↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/60

王子、それぞれ

 エルビアン、ディッシュ、イザベラの3人の活躍により、花の国はパニック状態に陥った。主流だったリッパー王子の派閥の国民でさえ、今回の騒動で流出した金額に憤慨し、説明を求め抗議文を提出。

 穏健派であるフェン王子を支える少数派の国民は「それみたことか」とリッパー王子のみならず、リッパー王子の側近まで冷えた態度で同情すらしない。

 更に少数派であるルークを支持する者達も僅かながら存在する。彼等はルークの帰りを心待ちにしているが、肝心のルークが花の国から離脱している現在は沈黙を貫いている。

 問題を軽視しているのはフラワーパレスに住む王と娘の王女達のみ。彼等は決着がついた後、勝ち馬に乗るだけで自分達の立場は揺るがない。場合によっては弾の飛んでこない観客席でこの王子同士の対決を楽しんでいるのかもしれない。

 花の国は事態を収拾するべく、渦中の3人の王子による会議開催をフェン王子が呼びかけた。リッパー王子はこれ以上傷を広げたくないのか二つ返事で招集に応じた。一方でルークは「護衛は認めず人数は3人のみ。開催場所はフラワーパレス以外」と条件付きで承諾。協議の末、会場はリッパー王子がファーストガーデンへ居を移した為、現在は稼働停止中のセカンドガーデンとなった。

 そして会議当日。最初にセカンドガーデンへ現れたのは軍服と葉巻がトレードマークのリッパー王子。

「ふん。まさかここに帰って来る日がこようとはな」

「サードガーデンより広いし綺麗だ。今からでも交換しないか?」

 続いてセカンドガーデンへ到着したのは国士無双(こくしむそう)隊では普段着に成り下がった作業着姿のルーク。サードガーデンは大半を売却したので、セカンドガーデンより狭いのは当たり前だ。

「国から逃げたサヴァンの犬か。お前には言いたい事が山ほどある」

「それを話す為の場だろう?キョウは貴方と違って優秀だよ。隊員の信頼も厚い」

「貴様…!!」

 葉巻を加えたままリッパー王子はルークの胸倉を掴んだ。昔からルークの苦手な紫煙の匂いだ。この匂いを嗅ぐと嫌でも貴方にされた数々の無礼を思い出す。だから自分は焼けた薬きょうの匂いで誤魔化しているのかもしれない。ルークは自虐的に笑った。

「リッパー、ルーク、止めるんだ。我々が揉めている場合じゃないことは全員分かっているだろう?」

 ここでフェン王子もセカンドガーデンへ到着。彼は今日も執務服姿で現れた。三者三様の装いだが欠員無く会議を行えることにフェン王子はまずは安堵する。

「立ち話で済むような話じゃない。まずは落ち着こう」

 ルークはエピロット工務店のトラックでここまで来たが、二人の王子はそれぞれの運転手を外で待つよう指示。四季折々の美しい花が咲き乱れるセカンドガーデンだが、手入れが入っていない影響で、雑草や高い木に巣を張る蜘蛛。昆虫も目立つ。3人は入り口近くの元、喫茶店を会議の場とした。10人は余裕で座れる楕円形のテーブル。各々好きな席に座る。

「大小様々な問題が同時に起きた。まずは大きいところから潰していこう」

 フェン王子の言う「大きいところ」それは間違いなく、リッパー王子の軍事行動及び予算の搾取だろう。2人の視線がリッパー王子に集まる。リッパー王子は悪びれもせず、言い放った。

「龍の巣を討って何が悪い?奴等は我が物顔で空の支配者気取りだ。我々の航路の邪魔だから排除に乗り切ったまでだ」

 これにはルークのみならず、フェン王子も絶句した。長年、龍の巣を避けるように遊牧民として生きて来た者の発言とは思えない。これまで花の国は龍から被害を受けたことは1度だってない。たまらずフェン王子が反論する。

「お前は空の王者にでもなろうというのか?」

「当然だろう兄上。我々の持っている航空技術はジルチ1だ。他国にガーデン規模の技術は存在しない」

 事実、国単位で移動出来る国家はジルチには存在しない。だがそれは「する必要がない」とも言える。各国は精霊戦争の後、それぞれの決められた国土内で発展を重ねている。勿論、戦勝国である花の国にも飛び地が多いが充分な国土は用意されている。元々飛び地を有効活用する為に開発されたガーデン計画。

 本来の目的から逸脱した野望を、リッパー王子はいつからか持つようになってしまった。

「リッパーは昔からそうだった。兄の陰でコソコソと悪巧みばかりだ。いい加減、自分の器を学べよ」

 ルークの発言は兄への呆れだけでなく、哀れみさえ感じとれる。机を叩く大きな音が喫茶店を包むが、こんなことで怯む2人では無い。

「ルーク、お前も言い過ぎだ。だが、リッパーよ。今回ばかりは庇いきれんぞ?」

 リッパー王子は机を叩くことを辞めない。上の兄に諭され、下の弟に馬鹿にされる。自尊心の人一倍強い彼に、これは耐えがたい屈辱だった。

「では兄上はこのままで良いと!?」

 リッパー王子からは謝罪も反省も見られない。あくまで自分は正当だ。理に適っていると訴える。

「何の問題も無い。今までも、これからも花の国は自然を愛し、自然と共に死ぬ」

 フェン王子の確固たる信念にルークは口笛を鳴らす。優しいフェン王子の傘の下、傲慢な行動を重ねてきたリッパー王子。だが、今回ばかりはやり過ぎた。彼を国の運営から切ると同義の発言。

「そんなに強い国が作りたいなら剣の国へでも行ったらどうだ?あぁ、兄上は剣も銃も苦手でしたね。失敬」

 ここには金と権力で手に入れた側近は居ない。居るのは王族として花の国を背負う教育を受けた男子3名。それぞれ才に違いは有った。それでも3人で協力すれば素晴らしい国は作れたに違いない。だが、長男はそれを望み、叶わず。次男はワントップを目指し、失敗した。三男は上の兄弟を見続け、自由を求め、手に入れた。

 度重なるルークからの侮蔑にリッパーは耐えられず、立ち上がり銃を抜く。勿論、武器の持ち込みなど許可しているわけがない。

「お前が!お前さえ居なければ!キラー・ペインは私の物だった!」

「違うね。キラー・ペインの精霊は命。兵の命を軽薄に扱う貴方をキラー・ペインは選ばない」

 ルークも立ち上がり拳銃に動じることはなくリッパー王子を鋭い眼差しで見返す。

「その引き金を引いたらどうなるか。浅慮(せんりょ)な貴方でも分かるだろう?」

 これはルークからの兄への最後の優しさだった。もしも、リッパー王子がやり直せるとするならば、この瞬間を置いて他にない。無言の睨み合いは続く。フェン王子も固唾を飲んで見守る。リッパー王子の選択が花の国の未来を決める。ここに居る誰もがそう思った。

 リッパー王子は自分の側頭部に銃口を当て、目を瞑る。彼の選択を2人は止めない。彼なりの国民に対するケジメ。最後まで見届ける覚悟は会議が決まった日から出来ていた。

 銃を持つ手が震える。手だけでなく全身が震えている。カタカタと歯を鳴らす不愉快な不協和音がルークの苛立ちを加速させた。

「その引き金を俺は何度も貴方の無茶苦茶な命令で引いてきた。1回くらい自分でやってみたらどうだ」

 リッパー王子は目を見開き銃口をルークに向け引き金を引いた。彼の中で最優先事項はやはり、自尊心であった。

 避けようが無い至近距離で撃ち出された銃弾は、ルークに着弾することは無かった。本来、ルークの立っていた場所を突き飛ばしたのはフェン王子。紺色の執務服の肩口から赤が広がる。

「リッパー、ルーク。言いたいことを言って。撃つもの撃って気が済んだか?」

 フェン王子は肩口を抑え、笑顔で2人を見やる。笑顔の長男と泣き崩れる次男。決着は着いた。自由を得た三男は、この場を立ち去ることも出来たが、生まれて初めて長男に肩を貸した。

兄弟とは不思議なもので、お互い無い物ねだりしながらも最後は協力する。そんな理想を込めて今回執筆しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。