15話 観測される旋律
本日2本目(ㆁωㆁ)
最近――私たちに変化があった。
ジャラン――♫
家の裏手で弾くだけだった音が、 少しずつ、外へと広がっていくのだ。
風に乗って。 街へと、流れていく。
「……また聞こえるな」
「なんだあの音?」
「エルンじゃないよな……?」
通りを歩く人が、足を止める。
耳を傾ける。
「綺麗な音だな……」
「誰がやってるんだ?」
最初は、ただの噂だった。
“どこかで聞こえる不思議な音”
それだけだったのに――
「ねえ、あの音また聞きに行こうよ!」
「最近人気らしいぞ」
少しずつ、人が集まり始めていた。
「……増えた」
私はぽつりと呟いた。
視線の先には、少し離れた場所に、何人か人が立っているのを感じられた。
「ほんとだね!」
カノンは気にした様子もなく、笑う。
「いいじゃん!いっぱい聞いてもらえるの!」
「……そうだね」
本当は、少しだけ気になっていた。
でも――
(悪くない)
音が届く。 誰かに届く。
それは、嫌じゃない。
前世では、出来なかった事だから……。
「いくよ」
「うん!」
弾く。
ジャラン――♫
歌が重なる。
人の気配が増えていく中でも、音はぶれない。
むしろ――
(……よく響く)
人の感情がある分、 カノンの《共鳴歌》が強く働いている。
音が、広がり。心に、届く……。
「……すごいな」
「なんだこの音……」
ざわめきが、さらに広がった。
そして、拍手が、ぽつり……ぽつりと起きる。
「もう一回!」
「続きはないのか?」
声が上がる。
(……反応、いいな)
私は、静かに息を吐いた。
「……もう一回」
「うん!」
もう一度、弾く。
私たちの音は、確実に街に根付き始めていた。
――だが。
私達のその音は。
別の場所にも届いていた。
――――――――――――――――――
教会――
静まり返った廊下。
その奥の一室。
「……例の音、か」
低い声が、響く。
神官の一人"ヴァルディス"が、先ほど届いた書類を見ていた。
「最近、街の一部で妙な楽器の音が広がっているとの報告が」
別の神官が、淡々と告げる。
「楽器……か……」
ヴァルディスは報告しに来た神官に詳細を求めた。
「詳細は?」
「弦楽器の一種と思われますが……既存のエルンとは異なる構造とのこと」
「……ほう」
わずかに、興味を示す。
「音に魅了される者も多く……人が集まり始めているようです」
一瞬の沈黙。
「……放置すれば、広がるな」
ヴァルディスは静かに、呟く。
「はい」
「原因は分かっているのか?」
「いえ、まだ特定には至っておりません」
だが。
「……目星は?」
その問いに、神官は一瞬だけ言葉を選び――
「先日の洗礼にて、ユニークスキルを授かった子供が二名、その者達かと思われます」
空気が、わずかに変わる。
「……あの二人か」
思い出す。
《共鳴歌》。 《音響構築》。
「関連性は不明ですが……“音”に関する能力ですから……」
沈黙。
やがて――
「……調べろ」
短く、告げる。
「必要以上に目立つ前に、な」
「はっ」
足音が遠ざかる。
部屋に残されたヴァルディスは、窓の外へと視線を向けた。
「……音、か」
小さく、呟く。
「くだらん娯楽で終わればいいがな」
だが――
その目は、わずかに細められていた。
――――――――――――――――
その頃――。
「ねえシオン!」
カノンが、笑う。
「次はどんな曲にする?」
「……もっと、広がるやつ」
「広がる?」
「遠くまで届く曲」
カノンは、一瞬きょとんとして――
「いいね、それ!」
ぱっと笑った。
――――そして
何も知らないまま。
二人は、また音を重ねる。
その音が――
どこまで届いているのかも知らずに。
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