ、もうちょっと強く!」
「……ん」
音を重ねる。
何度も。
繰り返す。
少しずつ。
少しずつ。
そして、音は形になっていく。
でも――
(これで、いいのか)
ふとした瞬間に、浮かぶ。
だが答えは、出なかった。
だから。
ギターを弾く、考えるより、先に。
弦を鳴らす。
そんな日々が、続いた。
「ねえシオン!」
カノンの声。
「今のいい感じだったよ!」
いつも通りの、笑顔。
(……変わらないな)
それに少しだけ、安心する。
「もっとやろ!」
「……うん」
私は頷き、音を重ねる。
迷いも、違和感も、全部抱えたまま。
それでも。
前に進むしかなかった。
――そうして。
季節が巡り。。
風が変わり、空の色が変わり。
気づけば――
一年が、過ぎていた。
「シオン」
ある朝、母さんに呼ばれる。
「早く準備しな!遅れるよ!」
「……わかった」
分かっている。
今日は――
“洗礼の日”だ。
七歳になった子供が、教会へ行く日。
祝福を受け。
スキルを授かる日。
「カノンちゃん家も来るってよ」
「うん」
カノンも一緒に行くことは知っていた。昨日、カノン自身から聞いたから。
準備が出来て、私と母さんは家を出た。
朝の空気は、少しだけ澄んでいた。
しばらく歩いた道の先に、白い石でできた建物が見えてきた。
教会。
その前に――
カノンがいた。
「シオン!」
いつも通りの声。
でも。
少しだけ――
緊張しているようにも見えた。
カノンは私に駆け寄り、私の顔を見てきた。
「一緒だね!」
「……そうだね」
私は苦笑いしながら答える。私も緊張しているのがバレた。
私達は並んで石の階段を上る。
扉の前に立つ。
開け放たれた扉の中から、静かな空気が流れてくる。
(……ここで)
何かが、変わる。
そんな気がした。
「いこ?」
カノンが、小さく言う。
「うん」
私は頷き、そして――
私達は、扉を潜った。
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