16話 教会の呼び出し
その日も、いつも通りだった。
ジャラン――♫
裏庭に響く音。 それにカノンの歌声が、重なる。
見物人達も、もう珍しくはない。
今も少し離れた場所で、何人かが静かに聴いている。
(……増えたなぁ)
最初は数人だったのに、 今では、ほぼ毎日のように誰かがいる。
それでも――
「次、いくよ」
「うん!」
音を止める理由にはならない。
むしろ、乗る。
感情が増えるほど、 音は、よく響く。
――その時だった。
「シオン!カノン!」
不意に、声がかかる。
振り向くと、母さんたちが立っていた。
その表情は――少しだけ、硬い。
(……?)
「どうしたの……?」
カノンが首を傾げる。
少しの間があった。
母さんは言葉を選ぶようにして――
「教会から、呼び出しがあったの……」
「……教会?」
思わず、聞き返す。
「え、なんで?」
「魔法適性検査を受けていないって」
「……あ」
思い当たる。
洗礼の日。
ステータスを授かるのとは別に、魔法適性を調べると聞いていたから。
スキルのことで、色々あって――
(……忘れられてたのか)
「本来は、あの後すぐ受けるはずだったらしいわ」
「そっか……」
カノンは納得したように頷く。
でも――
(……今さら?)
少しだけ、違和感が残る。
「明日、行くことになってるから」
「……わかった」
断る理由はない。
むしろ、本来やるべきことだ。
「教会か〜」
カノンが、少しだけ肩をすくめる。
「また緊張しそう……」
「……大丈夫」
「ほんと?」
「……前よりは」
そう言うと、カノンはくすっと笑った。
――翌日。
教会。
高い天井。 静かな空気。
何度来ても、この場所には慣れない。
「こちらへ」
案内されるまま、奥へ進む。
母さんたちも一緒だ。
(……前と同じ、か)
洗礼の時と似た道。
でも――
(……違う)
視線を感じる。
さりげなく。 けれど、確かに。
(見られてる)
ただの子供としてじゃない。
何かを測るような、目。
「ねえシオン……」
小さな声。
カノンも気づいている。
「……うん」
短く返す。
やがて、扉の前で止まる。
「失礼します」
中へ通される。
そこにいたのは――
「……来たか」
低い声。
椅子に座る神官。
その視線が、まっすぐこちらへ向けられる。
(……この人)
洗礼の時にもいた。
神官様――
確か……ヴァルディス様だったか。
「シオンとカノンだな」
「はいっ」
「……はい」
カノンは少し緊張気味に答えた。
……私はいつも通り。
「本来行うべき検査が遅れていた件については、こちらの不手際だ」
淡々とした口調で話が進む。
「本日は、その魔法適性検査を行う」
それだけ聞けば、普通だ。
だが――
「……その前に」
わずかに、間が入る。
視線が、鋭くなる。
「少し、確認したいことがある」
(……やっぱり)
違和感の正体が、形になる。
「最近、妙な音が街で噂になっている」
静かな声。
だが、逃げ場はない。
「心当たりはあるか?」
一瞬の沈黙。
カノンが、こちらを見る。
(……どうする)
隠すか。
それとも――
私は、ほんのわずかに息を吐いた。
「……あります」
そう答えた瞬間。
部屋の空気が、わずかに変わった。
――音は。
もう、隠せる段階じゃない。
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