5話 はじめての共鳴
ギターは、完成した。
でも――問題は、まだあった。
(……動かない)
指が、思った通りに動かせなかったのだ。
押さえる位置は分かる。音の並びも、頭にある。
なのに――
弦を押さえる指が、遅れる。力加減がズレる。
音が、濁る
それは――
前世との身体能力の違いからくるものだった。
「……っ!」
もう一度。
コードを押さえて――弾く。
ジャラン……。
(違う)
こんな音じゃない。
何度も繰り返す。
弾いて。止まって。弾いて。
指先が痛くなる。
(もっと……)
それでも、止めない。
(もっと、届く音を)
出来なくなったならまた、出来るようになるまで練習すればいい。
そうして、私は毎日家の手伝いを終えた後、家の裏手で練習するようになった。
そうして、練習を始めて数日が過ぎたある日。
いつもの場所で、私は一人、ギターを弾いていた。
ジャラン――
ポロン……
まだ、ぎこちない。
でも、少しずつ。
指が、馴染んできている。
(あと少し……)
その時だった。
「ねえ」
声がした。
振り返る。
そこにいたのは、一人の少女だった。
「それ!なに?」
興味津々、といった顔で私のギターを覗き見ていた。
年は同じくらいで、淡い桃色の髪が、風に揺れていた。
「……ギター」
私は、突然現れた少女に驚きながらも短く答えた。
「ギター?」
「…うん」
「何それ?エルンじゃないの?」
「似てるけど、違う」
少女は、じっとギターを見つめていた。
「さっきの音、あなたが出してるの?」
「……そう」
「へぇ〜」
少し考えるようにしてから――
「もう一回、やって!」
「……?」
「さっきの。聞きたい!」
少し迷う。
まだ、上手く弾けない。
でも――
「……分かった」
ギターを構える。
指を置く。
弾く。
ジャラン――
単純なコード。
まだ未完成な音。
その時。
「〜〜♪」
少女が、口ずさんだ。
「……!」
歌。
自然に。
まるで最初からそこにあったみたいに――
音に、重なった。
ギターの音に。
少女の声が、寄り添う。
外れない。
ズレない。
ぴたり、と。
(……なんで)
初めて会ったはずなのに。
合わせたことなんて、一度もないのに。
音が――
合っている。
もう一度、弾く。
少女の声が、重なる。
自然に。
綺麗に。
(……これだ)
頭の中にあった“音”。
それが今、目の前で形になっている。
手が止まる。
「……すごいね♪」
少女が、笑う。
「なんか、楽しい♪」
胸の奥が、少しだけ揺れる。
前世でも、あった。
誰かと音を合わせる感覚。
でも――
こんな風に、自然に重なったことはない。
「……名前」
口が動く。
「名前、は?」
「名前?あたしはカノンだよ!」
カノンは、にこっと笑った。
「あなたは?」
「……シオン」
「シオン、かぁ」
カノンは、少しだけ考えて。
「ねえ、さっきのやつ、またやろ?」
そういわれ、私に迷いは、なかった。
「いいよ」
ギターを見る。
そして、カノンを見る。
「一緒に」
言葉は足りない。
でも。
伝わったらしい。
カノンは、ぱっと笑った。
「うん!やる!」
その声は、さっきより少しだけ弾んでいた。
もう一度、構える。
弾く。
ジャラン――
その上に。
声が、重なる。
今度は、さっきよりも――
少しだけ、綺麗に。
(……これからだ)
音は、まだ未完成。
でも――
もう、一人じゃない。
その事実が――
少しだけ、嬉しかった。
読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
この小説を読んで面白いと少しでも思って下さったのなら、↓の★★★★★、ブックマークで応援してくれると嬉しいです(ㆁωㆁ)




