3話 理想の音へ
店の奥。
そこには作業台があり、その上には木材が並べられていた。
「で、どうする?」
ガルドさんが腕を組んだまま聞いてきた。
私は少し考えて――
「……紙、ある?」
そう言うと、ガルドさんは奥から羊皮紙と炭を持ってきてくれた。
私は、それを手に取り描き始める。
(……描ける)
頭の中には、もう形がある。
あとは、それを写すだけ。
線を引いていく…。
胴体のくびれ。
ネックの長さ。
ペグ、フレット、ポジションマーク……。
一つずつ、確認するように描いていく。
「ほう……」
ガルドさんが覗き込んできた。
「妙な形だな」
「……エルンとは、違うから」
「そりゃ、見りゃ分かる」
描き終えた紙を差し出す。
「これで……作ってほしい」
ガルドさんはしばらく無言で図面を見る。
やがて。
「弦は?」
「……増やす」
「何本だ」
「六本」
「……倍以上か」
「張れる?」
「やってみなきゃ分からん」
ガルドさんは口元を歪める。
「で、これは何だ」
ネック部分を指さす。
そこには、細かい線が何本も刻まれていた。
「……目印」
「目印?」
「押さえる位置を……固定するための」
ガルドさんの視線が変わる。
「……なるほどな」
「でも、適当に刻んでも意味ねぇぞ?」
「……うん」
少しだけ、息を吸う。
「音の間隔は……決まってる」
言葉にするのは難しい。
でも。
感覚としては、はっきりしている。
「この位置で、この音になる」
指で、紙の一点を示す。
「そこから、同じ間隔で……上がる」
ガルドさんはしばらく黙っていた。
「……面白ぇな」
ぽつりと呟く。
「いいだろう」
工具を手に取る。
「作ってやる」
「……ありがとう」
作業が始また。
木を削る音。
叩く音。
削る、削る、削る。
私は、それをただ見ていた。
(速い)
無駄がない。
迷いもない。
(……これが、職人)
自分ではできない。
でも。
形は、分かる。
「ここ」
思わず口を出す。
「もう少し……薄く」
「……こうか?」
「うん」
また削る。
微調整をしていく。
少しずつ、形が出来ていく。
そして…弦を張る段階で問題がおきた。
「……厳しいな」
ガルドさんが呟く。
「六本は、張りが強すぎる」
一本、張る。
もう一本。
――バチン。
弦が弾けた。
「……やっぱりな」
「……」
もう一度。
張る。
――バチン。
「強度が足りねぇ」
「……」
何度やっても、同じだった。
「これはダメだな」
ガルドさんが手を止める。
机の上には、未完成のそれ。
形は近い。
でも――
音を出す前に、止まっている。
(……足りない)
材料の強度が。
「シオン」
ガルドさんが言う。
「発想は悪くねぇ」
少しだけ、間。
「だがな……この材料じゃ、無理だ」
「……」
分かってる。
そんな気はしてた。
でも。
引くつもりはない。
「……なら」
顔を上げる。
「別の材料……探す」
ガルドさんが、にやりと笑った。
「お前さん……職人っぽいこというじゃねぇか」
「……」
悔しいけど、否定はしない。
机の上の“未完成”を見る。
(ここまでは来た)
あと一歩。
音に、届くまで。
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