13話 隠しきれない変化
それから、さらに数日後――。
私達は、いつも通り練習していた。
ジャラン――♫
声が重なり、音が流れる。
以前とは違う。
明らかに、完成度が上がっている。
(……安定している)
指は迷わない。音も、ぶれない。
カノンの声も――自然に重なる。
「ねえシオン、今のすごく良くない?」
「……うん」
短く頷いた。
確かに、今のは手応えがあった。
「このままガルドさんに聴かせに行こうよ!」
「……っえ?今?」
「うん!絶対びっくりするよ!」
私は、少しだけ考えた。
(……まぁ、いいか)
「……いいよ」
「やった!」
カノンがぱっと笑った。
ガルドさんの店。
扉を開けると、いつもの木の匂いがした。
「お、来たのか」
ガルドさんが作業の手を止める。
ミレナさんも奥から顔を出した。
「どうしたんだい?」
「新しい曲、できたの!」
「ほう?」
ガルドが腕を組む。
「また随分早ぇな」
「……聴いてほしい」
そう言うと、ガルドは顎で奥を示した。
「いいだろう。やってみな」
場所を少し空け。私は、ギターを構えた。
(……いつも通り)
息を整え。カノンを見る。
カノンは、小さく頷き返してくる。
そして――
弾く。
ジャラン――♫
店の中に、音が広がる。
すぐに、カノンの声が重なる。
滑らかに、自然に。
音が、ひとつになる。
(……いい)
自分でも分かる。
前に聴かせた時とは、比べものにならない。
音が、届く。
空間に、染み込んでいく。
最後の音を鳴らす。
――静寂。
「……」
誰も、すぐには言葉を出さなかった。
少しして――
「……おい」
ガルドさんは私達をじっと見つめていた。
「前の時より明らかにレベルが違うだろ?」
「……練習した」
短く答える。
「嘘つけ」
即答だった。
「こんな短期間に、ここまでレベルが上がるもんか。前に聴いた時の曲と、全然違ぇぞ」
腕を組んだまま、じっとこちらを見る。
「音が、まとまりすぎてる」
「……そう?」
「そうだ」
はっきりと言い切る。
「普通はな、こんな短期間でここまで変わらねぇ」
(……やっぱり)
分かる人には、分かる。
「何かしたか?」
ガルドさんの視線が、少し鋭くなってた。
カノンが、ちらっとこちらを見る。
(……言うか?)
一瞬だけ考える。
でも――
「……少し、やり方を変えた」
それだけにした。
嘘ではない。
ガルドさんは、しばらく沈黙した。じっと、ギターを見つめながら。
「……スキルか?」
「……」
答えない。
けど、それで十分だったらしい。
「……なるほどな」
小さく呟く。
完全に納得しているわけじゃない。
でも、それ以上は踏み込んでこない。
ミレナさんが、ふっと笑った。
「でも、いいじゃないかい」
柔らかい声。
「こんなに綺麗な音、なかなか聞けないよ」
「……まあな」
ガルドさんも、ため息をつく。
「悔しいが、いい音だ」
それは、ちゃんとした評価だった。
「ね?すごいでしょ!」
カノンが得意げに言う。
「……うん」
小さく頷く。
でも――
(気づかれ始めてる)
さっきの視線。
あれは、ただの興味じゃない。
違和感だ。
「シオン」
ガルドさんが、もう一度口を開く。
「……あんまり無茶はすんなよ」
「……?」
「いいもんはな、目立つ」
一拍、間。
「目立つってのは――面倒も呼ぶ」
(……)
どこかで聞いた話。
教会でも、似たようなことを言っていた。
「……分かってる」
私は、短く答えた。
ガルドさんは、それ以上何も言わなかった。
店を出ると、外の空気が少しだけ軽かった。
「ねえシオン!」
カノンが、嬉しそうに笑う。
「すっごく褒められたね!」
「うん」
確かに、そうだ。
でも――
(それだけじゃない)
ガルドさんの、あの言葉。
目立つな。
空を見上げる。
青くて、広い。
音は、広がる。
それは、止められない。
(……なら)
やることは、ひとつ。
「……もっと作る」
「うん!」
カノンが、強く頷く。
私達の音は――
もう、止まらない。
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