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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

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夜間作業

 嶺上開花(りんしゃんかいほう)の住居ブロックと空母ブロックの切り離し作業は深夜にまで及んだ。エピロット工務店だけでなく、錬精機の操縦経験のあるものはブリッジクルーだろうと容赦なく作業に参加させる。エピロット工務店の社員であるキョウもバッド=バットから工業用錬精機ハングリー・パンサーに乗り換え、親方の檄が飛ぶ中、久しぶりの現場作業に汗を流した。

「明日、マルセロさんが視察にくるそうなので、売れそうなものがあれば何でも集めておいて下さいね」

 艦長であるチコリもハングリー・パンサーに乗り込み、開いた操縦席から全員へ通信を入れる。

「キー坊、龍の甲殻、あれあんなに要るのかよ!?邪魔だろ?」

 作業中の仕事仲間からもっともな疑問が飛ぶ。

「あれは、売れば高価らしいけど、必要なんです。全部使うかはディッシュに聞いて下さい」

 整備室で戦闘用錬精機の修理をグロウと進めるディッシュから返信が入る。

「キョウが一回も壊さない自信があるなら半分でいいけど?」

「駄目みたいです!龍はとりあえずそのままで!」

 周囲から笑い声が沸く。皆、手を止めず親方の指示に従う。不慣れな作業に挑戦する者も居た。その際には親方が変わり、1回目は見本を。2回目は一緒に。3、4回目は作業者主体で。5回目は作業者だけでこなせるようになる者が大半。この指導力こそがエピロット工務店のメンバー全員が持つ「出来るようになるまで教える。出来ないのは教え方が悪い」というスペシャリト集団の土壌だ。

「みんなー夜食出来たわよー」

 三角巾を頭に巻いたイザベラが、トラックの荷台にジャルーと夜食を載せ駐車する。昼は事務員として、夕方からは調理助手働くイザベラも、国士無双隊になくてはならない存在だ。

「よーし、メシにしよう!切り離し作業はもう終わってる。食ったら片付けて終わりだ。片付け出来ない奴は怪我するぞ!最後までしっかりな!」

 作業員が車座になり、手ごろなスペースにそのまま座る。イザベラとジャルーが夜食を配り終わり、輪に加わる。

「この時間にこんなカロリー!ジャルー。最高ですわっ!」

 艦長とはいえ、育ち盛り、食べ盛りのチコリは頬いっぱいにタコスを頬張る。遊牧民の彼等は祈りの国の味付けも気に入ってくれたようだ。親方の周りにも人が集まり、今晩の作業の疑問点や改善点を話し合う。親方は口に物を運べずいつだって食べ終わるのは最後。これも何度も見て来た光景だ。

 夜も更け、片付けが終わるころには日付が変わろうとしていた。そろそろ戻ろうという雰囲気の中、嶺上開花の上空にヘリコプターが近づき、旋回停滞後、着陸。現れたのはスーツ姿のマルセロだった。

「流石、国士無双隊。仕事が早い」

 初めてマルセロを見る者へチコリが紹介する。

「皆さん、彼がエレクトニック青果店の社長マルセロですわ。エレクトニック青果店との約束は明日のはずでは?」

「チコリさん。もう日付は変わってますよ。時間の指定はなかったので文字通り飛んできちゃいましたよ」

「こっちの作業が終わってなければ、減額するつもりだったのでしょう?」

「バレました?」

「お生憎様。商品の用意は出来ていますわ」

 チコリの目線の先には住居ブロックがきっちり25区画。

「確かに。支払いは国士無双隊口座への振り込みが半分、キャッシュが半分。宜しいですね?」

「ええ。キャッシュは?」

「こちらに」

 マルセロが運び出したジェラルミンケース10箱をチコリは改め、口座も確認。合わせて108億クロム。過不足なく受け取った。

「ところでチコリさん。噂の大将はどちらに?」

「キョウさん、ご指名ですわ」

 呼ばれたキョウは車座から起立し、マルセロの近くに小走りで駆け寄る。

「君がキョウさんか。初めまして。」

「マルセロさんですね?ルークやチコリから話は聞きました」

「若いなぁ。この若さでこれだけの部隊を作り上げるなんて大したもんだ」

「僕は何もしていません。全てはサヴァンとみんなの力です」

「そのサヴァンに選ばれたのは、純度100%。君の力さ」

「そう言ってもらえると。僕からは何も言えないですよ」

「いや、仕事中すまなかったね。話せて良かった。夜遅くにお邪魔した。金絡みで困ったら私に連絡してくれ」

 マルセロはキョウに名刺を渡す。キョウは名刺を持っていないので返せる物は無く、頭を下げるに留めた。この名刺をいつか使う日が来るのだろうか。敷地が3分の1になった嶺上開花の自室のベッドでキョウは寝転びながら名刺を眺めた。

 マルセロさんの性格を含め、みんなに紹介したくて夜間作業となりました。皆さん、お疲れ様でした。

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