32話 近づく気配2
気配を感じ始めてから――数日。
相変わらず視線は、消えない。
はっきりと見えるわけじゃない。
だが、確かに近くにいる。
そんな事が続いたが。
カノンが「特に襲われるとかないから」と、また依頼を受けようと言い。
私達は、森へ薬草採取へやってきた。
(……やっぱり見られてる)
森へ入ってしばらく。私は、周囲に意識を向けていた。
木々の揺れ。風の流れ。音の反響。
どれも、異常はない。
それでも――
(……確実に)
確信だけが、残る。
「シオン、こっちあったよー!」
その声に視線を向けると。
少し離れた場所で、カノンが手を振っていた。
その足元には、目的の薬草が生えていた。
「……今行く」
私は短く返して、そちらへ向かう。
ルナはカノンの肩に乗り、ヴェルクは、私の少し後ろを歩いている。
(……二匹共警戒してる)
特に、ヴェルク。
視線を感じるたびに、わずかに反応している。
(……でも、来ない)
あれだけ気配を感じているのに。
襲ってくる様子はないのだ。
(場所は……。わからないか……。)
見られてるのはわかる。だが、場所までは特定出来なかった。
気配の主は一定以上、近づいてこないようだった。
まるで――
(……観察されてる)
「ねえシオン」
カノンが、小さな声で言う。
「やっぱり、みられてるよね?」
「……いるね」
「だよね……。でも……」
少しだけ、不安そうに。
「なんで襲ってきたりしないんだろう……」
「……分からない」
それが、正直な答えだった。
魔物なら、もっと早く動く。
ここまで隠れたりしないだろう。
なら――
(……やっぱり、監視されてるか)
そう考えるのが自然だった。
そして――
何も起こらないまま。
時間だけが過ぎていき。
「これで最後かな!」
カノンが薬草をまとめる。
「うん、これで終わり」
依頼分は、十分に集まった。
私は、もう一度だけ周囲を見た。
視界には怪しい影はない……。
だけど、気配は――
(……いる)
やはり、消えない。
だが。
(やはり、動かない……)
「帰ろ!」
「……うん」
そのまま、私達は森を後にした。
街へ戻り。門をくぐる。
周りには人の気配が多くなった――
そして。
(……消えた)
あの視線が、途切れた。
(……街の外限定?……いや、ギルドでも感じたし)
監視の条件は不明。
ただ、私達がなにかしでかしそうな所を監視してる。
そう結論づける。
だが――
(……なんの為に?)
依頼を終え。
ギルドで報告を済ませ。
いつも通りの帰り道。
「今日も、何もなかったね!」
カノンが、少しほっとしたように笑う。
「……うん」
短く答えた。
何もなかった。それは、事実。
だが――
(……それが一番、不自然だ)
その夜。
教会――
静まり返った一室。
ヴァルディスの前に、一人の男が立っていた。
黒い外套。気配は、ほとんどない。
そこに“いる”と分かっていても、意識を外せば、すぐに見失いそうになる。
「……報告を」
ヴァルディスが、短く告げる。
「対象二名――シオン、カノン」
低く、抑えた声。
「本日、街外にて薬草採取を実施」
淡々と、事実だけを並べる。
「終始、警戒状態」
「ほう……。気づかれたのか?」
ヴァルディスの目が、わずかに細まる。
「当方の存在に、完全ではないが感知の兆候あり」
(……やはりか)
「だが、特定には至らず」
「距離は?」
「常時、安全圏を維持」
「接触は?」
「なし」
「戦闘能力は?」
「前回報告通り。脅威度は低」
だが――
「従魔――特に狼型個体は、異常な反応速度を確認」
ヴァルディスは、静かに指を組む。
「ほぅ……。興味深いな」
「以上」
報告が終わり。
男は、頭を下げた。
「引き続き監視を」
「了解」
次の瞬間。
男の姿が目の前から――消えた。
いや。
最初からいなかったかのように、気配ごと、消え失せた。
「……感知するか」
ヴァルディスが、小さく呟く。
「予想より、成長が早いな……」
視線を、窓の外へ向ける。
夜の街。
その先――森の方向へ。
「……面白い」
その声は、わずかに。
愉悦を含んでいた。
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