11話 泳がされる音達
案内された別室は、思っていたよりも簡素だった。
白い壁、装飾はほとんどなく、小さな机とソファー、そして書類を置くためなのか本棚があるだけ。
(……ここで話すのか)
私とカノン、そして母さん達は並んでソファーに座らされた。
少しの間待たされると、先ほどの神官様と記録官らしき人が入ってきた。
神官様は私達の前に座り、記録官は近くの机に座り紙とペンを用意をしてた。
「さて……」
神官様がゆっくりと口を開く。
「……まず、伝えておこう」
低く、落ち着いた声。
「君たちが手にした“ユニークスキル"は、珍しい」
カノンが、きょとんとする。
「珍しいって……どのくらい?」
「数万人に一人……いや、それ以下だな」
(そんなに……)
思っていたよりも、ずっと少ない。
「そして――」
神官様は、少しだけ声を落とした。
「その価値は、内容次第で大きく変わる」
「内容……?」
「戦闘に特化したもの。あるいは治癒に関わるものは、特に重宝される」
一拍、間。
「そういった力の場合、国や教会が管理することになる」
(……管理)
私は、その言葉にわずかな違和感を覚える。
「無論、すべてではない」
神官様は淡々と続ける。
「だが、力が大きければ大きいほど――周囲が放っておかない、ということだ」
カノンが、少しだけ不安そうにこちらを見てきた。
「……大丈夫?」
「……ん」
私は、小さく頷く。
神官様は、その様子を一瞥してから言った。
「安心しなさい。今は確認だけだ」
「確認?」
「君たちのスキルが、どんなもので、どの程度のものか」
その視線が、わずかに鋭くなる。
「正確に、把握する必要がある」
(把握……)
「まずは落ち着きなさい。特別なことではあるが、恐れる必要はない」
「う、うん……」
カノンが少しだけ緊張した様子で頷いた。
(……特別、か)
私は何も言わず、ただじっと座っている。
「では、ユニークスキルの詳細を確認する」
神官様が視線をこちらに向ける。
「ステータスを開き、自分のスキルの効果を教えなさい」
「は、はい!」
カノンが目を閉じる。
少しして――
「えっと……これだ」
小さく呟き、言葉を探す。
「私の《共鳴歌(レゾナンス)》は……」
一度、深呼吸。
「周囲の音・魔力・感情を共鳴して……それを、整える……みたい」
言いながら、自分でも不思議そうな顔をする。
「整える、か」
記録官がペンを走らせる。
「対象は?」
「えっと……人とか、空気とか……たぶん、いろいろ」
「なるほどな……」
淡々と書き込んでいく。
反応は、意外と薄い。
(……それだけ?)
私は、少しだけ拍子抜けした。
「次。シオン」
「……はい」
目を閉じる。
意識を内側へ向ける。
浮かび上がる文字。
「《音響構築(サウンドクラフト)》」
短く告げる。
「効果は?」
「……音の構造を、形として見る」
少しだけ言葉を選ぶ。
「分解して……組み直す。作ることもできる」
それだけ。
記録官の手が、一瞬だけ止まる。
「……構造、か」
小さく呟く。
だが、それ以上は何も言わない。
再び、ペンが動く。
部屋の中に、紙を擦る音だけが響いた。
(……反応、薄いな)
カノンも同じことを思ったのか、ちらりと私を見る。
やがて。
記録官がペンを置き神官様と目を合わせて頷きあった。
「……よし」
一息つくように言った。
「結論から言おう」
二人を見る。
「珍しいスキルではあるが……現時点では、重要度は高くない」
「え?」
カノンが、きょとんとする。
「戦闘能力、あるいは治癒能力に直結するものではないからな」
淡々とした説明。
「よって、特別な処置は行わない。記録は本部へ送るがな」
(……そういう扱いか)
私は小さく息を吐いた。
少しだけ、肩の力が抜ける。
「以上だ。もう戻っていい」
「は、はい!」
カノンが立ち上がった。私も、それに続いた。
扉を開けて、外へ出ると教会の空気が、さっきよりも軽く感じた。
―――――――――――――――――――――
扉を閉めた、その直後――
部屋の空気が、変わった。
先ほどまでの“穏やかさ”が、嘘のように消える。
記録官が、静かに口を開いた。
「……あれを、重要度が低いと?」
低い声。
神官は、しばらく沈黙していたが――
「……ああ」
短く、答えた。
「少なくとも、表向きはな」
ペン先が、ぴたりと止まる。
「……やはり」
「共鳴歌……あれは危険だ」
「整える、という表現でしたが――」
「違うな。あれは……干渉だ」
一拍。
「音、魔力、感情……あらゆる“波”に触れる可能性がある」
記録官の顔色が、わずかに変わる。
「制御を誤れば……」
「場そのものを書き換えるだろう……」
静かな断言。
そして――
「だが、それ以上に」
神官は、視線を扉へ向けた。
シオンが出ていった方向。
「……問題は、もう一人の方だ」
「音響構築……ですか」
「あれは“創造系”だ」
低く、重い声。
「しかも、構造を理解した上で再構築するタイプ」
記録官が、息を呑む。
「ですが、音限定なのでは?」
「どうかな……それに、あの二人は仲が良さそうだった」
「……っ!」
「あの二人のユニークが組み合わさるとどうなるか……」
「相乗効果で影響力が飛躍的に上がる可能性が……?」
「……その可能性がある」
沈黙。
紙の上に、一滴のインクが落ちる。
「……放置してよろしいのですか?」
「放置ではない」
即答。
「泳がせる」
はっきりとした言葉。
「過度に干渉すれば、警戒される」
「……ですが、何もせねば成長します」
「だからこそ――」
神官の目が、鋭く細められる。
「監視を付ける」
記録官が、ゆっくりと頷いた。
「本部への報告は?」
「最優先で上げろ」
一拍。
「ただし、評価は抑えろ。潜在的危険因子としてな」
「……承知しました」
再び、ペンが走る。
今度は先ほどとは違う。
重い記録。
神官は、静かに呟いた。
「……同日に二人。……しかも、相性の良いスキル」
目を閉じる。
「偶然とは思えんな」
そして――
ぽつりと。
「時代が、動くかもしれん」
その言葉は、誰にも届かないまま。
静かに、部屋に沈んだ。
そして――
記録官の書いた報告書の端に、小さく追記される。
『――両名、接触を継続している限り、分離は推奨される』
――インクが、ゆっくりと滲んだ。
――――――――――――――――――
帰り道。
石畳の上を、カノンと二人で並んで歩いた。
母さん達は前の方で何やらおしゃべりをしていた。
しばらく無言だった。
そして――
「……ねえ、シオン」
「……ん」
「なんか、あっさり終わったね?」
「……うん」
私は、短く頷く。
「もっとこう……すごいことになるかと思った!」
「……そうかも」
確かに、少しは警戒していた。
でも――
(大したことないって判断された)
それなら、それでいい。その方が、やりやすいから。
「でもさ!」
カノンが、ぱっと顔を上げる。
「このスキル……絶対すごいよね!」
「うん」
今度は、はっきりと頷いた。
分かる。感覚で。
「もっといい音、作れる気がするよね!」
「作れる」
迷いはなかった。
カノンが、にっと笑う。
「じゃあさ!」
一歩前に出て、振り返る。
「もっと練習しよ!」
「……ん」
頷く。
自然と、足取りが軽くなる。
ユニークスキル。
特別な力。
でも――
(やることは、変わらない)
音を出して。重ねて。曲を作る。
二人で、一緒に。
「次はどんな曲にする?」
「……まだ、決めてない」
「じゃあ一緒に考えよ!」
「……うん」
笑い声が、空に溶ける。
その音は、まだ小さい。
けれど――
誰にも止められない形で、広がり始めていた。
読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
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