サイレント・アタック
時間は少し巻き戻る。国士無双隊、緋色研究、花の国、龍の巣が互いのポジションを奪い合っている最中。エルビアン、ディッシュ、イザベラの3人は花の国の集落地跡を本部とし、内部からリッパー王子を崩す内部工作に取り掛かっていた。
「ディッシュはライカに電話だ。祈りの国の暗号海中ネットワークを繫げるように打診。イザベラはグレート・ゴーンマスのマルセロに電話。マルセロの名前を使っていいか許可をもらって欲しい」
エルビアンの指示は端的かつ的確。これはまだ若いチコリには会得していない、監督者としての能力の1つだ。
「おばさま。マルセロさんからは好きに使ってくれて構わないとのことです」
「よしよし。商売人は名前が売るのが最高の宣伝だ。悪いようにはしないと礼を言っておいてくれ」
「先生。ライカさんに電話が繋がりません。シャルルでも構いませんか?」
「色ガキが。まぁそっちの方が話は早い。無駄話する時間はないよ」
「りょ!了解です!」
「だからお前は声がでかいんだよ」
エルビアンの号令から5分。マルセロというスケープゴートと祈りの国の海中ネットワークを手に入れた3人は花の国のネットワークへ侵入する。
「まずは軍事部からだ。2回の龍の巣攻略に使った予算を公にする。イザベラ、BSは読めるね?」
「はい。今回の損害に加えて減価償却費も併せてマルセロさん名義で公表します」
「鋭いじゃないか。それが良いんだ。花の国の国民に、失敗した作戦に垂れ流した国税を教えておやり」
リッパー王子が2回の作戦に費やしたビーアゲハは50機を超える。運用資金は国防費から計上したと公表しているが、それだけではとても賄える金額ではない。有事の際に使う特別予算を内密につまみ食いしたのは言うまでもない。
「先生。フェン王子の方は?」
「リッパー王子が抑えつけて、フェン王子が出来なかった国営事業を洗い出してある。金に糸目はつけない。片っ端から注射しな」
例えばスポーツチームの年間経営が赤字だったとする。その際に関係者が個人の財で赤字を補填することを注射いう。今回で言えばリッパー王子が喰った、フェン王子に本来回るはずの国税を国士無双隊が注射したことになる。
「これも送金名義はマルセロさんで良いんですよね?全部で…80億クロム!?馬鹿げた金額だ」
「ああマルセロで構わない。エレクトニック青果店じゃない。マルセロ名義だ。会社名義だと社員に迷惑を掛ける」
個人名義にすることでエレクトニック青果店社員からの「そんな金があるなら我々に回せ」という不満を消すエルビアンなりの配慮だ。
「おばさま。こっちは終わりました。花の国の主要なニュースサイトへリンクOKです」
「花の国が人海戦術で消しに来る可能性が高い。祈りの国へも魚拓を貼っておきな」
魚拓とはネットワークのデータを改ざん、削除される前に保存、転送しておくことを指す。
「祈りの国のニュースサイトへのリンク張りました。バックアップはエピロット工務店の暗号サーバーで」
「愛してるよイザベラ。完璧だ。ニュースサイトが賑やかになってきたね」
リッパー王子の落ち度は権力を欲するが余り、功を急いだ。花の国が倒さなくても良い龍という標的に自分の運用出来る以上の予算をつぎ込んだ。そこをエルビアンは徹底的に突く。
フェン王子の落ち度は権力を求めず、先送りにし、実行をしてこなかった。動かない王に国民はついて来ない。そこにエルビアンは背中を押す。
花の国のニュースサイトがかつてないほどのアクセスを記録する。幾つかのサイトはサーバーダウン。リッパー王子の迅速な対応で緊急閉鎖とパニック状態に陥った。
「さて、後は花の国の国民が燃料をくべる。私達の仕事は終わりだよ」
時間にしてわずか30分足らず。花の国を内部から八つ裂きにした副艦長は、今日もニコニコと大好きな紅茶を嗜む。これにはイザベラとディッシュも苦笑いで顔を合わせることしか出来なかった。
今回はイザベラさんの事務員としての能力を発揮して頂きました。設定としてはエピロット工務店の事務員は複数いるのですが、皆若く、祈りの国へ残って本店を影で支え盛り上げています。と言ってもイザベラさんもまだ三十路。とても魅力的な女性になってくれて嬉しいです。




