↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/60

名無日輪摩利支天

「天照(あまてらす)…」

 紅孔雀(べにくじゃく)の赤い龍の甲殻が透明度を増し、鉄のフレームすら色が薄くなっていく。赤い翼は向こうの雲が透けて見えるほどの透度。操縦室のマドカの表情こそ見えないがシルエットは確認出来る。

 (ヤバい、こいつはヤバい)キョウに天照の正体を考察する時間は無い。迂闊に飛び込むのは危険。ただ、完全に透過されてはバッド=バットに対抗する手段が無くなる。

 半透明になった紅孔雀へバッド=バットは霊剣フルールを抜く。今持っているキョウの手札の中で最速の居合斬り。横薙ぎのそれに手応えは無く、空を斬った。キョウはその場から一歩踏み込み、自身を時計回りに1回転させ、遠心力を使った大振りの2撃目を放つがやはり空を斬る。

 大きくバランスを崩したキョウを見逃すわけもなく、紅孔雀から2閃、そのスピードはキョウの放った居合斬りと遜色ない。それを彼女は抜き身の状態で2閃同時に事もなく行う。

 キョウは考えるより早く、黒い翼を前面で閉じ防御態勢を取る。致命傷は防げたが閉じた翼では飛行能力を失う。重力に抗えず頭から落下を始めるバッド=バットは、地面と僅か20mというところで逆さまのまま翼を広げなんとか直撃を回避した。

 空を見上げるが紅孔雀の姿はそこにはもう居ない。レーダーはまだ紅孔雀を捕捉している。しかし、レーダーの示す空中に紅孔雀の姿は無い。

「後ろ」

 バッド=バットの背中に衝撃が走る。飛び膝蹴りを叩きこまれ、前のめりに倒れる。前転で視界を確保したが、紅孔雀の姿は見えない。紅孔雀を追うレーダーは空中と前方。2つの地点を示している。

 (2機いるのか…??)キョウの真っ直ぐな推測は錬精機戦のセオリーに従えばその通りであろう。機械は嘘を吐かない。与えられたプログラムを黙々と実行しているだけだ。そのレーダーが「紅孔雀は2機居る」そう言っているのだから。

 だが、キョウの感じる殺意が増えた様子は無い。だとすれば、考えられることは1つ。「レーダーの計算を置き去りにするほどの機動力」キョウは天照の正体をそう結論付けた。スピード勝負ならバッド=バットに分があると思っていたキョウにとってそれは残酷な未来を想像させる。

 嫌な予感を実現させない為にキョウは霊剣フルールを構え、臨戦態勢を取る。正面に立つ紅孔雀は、まるで横断歩道を渡る子供のように無防備に近づいてくる。キョウの射程距離の半歩手前。紅孔雀の姿は2つに別れる。バッド=バットへ左右から挟撃を仕掛け、4閃。立ち尽くすバッド=バットへ浅くない刀傷を与える。カウンター気味に霊剣フルールを左の紅孔雀へ向け振るうが、右の紅孔雀がそれを受け止め攻撃の手を緩めない。

(スピードは負けてる。パワーも。相手は2機と思ったほうがいい)そして、相手の操縦士は元女流棋士。「詰み」がある状況で見逃すマヌケな真似にも期待出来ない。殺す時はきっちりと殺す。キョウが分析すればするほど、勝ちの目は薄くなっていく。2機と見紛うほどの紅孔雀の猛攻に致命傷だけを避け、赤い谷に背を預け背後だけは取られないようにするのが精いっぱいだ。

(考えろ、考えろ)キョウは猛攻に耐えながらも思考を止めない。上空の龍の巣では花の国が敗走を認めたのか、1匹の銀龍が優雅に龍の巣を周遊していた。

 キョウは上空へ飛び、一直線に駆ける。虚を突いた飛翔にマドカの追撃が遅れる。スタートダッシュのタイミングを外したおかげでリードを保つ。スピードで負けているとはいえ、すぐに追いつかれることはなかった。後ろは振り返らず、雲を裂き速度を上げる。

 キョウがゴール地点に設定したのは龍の巣。周遊する龍はキョウの接近に気付き、縄張りへの侵入者と判断し、炎を吐く。日本にいた頃、キョウにあってマドカに無い物。それは「多数の相手と戦うセオリー」と「開示情報からの推理力」。1VS1で盤に全ての情報と駒がぶつかる将棋。1VS3で相手の13枚が3人分見えない麻雀。似て非なる頭脳ゲームに半生を捧げて来た2人は、今はっきりと違う戦略思想で戦っている。

 キョウが欲しかったのは「混沌(カオス)」。1VS1で太刀打ち出来なければノイズを増やせばいい。追い付いた紅孔雀も龍に侵入者と判断され、銀龍の顎が襲う。超スピードで躱す紅孔雀の背後に龍の巣の主。緑の龍が間髪入れず、尾で追撃。紅孔雀は再び2機に別れ躱す。

 キョウはここでも推測を立てる。マドカは恐らく龍と戦ったことがない。紅孔雀は赤い龍の甲殻を纏ってはいるが、今の回避パターンで天照を使うあたり、慎重になっているように見えた。ならば、まだ勝機はある。

 キョウは龍の攻撃には極力反撃を行わず、マドカのみを狙う。一方、マドカは天照を駆使し、全ての敵に反撃を繰り出す。獣は本能でより速く、より危険な個体を排除する。結果、マドカは全員から狙われる立場になり、捌くに重きを置き始め反撃の手数も減る。2匹の龍が同時に炎を吐きマドカを狙う。左右、後方の逃げ場が無いと判断した紅孔雀は上昇を選択。待っていたのは更に上空から霊剣フルールを振り降ろすバッド=バットだった。

「ナイスアシスト」

 逃げ場を全て塞ぎ、渾身の1撃を叩きこむ。左の肩口を捉え右の大腿部まで深く大きな傷を与える。半透明の紅孔雀の色が次第に濃くり、ついには梅釈天(ばいしゃくてん)と同じ赤になった。

「くううぅ!天照を維持出来ないほどのダメージ!?」

 マドカは急下降し、戦場から離れる。縄張りから離れたのを見て龍達も追撃には行かない。キョウが単騎で追うがそこにマドカの姿は無かった。恐らくは夢幻。全くもって厄介な錬精機だ。

 これで1勝1敗。次は、次こそは連れて帰る。キョウは新たな決意を固め、嶺上開花を目指した。


天照の元ネタは竹部女流棋士の考案した竹部スペシャル。序盤に角を切り、龍を作る戦法です。

作中では分身みたいに思って頂ければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。