31話 近づく気配1
あの初めての依頼を達成してから、数日が経った。
あの日のことは――
街の中でも、話題になっていた。
「……聞いたか?」
「あぁ、子供が大人の冒険者を倒したってやつだろ……」
そんな声が、どこかで聞こえる。
(……広がってる)
予想はしていた。
でも――思ったより早い。
私は、小さく息を吐いた。
ジャラン――♫
指を動かす。 音を鳴らす。
いつもの場所。 いつもの時間。
けれど――
(……違う)
空気が、少し変わってる。
視線や……気配。
それが以前よりも、はっきり感じる。
「ねえシオン」
私だけではなくカノンも感じているのか、少しだけ声を潜めて。
「なんか……見られてない?」
「……だね。見られてる」
私は苦笑いしながら応えた。
カノンも少しだけ肩をすくめる。
「やっぱりかぁ……」
カノンの足元ではルナが、小さく鳴きながらソワソワしていた。
やはり、少しだけ警戒しているようだ。
ヴェルクの方は、静かに周囲を警戒していた。
(……ヴェルク達も感じてるか)
森で感じたものとは違う。
でも――
(……増えてる)
確実に、“何か”の視線が増えていた。
「ねえ、ギルド行く?」
カノンがいつもの調子で言う。
「……なんで?」
「この前のこと、ちょっと気になるし」
カノンの提案に少し考えた。
(……確認、か)
悪くないと思う。
「……行こうか」
私達は数日振りにギルドへと向かった。
私達がギルドに入ると――
ギルド内の空気が、少しだけ止まった。
集まる視線。
前より、はっきりと向けられていた。
でも――
「……ああ、あいつらか」
ざわつきは、思ったより小さかった。
恐れ。警戒。そして、少しの興味。
(……以前とは変わったなぁ)
色々な感情。
(……はぁ。面倒だなぁ)
そう思いつつ、私達はカウンターへ向かった。
「あら、来たのね」
受付のお姉さんが、少し苦笑する。
「この前は……大変だったみたいね」
「……少しだけ」
「“少し”で済む話じゃないと思うのだけれどね……」
お姉さんは小さくため息をついた。
でも――
「助かったわよ」
「……?」
「変なのが増えると困るのよ。ギルドとしても」
(……そういうこと)
お姉さんの言葉に納得する。
ギルド側としては、不穏な分子に居なくなって貰う方が有難いと……。
「ねえ、あの人たちって……」
カノンが小さく聞く。
「処分とかされたの?」
「さすがにね。罰金と……資格の剥奪ね」
「へぇ……」
流石に重い罰則が課せられたらしい。
カノンも少し安心した顔をする。
その時だった。
――ギィ。
扉が開く音。
何人かの冒険者が入ってくる。
その中の一人が、こちらを見た。
そして――
一瞬だけ、目を細める。
(…………)
私は少し警戒をしていたが。
でも、誰も絡んではこない。
ただ、距離を取るだけだった。
(これ…私達も危険なやつだと思われてない?)
私は周りの反応に苦笑した。
「ねえ、シオン」
「ん?」
「なんかさ」
カノンが、少しだけ楽しそうに言う。
「ちょっと“冒険者っぽく”なってきたよね」
「……なってるのかなぁ?」
「なってるって!」
カノンが笑い。ルナも、楽しそうに鳴き。ヴェルクは、静かに目を細めていた。
私はその様子に頭を抱えた。
――その時。
ふと。
背中に、違和感が走った。
(……また)
視線。
でも――
今までよりも、はっきりしている。
(……近い)
私は振り向いた。だが、そこには何もない。
いつものギルドの光景しかなかった。
ざわめきに人の流れ。
それだけだ。
(さっきのは……)
確実に、私達を見てる“何か”がいる。
でも、見えない。
気配だけが――あった。
「シオン?」
「……なんでもない」
私はカノンにそう答えた。
でも――
(……気のせいじゃない)
あの森の時と違う。
教会の時と似た。
(……何かが)
私達の成長に合わせて。
何かが――
私達に、近づき始めていた。
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