29話 森での戦闘
ギルド登録から、数日後――。
私達は再び、冒険者ギルドを訪れていた。
中に入ると、相変わらずのざわめきがあった。
だけど、前回ほどの視線はない。
(……慣れたのかな?)
流石、冒険者だ。
私達はそのまま掲示板の前まで移動した。
「ねえシオン、どれ受けるの?」
カノンが横から掲示板を覗き込んできた。
「……これかな」
私が指差したのは――薬草採取。
「えー、それぇ?」
「他はまだ無理だから」
年齢制限。12歳未満の私達はまだ仮ランク。
受けられるのは、こういう簡単な依頼だけ。
「そっか……」
「これで十分」
今は経験を積む時。それでいいんだ。
私は依頼書を剥がし、受付に持っていく。
「薬草採取ですね。場所は西側の森になります」
「……大丈夫」
「はい。日没までに戻ってきてくださいね」
受付嬢に軽く頷き、私達はギルドを出た。
門を出て森へ入ると、空気が変わる。
やはり街とは違う。 音が生きていて、自然はいい。
「よーし!いっぱい取るぞー!」
カノンが元気よく歩き出す。その横を、ルナがぴょん、と跳ねた。
ヴェルクは――
いつも通り、私の少し後ろで静かに、周囲を見ていた。
(……頼もしい)
私はしゃがみ込み、薬草を確認する。
「……これだ」
「おー!ほんとだ!」
依頼の薬草はすぐに見つかった。
その後も順調だった。
見つけて。採って。袋に入れる。
その繰り返しで危険もなかった。
ただの作業――
その筈だった。
――ピタ。
ヴェルクの動きが止まった。
(……?)
次の瞬間。 低く、唸る。
「グルル……」
空気が変わる。
「……っ!」
「……シオン?」
「何か……来る!」
ヴェルクが警戒している方向……。
そっちに気配が複数感じる。隠す気がない。
いや、むしろ――
(……わざとだ)
ガサッ。
茂みをかき分けて現れたのは――
「よう、ガキ」
登録にいった日、ヴェルクに倒された男だった。
奴の後ろには、仲間の三人もいた。
「……」
「おい、覚えてるよな?」
にやり、と笑う。
「この前はぁ、よーくーもーやってくれたなぁ?」
(……やっぱり)
面倒な展開になった。
「……何」
「ちょっとお礼しに来ただけだよ」
明らかに嘘だ。
武器を抜いている時点で、まるわかりである。
「……帰って」
「は?」
「やるなら、こっちもやる」
私はそう短く告げ。一瞬、空気が止まった。
そして――
「ははっ!面白ぇな!」
男が笑った。
「ガキが何できんだよ!」
「この間は油断しただけだ!」
「可愛がってやる!」
男は長剣を構えて向かってきた。
そして、それに合わせるように他の男たちも襲ってきた。
(っ!速いけど!)
「ヴェルク!」
名前を呼ぶ。
それだけで、十分だった。
ヴェルクが一歩前に出る。
そして。
――消える。
「なっ!?」
次の瞬間。
ドンッ!!と音がして一人が吹き飛んだ。
「ぐぁっ!?」
最初の男が一撃で沈んだ。
「……は?」
男の仲間の顔が歪む。
「もう一人」
私が静かに呟くとヴェルクが、再び動く。
――瞬間。
二人目が地面に叩きつけられる。
「ちょっ、待っ――」
遅い。
「次」
三人目も、同じ。
残ったのは――最初の男だけ。
「……っ、なんだよそれ……!」
男は後ずさった。
(……もう戦意ない)
私は一歩、前に出る。
「……やめるなら、見逃す」
男の手が震えている。
視線は、ヴェルクに釘付けだった。
「……っ、くそっ!」
捨て台詞を吐いて。
倒れていた仲間を引きずるようにして、走り去った。
やがて、気配が消えた。
静寂。
「……終わり」
「す、すごい……」
カノンが目を丸くしていた。
「ヴェルク、強すぎじゃない!?」
「……まあ」
予想通り。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ルナもやれる?」
「きゅっ♪」
「……無理じゃない?」
ルナは楽しそうに鳴くだけだった。
(……ルナはサポート型だろうからなぁ)
私はルナを見ながら前衛は無理だろうなと感じた。
前衛のヴェルク――
そして、後衛の私達二人とルナ――
(偏りが……)
ヴェルクの負担が大きいが、それは今後なんとかしよう。
「……それじゃ、採取の続き」
「あ、うん!」
その後、私達は何事もなかったかのように作業に戻った。
でも――
(目立つ……よね)
少しだけ、息を吐く。
私達の力は、すごい。
でも同時に――
(……隠す必要もある)
そう、思った。
夕方。
私達は、予定通り薬草を採取し終えた。
持ってきた袋は、しっかりと埋まっている。
「これで依頼達成だね!」
「うん」
森を出ると、夕焼けが少しだけ眩しかった。
その日。
私達は初めて――
冒険者としての戦いを経験した。
そして。
ヴェルクの強さを、改めて知ることになった。
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