18話 見逃された代償
部屋の空気が、わずかに張り詰める。
「君たちが関わっていると言ったな」
ヴァルディス様の視線は、逸れない。
「具体的に、何をしている?」
(……どう答える)
隠しすぎれば、不自然。
だが、全部を話す必要もない。
一瞬だけ考えて――口を開く。
「……新しい楽器を使って曲を作ってる」
「新しい楽器?」
神官の一人が、眉をひそめる。
「……エルンに似た、でも別の楽器」
「ほう」
ヴァルディス様は、興味を示したようにわずかに目を細めた。
「既存の“エルン”とそんなに違うのか?」
「……違う」
短く答える。
「それを使って……音を重ねてる」
「重ねる?」
今度は、カノンの方を見る。
「えっとね!一緒に演奏してるの!」
ぱっと口を開く。
「シオンが弾いて、わたしが歌って――」
(……)
少しだけ、ヒヤッとする。
「音が、ぴったり合うの!」
カノンは楽しそうに続ける。
「なんかね、自然に重なるの!気持ちいい感じで!」
言い終えて、にこっと笑った。
沈黙。
神官達の視線が、わずかに変わる。
(……言いすぎたか)
だが――
「……なるほど」
ヴァルディス様は、静かに頷いた。
「共鳴、か」
小さく呟く。
そして、こちらを見る。
「君のスキル――音を構築する、だったな」
「……ん」
「では、その楽器も……」
一拍。
「スキルの影響を受けているのか?」
(……)
ほんの一瞬、迷う。
だが――
「……分からない」
そう答えた。
「でも、作るときに……感覚は使ってる」
嘘ではない。
全部でもない。
ヴァルディス様は、数秒こちらを見て――
「そうか」
それだけ言った。
ペンを取り、紙に何かを書き込む。
部屋に、紙を擦る音が響く。
(……読めない)
何を考えているのか、分からない。
やがて、ペンが止まる。
「確認するが……」
再び顔を上げる。
「その活動で、対価は得ているのか?」
「……もらってない」 「ないよ!」
二人同時に答える。
「そうか」
短く頷く。
「では現時点では――」
一拍。
「問題ないと判断する」
(……)
少しだけ、肩の力が抜ける。
だが。
「ただし」
その一言で、空気が戻る。
「人を集める力がある以上、放置はできない」
視線が、まっすぐ向けられる。
「今後、規模が大きくなる場合は――必ず報告しなさい」
「……報告?」
「無用な混乱を防ぐためだ」
淡々とした言い方。
だが――
(監視、か)
「……分かった」
短く答える。
カノンも、小さく頷いた。
「うん……」
少しだけ、不安そうに。
ヴァルディス様はそれを見て――
「恐れる必要はない」
静かに言う。
「逸脱しなければ、問題にはならない」
(逸脱……)
その言葉が、少しだけ引っかかる。
だが、何も言わない。
「話は以上だ」
ヴァルディス様は椅子にもたれかかった。
「今日はもう帰っていい」
「……はい」
「ありがとうございました!」
二人で頭を下げる。
扉を開けて、外へ出る。
教会の空気が、やけに軽く感じた。
――外。
石畳の上を歩きながら。
「……なんか、疲れたぁ」
カノンが大きく息を吐いた。
「……怖かった?」
「ちょっとだけ……」
カノンは苦笑いした。
「でも、怒られなくてよかった!」
「……うん」
同意する。
だが――
(終わったわけじゃない)
視線を感じた。
あの人は、見ている。
これからも。
「ねえシオン!」
カノンが、ぱっと顔を上げる。
「帰ったらさ、練習しよ!」
「……する」
足は、自然と軽くなる。
(やることは変わらない)
音を作る。
重ねる。
広げる。
それだけだ。
――ただ。
その音は、もう。
自分達だけのものでは、なくなり始めていた。
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