第36話 旅立ちへの準備
HappyHalloween♫
学園への入学まで、残り四か月。
そのうち三か月を準備に充て、最後の一か月で学園のある王都へ向かう。
そう決めた私たちは、具体的な旅の計画を立てることにした。
場所は、私の家。
テーブルを挟んで向かい合う私とカノンの足元には、ルナとヴェルクがそれぞれくつろいでいる。
テーブルの上には、ガルドさんから借りた街道の地図が広げられていた。
「それで、どうやって学園のある街まで行くか、だね」
「……そうだね」
カノンの言葉に、私は地図へ目を落とした。
今住んでいる街から学園のある街までは、いくつもの町や村を経由する必要がある。
距離だけを考えても、決して近くはない。
「歩いて行くのはどうかな?」
「……時間がかかりすぎる」
「やっぱり?」
「それに、私たちはまだ子ども。長距離を歩き続けるのは厳しいと思う」
この街から王都まではかなりの距離だ。
冒険者として活動しているとはいえ、私たちの体はまだ幼い。
依頼で街の外へ出ることはあっても、何日も歩き続ける旅とは話が違う。
途中で疲れ切ってしまえば、予定どおりに進めなくなる可能性もある。
それに、移動だけで一か月を使い切るわけにはいかない。
「じゃあ、馬車かな?」
「……乗合馬車が使えるなら、それがいい」
自分たちで馬車を用意する方法もあるが、馬や馬車を購入する費用が必要になる。馬の世話だって簡単ではない。
今の私たちに、それを管理しながら旅を続けるのは難しいだろう。
ならば、料金を払って利用できる乗合馬車が最も現実的だった。
「よし! じゃあ、乗合馬車で決まりだね!」
カノンは嬉しそうに両手を合わせた。
移動手段が決まったことで、少し安心したらしい。
けれど、私はまだ地図から目を離せなかった。
「……問題がある」
「えっ、なに?」
「乗合馬車がどこから出ているのか、分からない」
「あっ……」
カノンの表情が固まった。
「それに、学園のある街まで直接行けるのかも分からない。途中で乗り換える必要があるかもしれないし、運賃も知らない」
「……確かに」
考えてみれば、分からないことだらけだった。
乗合馬車の運行経路。
目的地までの運賃。
途中で乗り換える場合の待ち時間。
さらに、移動中の食事や宿泊についても考えなければならない。
そして、もう一つ。
「……ルナとヴェルクも乗れるのか、確認が必要」
私の言葉に、足元で丸くなっていたルナが顔を上げた。
ヴェルクも耳を動かし、こちらを見る。
「二匹とも一緒に行くんだから、そこも大事だね」
「だね」
従魔を連れて乗車できるのか。それに、追加料金が必要なのか。
場合によっては、移動手段そのものを考え直さなければならない。
「うーん……。こういうのって、どこで調べればいいんだろう?」
「……冒険者ギルドなら、何か分かるかもしれない」
様々な町から冒険者が集まる場所だ。
街道の情報や、他の町への移動手段についても、ある程度は把握しているはずだった。
「それなら、ギルドに行ってみようよ!」
「……そうしよう」
私は地図を畳み、テーブルの端へ置いた。
そして、ふと思い出す。
「……ついでに、依頼も受けよう」
「依頼?」
「旅費を貯めておきたい。運賃だけじゃなくて、食費や宿泊費も必要になるから」
「あ、そっか。お金はいくらあっても困らないもんね!」
カノンは納得したように頷いた。
私たちはこれまでも冒険者として依頼をこなし、少しずつお金を貯めてきた。
けれど、長い旅となれば、普段の生活とは必要になる金額も違う。
途中で何かあったときのためにも、余裕は持っておきたい。
「じゃあ、準備して行こう!」
「……うん」
カノンが立ち上がると、ルナもその肩へ軽やかに飛び乗った。
ヴェルクもゆっくりと立ち上がり、私のそばへ寄ってくる。
こうして私たちは、旅の情報収集と資金集めのため、冒険者ギルドへ向かうことにした。
冒険者ギルドに到着すると、いつもと変わらない喧騒が私たちを迎えた。
受付には依頼の報告をする冒険者が並び、掲示板の前では何人かが依頼書を見比べていた。
私たちはまず、受付へ向かった。
「こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」
「……乗合馬車について、聞きたいことがある」
私がそう伝えると、受付嬢は少し意外そうに目を瞬かせた。
「乗合馬車ですか?」
「……王都まで行きたい。運行経路や運賃を知りたい」
「なるほど。王都にですね」
受付嬢は事情を察したように頷いた。
「この街から乗合馬車は出ています。ただ、王都まで直通で行ける便はありません。途中の町で乗り換える必要がありますね」
「……乗り換え」
「はい。そして、詳しい時刻や運賃についてなんですが、馬車の運営所で確認するのが確実です。こちらでも分かる範囲の街道情報なら、お伝えできますよ」
そう言って、受付嬢は近くに置かれていた資料を手に取った。
目的地までの大まかな経路と、途中で立ち寄ることになる町の名前。
それらを聞きながら、私は頭の中で地図と照らし合わせた。
どうやら、途中の大きな街で乗り換える必要がありそうだった。
「……分かった。ありがとう」
「いえ。あと、従魔を連れて乗車する場合は、馬車の運営所に確認してください。馬車によって条件が違うこともありますので」
「……そうする」
必要な情報を聞き終えた私は、受付嬢に礼を言ってその場を離れた。
「乗り換えが必要なんだね」
「……そうだね。運賃も含めて、もう少し詳しく調べる必要がある」
「でも、行き方が分かっただけでも前進だよ!」
カノンは前向きだった。
確かに、何も分からない状態からは一歩進めた。
あとは、実際に必要な金額を調べ、出発までにどれだけ用意できるかを考えるだけだ。
目的の情報はだいたい聞けた。次は依頼だ。
私は掲示板へ視線を向けた。
「……依頼を見よう」
「うん!」
掲示板には、薬草採取や素材の収集、街の周辺での簡単な調査など、様々な依頼書が貼られていた。
その中から、私は報酬と必要な日数を確認しながら、いくつかの依頼を選んでいく。
旅の準備を進めるためにも、無理のない範囲で効率よく稼ぎたい。
カノンも隣から依頼書を覗き込み、気になるものを探していた。
「これなんてどうかな?フェルア草採取だって」
「……いいかも」
「場所もいつもの場所だし、慣れてるから失敗も少なそうだよね」
「そうだね」
新しい依頼に挑戦するのも悪くないが、今は確実に資金を増やすことを優先したい。
私は薬草採取の依頼書を手に取り、もう一枚、報酬が比較的高い素材採取の依頼書にも目を通した。
内容と必要な時間を比較し、どちらを受けるか考える。
その間、ルナはカノンの肩の上で掲示板を眺め、ヴェルクは私の足元で静かに待っていた。
旅立ちまで、まだ三か月ある。
準備する時間は十分にあるはずだ。
けれど、時間があるからといって、何もしなくていいわけではない。
運賃を調べ、旅費を貯め、必要なものを揃える。
一つずつ、確実に進めていこう。
「……これにしよう」
私は選んだ依頼書を受付へ持っていくため、カノンに声をかけた。
「うん! 頑張ってお金を貯めようね!」
カノンの明るい声に、私は小さく頷いた。
学園への道は、まだ始まったばかりだった。
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