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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
祈りの国編

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この世の果てで愛を唄う

 マドカの運ばれた病院へ京が着いたのは警察から解放されてから30分後のことだった。

タクシーを使い到着した病院は静かで、白く、それが大きな西洋の墓標のようにも見えた。

夜間受付で事情を話すと緊急処置、蘇生処置中と答えられ京は自分に出来ることは何1つ思い浮かばなかった。何か変化があれば連絡してくれ、と受付の医療事務員へ名刺を渡す。

 受付の長椅子に座ると急激な眠気に襲われた。対局で脳を酷使し、雪崩のような出来事に京の脳は処理が追い付いていない。冷静な判断はもう出来ない。

 (マドカは、眠ることも起きることも許されないのに僕は勝手だ)

 京はこの時、眠ることを「悪」だとエラーを起こしている脳で決めつけた。勝負師は「悪手」には従えない。京は病院を後にし、歩き出した。座ること、とどまることを拒否すれば眠ることはないと判断した。

 歩くこと数分、着いたのは小さな公園だった。遊具も錆びかけたブランコが2つ、木製のペンキが所々剥げたシーソーが1つ。3人掛けのベンチが1つ。たったそれだけ。

 深夜の公園に来園者はおらず、京は力なくブランコに腰掛け、無意識に漕いでいた。錆た鎖が摩擦を嫌い、鳴き声を上げたが振り子運動は規則正しく、京の与えた力を伝播し、推進力へと変えた。風切り音が心地よく、目を閉じる。思い浮かぶのは今日の対局や、過去の対局、麻雀プロとして生きていた京ではなく全てマドカ色だった。

 「京ちゃんがタイトル獲ったらお祝いするね!こういう時、物欲無い彼氏は困るなぁ。あ!ネクタイにしようか、初タイトルのお祝いネクタイなんて今後の対局に使ったら縁起が良さそうじゃない。そうしましょう」

 「京ちゃんはRMリーグに選ばれると思う?私は選ばれると思うなぁ。だって20代の男性プロでレーティング2位だよ!1位の多井さんは女性絡みのスキャンダルも多いし。京ちゃんが選ばれなかったら男性はおじさんばっかりのリーグになっちゃうよ。私は観たくないかも」

 「今日ね、将棋配信してたら面白いコメントがあったの。天女ちゃんの旦那が羨ましいって。逆だよね。私は京ちゃんが旦那さんでとっても幸せ。毎日幸せ。今も、3分前も幸せ。きっと3分後も幸せ」

 「京ちゃん、なんで最強なのにチームの為に打ち筋変えたの?私は分かるよ。京ちゃん自分の最良以外の選択した時、薬指使って打牌するもの。チームの教科書になるってオーナーの意向は分かるけど。自分の成長も大事だと元、将棋指しは思うのです」

 「京ちゃん、あのね。自分のお小遣いで読書リーダー買ってもいいかな?これ以上本が増えちゃうと整理大変だから。2万円くらいなんだけど…2万円分本買えるのは分かってるんだけど、これ以上スペースとれなくて」

 「初めまして、天宮マドカです。今日は棋士と雀士のコラボ企画の解説役として呼ばれました。七尾さんは普段、将棋とか見ます?あ、そうですよね。自分の稽古が第一ですよね。本日は宜しくお願いします」

 「棋士と雀士の人狼ゲーム面白かったですね!次はVtuberも呼ぶみたいです。出演者の椅子とりゲーム始まっちゃいますね。ええ。うん。対局と普及が私達の仕事ですからこれも立派な普及ですよ。私も七尾さんが一番話しやすいので出来れば次回もご一緒したいです」

 「えぇ!?私年上だったの!?てっきり七尾さんが3つくらい上かとばかり。じゃあ今日から七尾君だね、私のことは天宮さんからマドカさんにしてもいいよ。特別」

 「七尾君より先にタイトル3つ獲ちゃった!これからは天宮3冠でも天宮女流桜花でも好きに呼んでいいよ。おすすめはマドカって呼び捨てかな」

 「七尾君と2人で出掛ける日が来るなんて思いもしなかったなぁ。恰好変じゃない?私、将棋ばっか指してたから流行りの服とかメイクとか分からないの、あ、でも美容院は先週行ったの!正直どう変わったかわからないけど努力だけは認めて!」

 「七尾君って不思議だよね、普段はぼーっとしてるのに。卓に座った瞬間、表情が変わるの。顔のパーツは変わっていないのに。本当に魔法みたいに。不思議。上手く言えないんだけど。私はその魔法にやられちゃった」

 「京君てさ、自分から手を繋ぐの苦手?嫌じゃなかったら私から手を繋いでいい?京君からが苦手だったら一生、私から手を繋いであげる。先着1名早い者勝ちだよ?」

 「結婚?うん。いいよ。そっかぁ私、世界一かっこいい旦那さんに世界一幸せにして貰えるんだ…じゃあ私は世界一可愛い奥さんになって世界一幸せにしてあげるね」

 目を開ける。思いだされるのはマドカと出会ってから今日までどんな会話をし、どんな笑顔を交わし、どんな触れ合いをしてきたか。その一色だけだった。

 ブランコの推進力を落とす。漕ぐことを弱めると、次第に振り子も小さくなった。足でブレーキをかけれるほどに小さくなった時、ふと、隣を見るともう1つのブランコに腰掛ける女性がいた。見た目年齢はマドカと同じ世代であろうか。小豆色のパンツスーツに白のカッターシャツ。薄手のブラウンのカーディガンを羽織っている。深夜なので表情は読めないがボブカットの髪の隙間からゴールドのイヤリングが光った。

 真夜中の公園で目を閉じ、一心不乱にブランコを漕いでいた男性といつの間にか座る女性。

 

 

この世の果てで愛を唄うはSSのゲームタイトルからです。

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