ポイントX
ルークの撃墜数が30を数える頃、キョウは梅釈天へ向け、フットペダルを踏みつける。そのスピードはサーヤのビーアゲハを後方からかき消した。たまらずサーヤから通信が入る。
「キョウ!出すぎよ!花の国に見つかる!」
サーヤからの警告にキョウは冷静さを少しだけ取り戻し、フットペダルを緩める。
「ごめん。自分の。いや、マドカのことだけ考えていた」
「気持ちは分かるよ。でもね、私達だって戦ってる。それを忘れないで」
サーヤから送られたナビに従い、赤い谷をビーアゲハ達から避けるように迂回して走る。時間のロスはあれど、より安全な道をサーヤが示してくれる。もどかしい迂回を何度か繰り返し、キョウのメインモニターも梅釈天を捉えた。遠くなった上空ではまた1つ、ビーアゲハが墜落していく。バッド=バットは梅釈天の道を遮るよう、立ちはだかる。
「よう、また会ったな。マドカは?」
梅釈天の操縦士、ギャレットはバッド=バットの出現を予想していたのか声のトーンに変化は無い。
「彼女はル・セレーネ担当だ。無論、私の狙いはキラー・ペイン。蝙蝠に用は無い。通してくれ」
「お前達の目的を知ってしまった以上、行かせるわけないだろ」
キョウは霊剣フルールを。ギャレットは赤いレイピアを抜いた。
「キョウ!ここでやり合ったらいずれビーアゲハに見つかる!3時の方向に谷が深くなるポイントXがある。そこへ梅釈天を誘導しながら戦って!」
サーヤから送られた座標は、龍の巣と交戦中のビーアゲハから最も遠い狙撃ポイント。しかし、梅釈天に「場所を変えよう」と言ったところで無駄だろう。キョウは少しずつ梅釈天を指定のポイントへ誘導する必要がある。気が付いたらここに居た。この状況を作り出さなければならない。
霊剣フルールを両手に構え、反時計回りに梅釈天へ接近する。お互いの射程距離まではまだ遠い。上空では龍の顎により、ビーアゲハがまた1機、落ちる。その刹那、キョウは踏み込んだ。飛び込んだ勢いそのままに霊剣フルールを振り下ろす。頭部を狙った一撃は梅釈天の右半身を半身にスウェーさせるに留まる。キョウは追撃の手を休めず、前に出ている左半身へ逆袈裟斬りを放つ。2撃目は逆手に持った赤いレイピアによって阻まれた。バッド=バットは後方からの熱源反応をキャッチし、上空へ飛ぶ。放たれた熱源はサーヤによるミサイルの集中攻撃。反応に遅れた梅釈天を捉え、着弾と同時に赤い土煙が舞う。キョウとサーヤはまだ遠いポイントXを背に、バックジャンプで距離をとる。土煙が晴れ、視界は開けたが梅釈天は無傷。ビーアゲハの火力では梅釈天の装甲は抜けないようだ。
「殺気が無いな」
「勘違いだ。僕はお前を今日、やる」
サーヤを更にポイントXへ向け後退させ、キョウはサーヤを守るように間に入る。あとひとつ、谷を降りれば目標地点。
「魔錬精機ではない蝙蝠が梅釈天に勝てるわけないだろう」
「お前だって魔錬精機じゃないだろ。ただの錬精機同士。条件は互角だ」
今度は梅釈天が仕掛けた。レイピアによる刺突を繰り返し、こちらに前進してくる。キョウはそれらを上半身を背中に倒し、躱す。地面に背中が付く瞬間、梅釈天が踏み込んで来た腹を蹴り上げる。乱暴な巴投げは梅釈天を背中から地面に叩きつけた。間髪入れず梅釈天へ飛び掛かり霊剣フルールを突き刺す。頭部を狙ったそれは首を捻る梅釈天に躱されたが、2発、3発とマウントポジションで突き下ろす。この距離での長物は不利と判断したキョウは、霊剣フルールをサーヤへ投げると腰から手斧を2本取り出し乱暴に振るう。これには流石の梅釈天も全て躱すことは出来ず、次第に刀傷が増えていく。
「ぐううううぅ!!」
梅釈天が両の手でバッド=バットの肩をを抑えつけようとするが、2機は谷底へ滑り落ちながらもキョウの斬撃は止まない。梅釈天の背中の羽が摩擦で剥離し、舞う。2機は止まる。どうやら谷底へ着いたようだ。ポイントXへ辿り着いたのだが、今のキョウに回りを見る余裕は無い。マドカを引きずり出す。そのためにはコイツを今日倒す。
「サーヤ!フルールをこちらへ!」
キョウの突然の通信を受け、サーヤは霊剣フルールをキョウの頭上へ放る。クルクルと縦回転する霊剣フルールをキョウは視線すら合わさず、頭上で受取り梅釈天の胸に突き刺した。鷹の装甲を抜き、金属を突き破る確かな手応え。バチバチと漏電を知らせる嫌な音が響く。霊剣フルールを引き抜き、キョウは上空へ飛ぶ。
「蝙蝠、私の負けだ。だが、緋色研究が負けたわけではないぞ…!!」
「キラー・ペインを狙う後釜はマドカにしろ。いつでもやってやる」
「お前如きが、マドカだと…?調子に…乗るなよ…」
言い終わる瞬間、梅釈天の内部から爆発が起きた。緋色研究と言う言葉を聞いてから随分と時間が掛かった。だが、この日、確かに時代は動く。
梅釈天は噛ませ犬として設定していましたが、ギャレット君のキャラクターも相まって噛ませ犬以上の仕事をしてくれました。




