19話 見えない視線
――教会。
扉が閉まる音が、静かに響いた。
シオンとカノンが去った部屋には、再び静寂が戻る。
「……どう見ますか」
控えていた神官の一人が、低く問いかけた。
机の向こうでは、ヴァルディスが腕を組んでいた。
「現時点では……脅威ではない」
淡々とした声。
「戦闘にも、治癒にも直結しない。あの判断は妥当だ」
「ですが――」
神官が言葉を続ける。
「人を集める力があります!すでに街では噂に……」
一瞬の沈黙。
「……だからこそだ」
ヴァルディスの目が、わずかに細まる。
「今は問題がない、というだけだ」
机の上の紙――記録に視線を落とす。
ユニークスキル――
《共鳴歌》
《音響構築》
「音に関わるユニーク……」
小さく呟く。
「これは……広がる力だ」
人の感情に触れ、影響を与える。
集め、繋げる。
「放置すれば、どうなるかは分からん」
静かに、しかしはっきりと言う。
「では……」
神官が問いかける。
「監視を?」
ヴァルディスは、ゆっくりと頷いた。
「だが、露骨な介入は不要だ」
一拍。
「視線は外すなよ」
そして――
「本部へ報告しろ」
神官の背筋が伸びる。
「内容はこうだ」
淡々と、言葉を紡ぐ。
「“将来的観察対象として適性あり”」
さらに続ける。
「それと、王都学院への推薦候補として登録しておけ」
「……王都の……ですか」
神官はわずかに驚く。
「10歳から入学可能なはずだ」
「はい」
「あそこなら、本部も近く監視も干渉も容易い」
「なるほど……」
「それまでの間、自然に育たせる」
干渉しすぎれば、歪む。
だが、放置も出来ない……。
「囲い込む準備だけしておけ。……あぁ、それと新しい楽器とやらも調べるんだ」
静かな命令。
「はっ」
神官が頭を下げ、部屋を出ていく。
足音が消える。
残されたヴァルディスは、窓の外へ視線を向けた。
「……音、か」
小さく呟く。
「くだらん余興で終わるか――それとも、火種になるか」
その目は、わずかに興味を帯びている。
――――――――――――――――――
その頃。
「いくよ、カノン」
「うん!」
いつもの場所。
家の裏手でギターを構える。
ジャラン――♫
澄んだ音が、静かな空気を震わせる。
そこに、歌が重なる。
風が、それを運ぶ。
「いいね!今の!」
「……もう一回」
二人は、何も知らずに。
ただ、音を重ねる。
楽しいから。
もっと良くしたいから。
それだけで。
――けれど。
その音は、確実に広がっている。
見えないところで。
静かに。
誰かに、“見られているとも知らずに”。
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