12話 重なり合う音
教会での洗礼から、二日後――
昨日は、少しだけ賑やかだった。
私とカノンの家族が集まって、ささやかなお祝いをしていたからだ。
(……静かだ)
いつもの練習場所。
風の音、草の揺れる音。
それだけが、耳に入る。
「シオン、来たよー!」
約束の時間になり、カノンが駆けてきた。
「……ん」
私はそれに短く返す。
「今日から、またやろっか!」
「……うん」
頷く。
ギターを構える。
(……使ってみるか)
洗礼で手に入れたユニークスキル。
意識を、少しだけ内側に向ける。
するとそれらが――見えた。
細い光の線だった。
透明に近い、揺らぐ糸のようなものが、弦から空間へと伸びている。
震えるたびに、その線は波打ち、広がり、重なっていく。
(……繋がってる)
音は、点じゃない。
線だ。
流れて、絡み合って――形を作っている。
視界の中で、無数の線が交差する。
歪んだもの。
途切れかけているもの。
わずかにズレているもの。
(これを……)
指を、そっと弦に置く。
ズレた線に、触れるように。
歪みをなぞるように。
(整える)
ほんの少し、位置をずらす。
力を調整する。
そして――弾く。
ジャラン――♫
その瞬間。
線が、揃った。
バラバラだった光の糸が、一つの流れになって空間を走る。
歪みが消え、滑らかな曲線へと変わる。
「……っ!」
思わず、息が止まる。
(……違う)
今までと、明らかに違う。
音が、ぶれない。
濁らない。
ひとつひとつの音が、はっきりとした“輪郭”を持っている。
見える。
そして――
(……触れる)
音は、ただ鳴るものじゃない。
作れるものだと、はっきり分かった。
「シオン……今の……」
カノンも気づいたらしい。
「……うん。スキル、使ってみた」
小さく頷く。
「なんか……すごい。さっきの音……」
「うん……響いてる」
自分でも分かる。
ただ鳴っているだけじゃない。
届く。
「じゃあ、わたしも……」
カノンが、目を閉じる。
少しだけ、空気が変わる。
(……来る)
もう一度、弾く。
ジャラン――♫
その上に――
「〜〜♫」
声が、重なる。
(……!)
さっきよりも、深い。
音が、混ざるんじゃない。
溶け合う。
ギターの音と、歌が――ひとつになる。
「……すごい……」
カノンが、小さく呟く。
「なんか……気持ち、分かる」
「……分かる?」
「うん。どこで歌えばいいか、自然に分かるの」
(……共鳴)
あのスキル。
ユニークスキル――
《共鳴歌》
音だけじゃない。
感覚ごと、繋げている。
(……噛み合ってる)
もう一度。
弾く、歌う。
音が、重なる。
さっきよりも、さらに綺麗に。
(……これだ)
確信する。
この力があれば――
「……作れる」
「うん!」
カノンが、強く頷いた。
「もっといい曲、作れる!」
「うん」
迷いはない。
ギターを握り直す。
音を探す。
ひとつ。またひとつ。
繋げる。重ねる。
未完成だった音が、少しずつ形になっていく。
「ここ、もう少し明るくない?」
「……じゃあ、こう?」
弾く。
ジャラン――♫
「いい!それ!」
カノンが笑う。
また私が弾く。歌う。
音が、広がる。
(……楽しい)
自然と、そう思っていた。
ユニークスキル。
それもある。
でも――
(……一緒だから)
一人じゃない。
だから、ここまで来れた。
「次はどうする?」
「……繋げる」
「うん!」
また、音が重なる。
まだ未完成。
でも――
確実に。
前よりも、ずっといい。
私達の音は、少しずつ――
“形”になり始めていた。
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