分隊
花の国が第二次龍の巣破壊作戦を軍事部から正式に発表。チコリはブリーフィングルームへメンバー全員を集めた。
「集まりましたね、始めましょう。おばさま。こちらへ」
司会席へエルビアンを呼ぶと、3つある長椅子の末席に居たエルビアンは杖をつきながら歩き、チコリの横に座る。
「皆さんご存じの通り、リッパー王子が動きましたわ。我々は部隊を2つに分け、彼の戦力と発言力を削りにいきます」
今までは一丸となって動いてきた国士無双隊を2つに割る。エルビアンという優秀な副官の存在は確かに大きいが、チコリが踏み込めた決定打は日々の生活を共にすることで、個々の特性を把握出来たことが決め手となった。
「3日後に予定される第二次龍の巣破壊作戦。妨害班の指揮は私がとりますわ。本部には嶺上開花を使います。メンバーは錬精機操縦士、ブリッジクルーのみで行きます」
「残ったメンバーは私のとこに来てくれるかい?本部はここの家屋を使おう」
キョウ、ルーク、サーヤ、エピロット工務店のメンバーが錬精機操縦士。それに加えライチ、グロウ、ジャルーがチコリの元に集まり、残った者はエルビアンの元へ集まった。
「艦長、PC3台借りていくよ、ディッシュ運んでおくれ」
戦闘チームを残し、マネーゲームチームは集落跡地へ。整備班長のディッシュはキョウにサムズアップを送り、キョウもそれに応えた。
広くなったブリーフィングでチコリは妨害作戦の概要説明を始める。
「今回の作戦の柱はキラー・ペイン。それを前提にまずはこちらをご覧下さい」
映し出されたスクリーンには龍の巣と敵の予想展開図。最奥に龍の巣。間に龍を挟みビーアゲハ隊。
「嶺上開花とキラー・ペインが欲しいポジションはここです」
チコリが指したのは最奥、龍の巣の更に奥。ビーアゲハ隊を龍と挟み込むつもりは無い様だ。
「相手の背中から討つことも考えました。しかし、万が一それが国士無双隊の仕業とバレてしまえば国際問題に発展しかねません。敵ビーアゲハ隊の索敵範囲外からの超長距離射撃。そのためのキラー・ペインです」
ルークは口笛を鳴らす。龍の巣近くにキラー・ペインを配置するということは、いつ龍の標的がキラー・ペインに変わるか分からない。いつも兄の安全を最優先に考えていた妹にどういった心境の変化があったのか。
「嶺上開花はキラー・ペインの更に後方で待機。主砲による狙撃も考えましたがキラー・ペインよりも遠くからの狙撃は効果が薄いと考え、今回は錬精機の運搬のみとお考え下さい。国士無双隊の隊列はこのようになります」
スクリーンを操作し、画面を切り替える。最奥に嶺上開花、次いでキラー・ペインとビーアゲハ。最前線にはハングリー・パンサーが配置されていた。バッド=バットは修理を終えているはずなのに配置図には居ない。
「幸い、敵はハングリー・パンサーを知りません。兄上が落としたビーアゲハ達をエピロット工務店の皆さんで破壊まで追い込んで欲しいのです。そうですね、出来れば野盗のように、囲み、乱暴に、残虐に」
チコリがこの日、1番の冷たい目で親方を見る。
「手負いの相手にいいんだな?元々、俺達は荒事は嫌いじゃないんだぜ?」
「戦場にスクラップの山を築いて下さいまし」
「艦長、私は?」
キラー・ペインと同伴するビーアゲハの操縦士、サーヤからの発言。
「サーヤは敵と同じ性能。つまり同じ索敵能力と考えています。敵の索敵範囲、龍の標的。どちらにも自分とキラー・ペインが入らない様、誘導をお願いしますわ」
「了解っ!ルーク様を狙撃ポイントへ誘導すればいいのね?」
「ええ。貴方が敵に捕捉されれば芋づる式に見つかってしまう。くれぐれも慎重にお願いしますわ」
お互いの索敵範囲外からの隠密行動。サーヤに託された任務は簡単なものではない。
「僕は?ハングリー・パンサーで出るのか?」
配置図にバッド=バットが居ないが、キョウはエピロット工務店の社員でもある。
「キョウさんはワイルド・カードです」
「ワイルド・カード?」
「対緋色研究として、バッド=バットでキラー・ペインの護衛に出てもらいます。しかし、緋色研究が動かない可能性もある」
緋色研究は神出鬼没。今回、魔錬精機が戦場に出るとは誰も公言していない。奴等が来ない可能性も充分にある。
「そしてもう一つ、もし、サーヤと兄上が捕捉されそうになった際、単独で最前線に出て下さい。自由を保障されたサヴァンの行動ならば花の国も何も言い返せません」
「自然を愛する花の国にあってはならない行動だ、軍を退け。とでも言えばいいのか?」
「苦しい言い訳ですが、国士無双隊が見つかるよりはマシです」
チコリは説明の締めに入る。
「出発は今夜。今回はキラー・ペインの土俵、地上戦です。ハングリー・パンサーも飛行能力を持ちません。空と違い、地形が敵にも味方にもなります。各自、そこを考え最終チェックをお願いしますわ」
ルークを残し、ブリッジクルーはそのままブリッジへ。操縦士はそれぞれ搭乗機の最終チェックへ向けて格納庫へ走り出した。
「エルビアンの影響かい?作戦が以前に比べてソリッドになってるように思えるね」
残ったルークは妹の変化に気付いていた。
「これが、最も敵の戦力を削り、最も安全だと考えました」
チコリは黄色いマントの第一ボタンを握る。
「それで良い。導いたのが俺じゃないのは癪だが」
ルークはチコリに甘い。以前、そう言ったのはサーヤだが、あながち間違いでは無い様だ。
エルビアンという優秀な副官を得て、チコリ艦長も思い切った事が出来るようになってきました。




