37話 善意の裏側
もう11月かぁ…はえぇ…(‘◉⌓◉’)
冒険者ギルドで旅費を稼ぎ始めてから、数日が経った。
私とカノンは、薬草採取を中心にいくつかの依頼をこなしながら、王都までの旅に必要な資金を少しずつ貯めていた。
まだ十分とは言えないけれど、出発までには三ヶ月ある。焦らず準備を進めていけば、必要な分は確保できるはずだ。
そんなある日のことだった。
「シオンさん、カノンさん。教会からお二人にお話があるそうです」
冒険者ギルドの受付で、職員からそう告げられた。
「教会から?」
「はい。王都への旅立ちに向けて、準備の状況を確認したいとのことです」
教会が私たちの旅について気にかけているのは知っていた。
以前から何度か接触があったこともあり、特に不思議には思わなかった。
「わかりました。伺います」
カノンと顔を見合わせ、私たちは教会へ向かうことにした。
教会に到着すると、以前とは別の神官が私たちを出迎えた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
案内されたのは、来客用の部屋だった。
室内には長椅子と机が置かれ、向かい側には一人の神官が座っていた。
「お二人とも、よく来てくださいました」
神官は穏やかな笑みを浮かべながら、私たちに席を勧めた。
「本日は、王都の学園へ向かう準備についてお話ししたいと思いまして」
「準備、ですか?」
カノンが尋ねる。
「はい。学園の入学試験まで、残り四ヶ月ほどとなりましたね。お二人は、すでに旅の準備を始めていると伺っています」
「はい。今は冒険者ギルドで依頼を受けながら、旅費を貯めています」
「そうでしたか。ですが、慣れない長旅です。お二人だけで準備するのは大変でしょう」
神官は一度言葉を区切り、私たちの顔を見た。
「そこで、教会から支援をさせていただきたいと考えています」
「支援……?」
「ええ。王都までの移動手段の手配や、道中に必要となる資金などです。こちらで準備を整えることもできます」
予想していなかった申し出に、私は少し考え込んだ。
「どうして、そこまでしてくださるんですか?」
私の問いに、神官は穏やかな表情を崩さずに答えた。
「お二人には、教会から王都の学園へ推薦がなされています。推薦した将来有望な子どもたちが、安心して学べる環境へ進めるよう支援するのは、教会として当然のことです」
確かに、理由としては不自然ではない。
けれど、それだけなのだろうか。
私たちが使役している従魔や、以前の演奏会で起きたこと。教会がそれらに関心を持っている可能性は十分にある。
今回の申し出も、単なる親切心だけとは限らない。
「移動手段も、教会で用意していただけるんですか?」
カノンが尋ねた。
「もちろんです。王都までの馬車を手配し、必要であれば護衛も同行させましょう。道中で困ることがないよう、こちらで責任を持って準備いたします」
ずいぶんと手厚い支援だ。
けれど、私には一つ気になることがあった。
「申し訳ありませんが、移動手段については自分たちで決めたいと思っています」
「それは、どうしてでしょう?」
「せっかくの旅ですから、途中の街にも立ち寄ってみたいんです。自分たちで行き先を決めながら、必要に応じて予定を変えられるようにしておきたいので」
教会が手配した馬車や護衛を利用すれば、移動は楽になるだろう。
けれど、その分だけ行動に制限が生まれる可能性もある。
立ち寄る街や宿泊先まで指定されてしまえば、自由に動くことは難しくなる。
それに、私たちを見張っている何者かの存在も気になっていた。
教会がどこまで事情を把握しているのかはわからない。
だからこそ、旅の間まで行動を制限されるような状況は避けたかった。
「なるほど。ご自身たちで旅を計画したいということですね」
「はい」
神官は少し考えるように目を伏せたあと、再びこちらを見た。
「わかりました。それでは、移動手段の手配については、お二人にお任せしましょう」
あっさりと了承された。
「ただ、旅には相応の費用がかかります。そちらについては、教会から支援させていただけませんか?」
「旅費の支援、ですか?」
「はい。馬車の運賃や宿泊費、食事代など、必要となる費用はこちらで用意いたします。移動の自由はお二人にお任せしますので、どうか遠慮なく受け取ってください」
移動手段には干渉せず、資金だけを援助する。
こちらの希望を受け入れた形ではあるけれど、教会としても私たちを支援するという立場は変えたくないのだろう。
カノンが私の方を見た。
どうするか、私の判断を待っているようだった。
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ええ。ぜひそうしてください」
教会からの支援を受けること自体に、大きな問題はない。
もちろん、これで教会を信用したわけではないけれど、旅費に余裕ができるのはありがたい。
「具体的な金額や受け渡しについては、後日改めてお伝えします」
「わかりました」
「お二人が無事に王都へ到着できることを願っています」
神官の言葉にお礼を返し、私たちは教会を後にした。
「教会が旅費を出してくれるなんて、助かったね!」
教会から少し離れたところで、カノンが嬉しそうに言った。
「そうだね。旅費に余裕ができれば、その分だけ準備もしやすくなる」
「うん! これなら途中の街でも、いろいろ見て回れそう!」
カノンはすでに旅の途中で立ち寄る街のことを考えているようだった。
その様子を見て、私は小さく息を吐いた。
「ただ、少し気になることもある」
「気になること?」
「教会が、どうしてここまで私たちを支援してくれるのかってこと」
「学園に推薦してくれるからじゃないの?」
「それも理由の一つだと思う。でも、それだけとは限らない」
教会が私たちに関心を持っていることは、以前から感じていた。
特に、ルナとヴェルクのこと。
そして、町での演奏会以降、私たちの周囲に向けられる視線が増えたことも気になっている。
「……まあ、今は考えても仕方ないか」
「そうだね。せっかく支援してもらえるんだし、旅の準備を進めよう!」
「うん」
教会の支援を受けることにはなったけれど、旅の計画そのものは私たちで進める。
途中でどんな街に立ち寄るのか。
どんな人たちと出会うのか。
まだ知らないことばかりだ。
王都への出発まで、残り三ヶ月。
私たちの旅立ちに向けた準備は、少しずつ進んでいた。
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