30話 その音はいつも監視されている
――教会。
石造りの廊下に、規則正しい足音が響いていた。
「……報告があります」
神官の一人が、扉の前で足を止める。
「入れ」
低い声。
扉を開けると、部屋の奥――机の向こうで、ヴァルディスが書類に目を落としていた。
「何だ」
顔を上げずに問う。
「例の二人について、新たな報告が入りました」
その一言で、書類を書いていたペンが止まる。
「……続けろ」
ヴァルディスの視線がゆっくりと、書類から上がった。
「街の外にて――魔物と接触。その後、契約を交わし従魔化したとのことです」
その報告に部屋が沈黙する。
「……なに?従魔だと?」
ヴァルディスが低く、聞き返す。
「はい。現在、冒険者ギルドにて正式に従魔登録済みと確認されています」
ヴァルディスは、わずかに目を細めた。
「年齢は……まだ十にも満たないはずだな」
「その通りです」
「テイムスキルは後天的に習得されることが多いが……。だが、まだ子供――それもユニークスキル持ちが取得するなど……。こんな、偶然ありうるのか?」
淡々とした分析。
だが、その声にはわずかに重みがあった。
「スキルの発現は確認されているのか」
「はい。両名ともにテイムのスキルが確認されたとの情報です」
「二人共……か」
小さく呟く。
(ユニークスキル保持者が、二名同時に……)
可能性としては、あり得なくはない。
だが――
(出来過ぎている)
視線が、机の上の資料へ落ちる。
《共鳴歌》
《音響構築》
そして――今回の従魔。
「……関連性は?」
「不明です。ただ……」
神官が言葉を選ぶ。
「報告では、街の外で音を発していた際に魔物が接近し、その後、戦闘もなく従魔になったと……」
沈黙……。
「……。音に、引かれた……か」
ぽつりと、呟く。
「可能性はあります」
ヴァルディスは椅子にもたれ、ゆっくりと目を閉じた。
(音。共鳴。接触。そして――契約)
点と点が、繋がりかけている。
だが――
(まだ、線にはならん)
「……監視は継続だ」
「はっ」
「不用意に刺激するな。だが、変化は見逃すな」
「了解しました」
神官が一礼し、部屋を出ていく。
扉が閉まる音。
再び、静寂。
ヴァルディスは、指先で机を軽く叩いた。
「……音、か」
その言葉には、以前よりも明確な意味が含まれていた。
「ただの娯楽では、終わらんな」
小さく、息を吐く。
そして、再びペンを取る。
書き加えられる一文。
――“観察対象:優先度上昇”
インクが、静かに紙へと染みていった。
――その頃。
「ねえシオン!」
明るい声が響く。
いつもの場所。家の裏手。
カノンが、ルナを抱えながら笑っていた。
「見て見て!ルナ、これ好きみたい!」
カノンがルナの顔にバナナに似た果実を近づけると、尻尾をぱたぱたと揺らしていた。
「……ほんとだ」
私は少しだけ目を細める。
その横で――
ヴェルクが静かに座り、こちらを見ていた。
「ねえ、今日もやる?」
「……もちろん」
私はギターを構え、弦に指を置く。
空気は、静かで。
風が、わずかに揺れているだけ。
ジャラン――♫
そこに音が、広がる。
それに重なるように――
「〜〜♪」
カノンの歌声が、乗る。
ルナの尻尾が、音に合わせて揺れる。
ヴェルクは、目を細めたまま動かない。
(……落ち着く)
音が、整う。
空気が、馴染む。
前よりも、ずっと自然に。
ずっと深く。
「ねえシオン」
「……ん?」
「なんかさ――」
カノンが、少しだけ不思議そうに言う。
「前より、もっと繋がっている感じしない?」
カノンにそう言われ私は少し考えた。
ユニークスキル…。魔力……。
そして――
(……ヴェルクと、ルナ)
確かにヴェルク達をテイムしてからスキルや魔力操作が上がった様に感じていた。
「……する」
「だよね!」
私の返事に、カノンは嬉しそうに笑いまた歌い出す。
音は、重なり。
広がり。
そして――
静かに、遠くへ届いていく。
ただ、自然に。
ただ、楽しいから。
それだけで――
今日も、音は生まれていた。
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