新世界
京は霞がかった意識の中で朦朧としている。接地感を背面全てに知覚できたことから仰向けでいることは理解出来た。
赤目の女性、フリストに胸を突かれ焼けるような痛みと共に意識が落ちた。今は胸だけでなく全身が凍るように寒い。失血は確認出来なかったがナイフで胸を突かれ無事でいられたとは思えなかった。
京は目を開けるとそこは白い霧の中に居た。痛みは感じない。立ち上がり、自身の胸を見ると失血はおろか傷口さえ無かった。
凍えるような寒さは相変わらずだったが、時間が経つにつれて外気温が上がったのか京の身体が順応したのか、肌寒い程度まで落ち着いた。
スマートフォンで現在位置を確認しようとするも、スマートフォンどころか、普段持ち歩く物全て見当たらない。洋服こそ着ているが此処がどこなのか、自分に何が起こっているのか。白く、濃い霧に囲まれた視界同様、思考もクリアとは程遠い。
過去に遭難した経験は無いが、闇雲に歩き体力を消耗するのは危険だと判断し、霧が晴れることに一縷の望みをかけ腰を降ろした。
「ここは天国か…それとも三途の川の入り口か。6文の渡し銭すら持ち合わせてはいないけど」
「そんな端金でここを抜けるとかアンタ本気?」
独り言に対してまさか返答があると思わず、声の聞こえた頭上へ視線を向けるが誰も居ない。
「誰か…居るのか?」
「居ますとも。えぇえぇ居ますとも。アンタが目を覚ますのをずーっと待っていましたよ。こっちは時間ないんだから」
中空へ視線を泳がすがやはり人影はおろか視界に変化は無い。
「だぁーかーらぁー!ここ!これだからゲストって奴等はメンドクサイ」
京の視界に逆さ吊りの少年が飛び込んできた。至近距離で捉えたにも拘わらず少年の全身を視界に収めることが出来た。遠近感が全く合っていない。
「ちょっと肩借りるよゲストのお兄さん」
少年は言うは早いが京の肩に腰を下ろす。言葉は通じる。容姿も人間の少年そのもの。ただ、サイズが圧倒的に小さい。目測だが全身15cm程度。
「えぇと…君は?」
聞きたいことが多すぎたので曖昧な質問になってしまう。
「なんだいなんだい、事前に何も聞いてないってか。フリスト姉ちゃんも戦乙女気取りの割に、案外適当だな」
少年は肩をすくませる。
「俺はフェルン。白霧の案内人。フリスト姉ちゃんが現場スカウトで、俺が兄ちゃんをジルチへご案内。あとはアンタのやる気次第。オーケー?」
全然、これっぽっちもオーケーじゃない。分かったことは小人のような少年の名前がフェルン。ここは白霧という場所。どうやらフリストが京をここまで導いた。フェルンによってジルチという場所へ向かうらしい。情報こそ入手したが結局、京はどうするべきか。今後の羅針盤になるものは何一つ得られなかった。
フェルンは京の肩から飛び立つと重力を無視してドローンのように空中に停止した。背中から2枚の半透明の翼が羽ばたいている。驚き疲れた京にはため息をつくことしか出来なかった。
「もう、何が何やらだ…どこを切り取ってもこの世のものとは思えない」
「だってこの世じゃねーもん」
さも当たり前だと言い放つフェルン。京もこれには不本意だが納得した。こんな日本が、世界があってたまるか。
「兄ちゃんたっぷり寝てたからもう時間ねーぞ、もうすぐ白霧が晴れちまう」
京はもう、不思議な出来事達を追及することを止めた。いちいち疑問に回答を求めても答えが返ってこないことだけは分かった。
濃霧で囲まれていた視界が少しづつ晴れていく。
「白霧が晴れたらお別れだぜ。泣き喚いたり暴れ回らなかったゲストは久しぶりだ。兄ちゃんいい目と頭してんじゃん。そんな兄ちゃんにフェルン様からのとっておきのアドバイス、やるよ」
フェルンは一呼吸置くと初めて真剣な眼差し、声色で呟いた。
「キョウ、あんたの美しい魂を信じて進め。あんたが正義であんたが旗だ。旗振る人間が右往左往しちゃ後ろの人間みんな転んじまう」
霧は晴れた。
このエピソードが一番の難産でした。京君の進んで欲しい方向は以前から考えていたのですが、本エピソードだけはディティールを全く決めていなかったので…京君には今回も本当に苦労をかけてしまいました。
2026 9/14Mリーグ開幕日です。来年の閉幕日までに今作が完結出来るといいなぁなどと思っています。
ビーストファンですがアベマズの進退も気になります。




