21話 イレギュラー
翌朝。
いつもの裏手で今日も音に魔力を乗せる特訓を始めた。
「……もう一回いくよ」
「うん」
私はギターを構える。
深く息を吸い――
音を鳴らす――
ジャラン――♫
音が、静かに広がる。
そこに、カノンの歌が重なる。
柔らかく、優しい旋律。
そこに魔力を乗せるイメージを……。
昨日よりも、少しだけ自然に。
“流れ”を意識して。
音と魔力が、ひとつになる。
すると――
ふわり、と。
足元の草が揺れた。
「……今の」
「うん」
二人の視線が、同時に下へ落ちる。
風は、吹いていない。
それでも、草はゆっくりと揺れていた。
「やっぱり……これ」
「魔法、だよね」
確信が、少しずつ形になる。
私は、弦に指をかけたまま言った。
「もっと、強くできるかな」
「やってみよう」
カノンが頷く。
もう一度。今度は、さっきよりも強く“流れ”を意識する。
音を繋ぐ。
外へ押し出すイメージで。
ジャラン――♫
歌が重なる。
その瞬間。
さわっ――
周囲の草が、一斉に揺れた。
「……っ」
「すごい……!」
二人の顔が、ぱっと明るくなる。
だが――
「……あれ?」
カノンが、小さく声を漏らした。
視線の先。
庭の隅に咲いていた小さな花。
少しだけ、しおれていたはずのそれが――
ゆっくりと、顔を上げる。
「え……」
思わず、二人で近づく。
花びらが、ほんのわずかに張りを取り戻している。
「これって……」
「……私たちが?」
沈黙。
心臓の音だけが、やけに大きく感じる。
「……やりすぎた?」
「そうかも……。いや……でも」
怖さと、驚きはあった。
でも、それ以上に――
「……すごい」
カノンが、ぽつりと呟いた。
その顔は、少しだけ震えていた。
けれど――
目は、輝いていた。
「歌で……。こんなこと……!」
私も、ゆっくりと頷く。
「音に乗せると……。こんなこともできるんだ……!」
ただ鳴らすだけじゃない。
ただ歌うだけじゃない。
魔力を乗せると意味を持つ音になる。
「ねぇ、シオン」
「なに?」
「これ、誰かに見せたら……。どうなるのかな?」
一瞬、言葉に詰まる。
脳裏に浮かぶのは――
教会でのこと。
あの神官たちの視線。
「……いや、やめとこ」
私は静かに答える。
「そっか」
私の答えにカノンも、それ以上はなにも言わなかった。
けれど――
二人とも分かっていた。
これは……。
隠しておくには、大きすぎる力だと。
二人は、もう一度音を重ねる。
ジャラン――♫
歌が響く。
その音は、昨日よりも。
確かに――
世界に触れていた。
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