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転生ギタリストは異世界で音を鳴らす  作者: 神凪狐龍
2章 王都出立

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28話 登録


 ヴェルクとルナをテイムして――

 森から戻る頃には、日が傾き始めていた。

 

 いつもと変わらない街の門。

 けれど――

 

(どうすればいいんだろ……)

 

 私たちと共に行く、二つの気配。

 ルナは、カノンの腕の中で大人しくしている。

 そしてヴェルクは、私の後ろを静かについてきていた。

 

「……!止まれ!」


 門のかなり手前で、門番が声を上げ、止めてきた。

 その視線は、私達ではなく――

 その後ろに向いていた。


 (……やっぱりこうなった)

 

「……その魔物はなんだ?」

 

 警戒している。

 まぁ、当然だと思う。

 

「従魔です!」

 

 カノンが答えた。

 門番の表情が、変わった。

 

「……従魔だと?」

 

 視線が鋭くなる。



「契約はちゃんとしてあるのか?」


「……してる。ちゃんとテイムスキルもある」

 

「そうか……。登録は?」

 

(……やっぱり必要か)

 

「……してない」


「なら、冒険者ギルドで従魔登録をしなさい」


「従魔登録?」


「従魔の情報はギルドで管理されている。放置すれば危険だからな」


「そうなんだ!」


 カノンがどこか楽しそうに答えた。

  

「登録が確認できれば、今度から通行は問題ない」


「……分かった」

 

 門番の説明に短く答える。

 

「すごいね……ちゃんと制度あるんだ」


「まぁ、普通に危ないからね」

 

 制度がある事に関心してるカノンに小さく返す。

 

(……面倒だな)


 ギルドへ登録に行くのがめんどくさい……。


(絶対、めんどくさい事になる……)

 

 けれど――

 避けては通れない。


 私達は門番に礼を言い、門を潜った。

 冒険者ギルドは、門から少し入った大通り沿いにあった。

 石造りの二階建て。低く構えた屋根が、圧のように空気を押している。

 正面には幅広の木製扉。

 何人もの出入りを前提とした造りだった。

 そして、扉の上には――

 交差した剣と盾の紋章が入った看板が掲げであった。


 入口に近づくと―― 

 出入りする人間の質が違うのを感じた。

 剣を背負う者。鎧を纏う者。ローブを羽織る者。

 どれも――戦う者の気配がした。

 

(……ここが、冒険者ギルド)

 

 私は、緊張して小さく息を吐いた。

 

「ねえシオン……ちょっと緊張しない?」


「……少しだけ」

 

 扉の向こうから、音が漏れてくる。

 笑い声。怒号。金属が擦れる音。

 街とは違う――荒い音だ。

 私達が入るのを躊躇っていたその時。

 ヴェルクが、すっと一歩前に出た。

 すると周囲の視線が、変わった。

 

「……ん?あれ、魔物か!?」


「ガキが連れてるぞ……?」

 

 ざわり、と空気が揺れ。周囲の人々は私達――いや、ヴェルク達を警戒しだした。

 

(……やっぱり)

 

「……ハァ。行くよ」


「うん!」

 

 このまま止まっていてもしょうがないと思い、私は扉に手をかけた。

 ――ギィィ、と重い音が響いた。

 中に入った瞬間。

 私達に視線が、刺さった。

 

「……なんだあれ」


「従魔か……?」


「……テイマーか?あんな子供が?」

 

 ざわめきが広がっていった。

 私は気にせず、受付へ向かい、

 

「……従魔登録をしたい」

 

 受付のお姉さんが、目を見開く。

 

「従魔登録……?」

 

 そう言いながら、お姉さんの視線が、ルナとヴェルクへと向いた。

 

「冒険者登録はしてる?」


「……してない」


「じゃあ、そっちからお願いね」


そう言いながら、お姉さんは紙を机の上に出してきた。

 

「代筆はいる?」


「……大丈夫」


 最近の勉強のお陰で、二人とも文字を書くのは問題なかったから紙を受け取った。

 

(……やっぱりギルド登録も必要だよね)

 

 そう思いながら、お姉さんから渡された紙を見ると。

 紙には――

 名前と年齢。

 その他にも所持スキルを書く欄やパーティー条件など書く欄があった。

 

 (……名前と年齢。他は……。スキルはテイムだけで、パーティー条件は不要でいいか)

 

 そう考えながら、書いていると。

 

「ねえシオン、これ――」


「私と同じように書いて」


 カノンには余計なことは書かない様に言った。後で、面倒なことになるだろうから。

 そうして、二人とも最低限の情報だけ書いて提出した。

 

「……確認したわ。年齢は9歳ね……。じゃあ、これが仮登録証よ」

 

 そう言われ、お姉さんから木札を渡された。


(……仮?)


 そしてお姉さんは、少しだけ表情を引き締めて説明を始めた。

 

「では、簡単に説明するわね」

 

 机の上に、もう一枚の紙を広げた。

 

「まず、冒険者ランクについて――」

 

 指で、表のようなものをなぞる。

 

「下から順に、F・E・D・C・B・A・Sの七段階よ」


「おぉ〜」


 カノンが感心した声を出す。

 

「ただし――あなた達は年齢の関係で“仮登録”になるわ」


「……そういえば、さっき仮登録証って」


「そう。12歳未満は正式なランクは付与されないの」


「じゃあ、私達って冒険者じゃないの?」


「冒険者見習いって扱いかしら。12歳になったらF級になれるから」


「わかった」


「それで、“仮登録”は受けられる依頼が制限されるわ。今、あなたたちが受けられるのは――近くの森の採取系だけね」

 

(……やっぱりか)

 

 予想通りだった。

 

「危険度の高い討伐や護衛は、基本的に禁止よ」 


「えー……」

  

 カノンは少し不満そうにする。

 

「当然よ。命に関わるからね」

 

 ぴしっと言い切られる。

 

「……ん」

 

 納得するしかない。

 

「次に――報酬について」

 

 紙を軽く叩く。

 

「依頼は達成後、報告用の受付で確認を受けてから支払われるわ」 


「そこに、採取したものを持っていけばいいんだ?」


「えぇ。採取物や証明品などよ」

 

 カノンが、ふむふむと頷く。

 

「そして――」

 

 一瞬だけ、視線がヴェルク達に向いた。

 

「問題行動について」

 

(……来た)

 

「依頼の放棄、虚偽報告、無許可での戦闘行為などは、ペナルティ対象よ」 


「……戦闘行為?」 


「街中やギルド内での無用な争いは禁止されているのよ」

 

 一拍。

 

「悪質な場合は、登録の剥奪もあり得るわ」

 

(……)

 

「あとは――」


「……?」

 

 少しだけ、声のトーンが変わる。

 

「従魔についてね」

 

 ルナとヴェルクを見る。

 

「登録された従魔は、“所有者の責任下”に置かれるわ」


「責任……?」


「えぇ。従魔が暴走して被害が出た場合は、すべて飼い主の責任よ」

 

 はっきりと言う。

 

「街中では基本的におとなしくさせてね」


「……分かった」


「もし、危険と判断された場合は――」

 

 一瞬だけ、間を置く。

 

「強制的に処分される可能性もあるわ。もちろん、その後であなた達にも罰則があるわ」


「……っ」

 

 カノンの表情が、少しだけ曇る。

 私は、静かに頷いた。

 

(……ちゃんと躾けないとな)

 

「以上よ」

 

 最後に、少しだけ柔らかく微笑む。

 

「何か分からないことがあれば、いつでも聞いてね?」


「はーい!」


「……ん」

 

 そうして、説明は終わった。

 私たちは渡された登録証をまじまじと見た。

 

(……これが)

 

 軽い。

 でも――意味は重い。

 

「それじゃあ、つぎは従魔登録ね?従魔の情報を教えてくれる?」


 冒険者登録が終わった次は従魔登録が始まった。

 

「種族は?」

 

(……正直に言わないと……いけないかな?)

 

 影音狼に月響狐。

 二人とも、聞いたことのない未知の種族だ。

 絶対に、目立って確実に面倒事になる。

 なら――

 

「えっと――」

 

 カノンが口を開く前に。

 

「森狼の変種と、白狐」

 

 被せるように言った。

 

「……変種ですか?」


「……ステータスはそうなってた」

 

(………。バレるかな?)

 

「……分かりました」

 

(通った……)


 嘘がバレなかったことに、ほっとしていると。

  

「おいおい」

 

 背後から声がした。

 

「ガキが魔物連れて冒険者ごっこか?」

 

 振り返ると、大剣を背負った男がこちらに近づいてきていた。

 その後ろには男の仲間だろう、数人がニヤニヤしてこちらを見ていた。

 

「よく見れば、珍しい魔物なんじゃねぇか?」


 そう言いながら――

 男は、ルナに手を伸ばしてきた。


(……!?)


「っえ?いや!」 


「やめて!」

 

 近づく男に短く言う。

 だが――

 

「いいじゃねぇか、ちょっと見るだけ――」

 

 男がルナに触ろうとした。

 ――その瞬間。

 すっ……と。

 ヴェルクが前に出た。

 低く、唸る。

 

「……っ」

 

 すると、空気が変わった。

 周りが圧迫感のようなものに包まれた。

 

「ちっ……な、なんだよ」

 

 男が一歩踏み出した瞬間――

 バランスを崩した。


「うおっ!?」

 

 男は、ドサッと派手に転んだ。

 ヴェルクは動いていない、ただ威圧しただけだ。


  

「……登録は完了です」


 受付の声だけが、やけに静かに響いた。

(……助かった)









 

 帰宅。

 

「おかえり――って」

 

 母さんの視線が止まる。

 

「……その子達は?」


「……従魔」


「ええっ!?」

 

 カノンが一気に説明する。

 

「森で懐いてね!契約してね!ギルドで登録もしてきたの!」 


「……は?」

 

 当然の反応だ。

 カノンの説明ではダメだと思った私は、母達に詳細を話した。


 話を聞いた母は暫く沈黙し。

 やがて――

 

「……危ないことはしてないんだね?」


「してない」


「……なら、いいけど」

 

 ため息。

 ルナを撫でる。

 

「……かわいいね」

 

 ヴェルクを見る。

 

「……この子も、大人しそうだし」

 

(……受け入れられた)

 

 少しだけ、肩の力が抜ける。

 その日から。

 

 私達は――

 

 “普通じゃない日常”へと、踏み込んだ。


読んでくださりありがとうございますm(_ _)m


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