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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

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縁2

 エルビアンはキョウの求婚にも似た提案を受け入れ、出発の準備を始めた。エルビアンを手伝おうとも思ったが、この街にはまだやり残しがある。キョウはバイクに跨り、目的地までの僅かな距離へ発進させた。着いた先はキョウの職場の事務所。有給を使い切り、空けていた期間は短いが、随分と懐かしい感じがする。駐車場には荷物運搬用のトラックや作業に必要な錬精機、重機が並ぶ中、端の邪魔にならない位置にバイクを停め、意を決して門を開ける。

「お疲れ様です、親方居ますか?」

「あらぁキー坊。なんだか久しぶりな感じね。親方なら奥で商談中」

 迎え入れたのは事務員のイライザ。親方の奥さんでもある。現場には出ない彼女なりのさり気ない気配りに、キョウは随分と助けられた。入社初日、赤目のガキと現場で呼ばれていたキョウを次の日からキー坊と最初に呼んだのも彼女だ。

「はい、エピロット工務店です。ええ、ええ」

 イライザは首で受話器を固定し、伝票をまとめる右手を止めず、左手で電話に対するメモを取る。目くばせでキョウに「座ったら?」と促し、キョウは電話が終わるのを椅子に座って待った。電話が終わるより早く、奥の部屋から親方と見知らぬ日焼けした男性が出て来た。キョウに気付いた親方だが、まずは客を見送るとキョウとは向い合せの椅子に座った。

「キー坊、帰ったか。有給はもう無いぞ。明日からまた、こき使ってやるからな?」

 ガハハと大きく笑いキョウの頭をグリグリ撫でる親方。この裏表ない性格と、現場では率先して誰よりも早く作業に入り、汗をかく。そんな姿を毎日見ているから社員達はキツイ肉体労働にも耐えられるのだろう。

「親方。話があるんです。忙しいとは思いますが、聞いてくれますか?」

「なんだぁ、お前から話なんて珍しい。やっと社員になる決心でもついたか?」

 いつの間にか電話を終えたイライザが親方とキョウに冷たいお茶を淹れてくれた。イライザに礼を言い、一口飲むと全ての事情を話し、サヴァンの証である大いなる英知、梟のネックレストップを見せた。キョウの提案はこの会社をそのまま国士無双隊の下請けとして買い上げたい。この会社には錬精機を使った土木工事だけでなく、錬精機の修理、嶺上開花(りんしゃんかいほう)の改築、修復。ありとあらゆる工務とメカニックのスペシャリストの集団だ。これからの国士無双隊のバックアップに無くてはならない存在とキョウは考えた。

 親方は口を挟まず、キョウの話を最後まで聞くと、両手を組み天を仰ぐ。

「つまり、お前はてめぇの都合でこの会社を買い取る。そう抜かしてやがるんだな?」

 言葉の端々から怒りが伝わってくる。親方はキョウの頭にゲンコツを振り下ろした。

「馬鹿野郎が!この会社にはなぁ、この街に家族がいる社員だっているんだぞ?お前はそいつ等の気持ちを考えられねぇってのか!」

 社員の暮らしを第一に考ることは何より勝る正論。だが、だからこそ、キョウはこの素晴らしいスペシャリスト集団が必要だと考える。痛む頭頂部を抑えながらキョウは諦めない。

「他では駄目なんです。技術だけでも、心意気だけでも駄目なんです。僕はこの会社でお世話になっているからわかるんです」

「今更どんだけ褒めたって金積んだって駄目なもんは駄目だ。みんなこの生活に満足してよく働く。俺にその環境を壊す権利はねぇよ」

「それは分かっています。分かってはいるんです…」

「なぁキー坊。お前は赤目なのによくやってくれてる。それは俺だけじゃねぇ、仲間がお前の働きを認めてる。マドカって嫁さんとジルチで会えたのは確かに奇跡だ。だがよ、お前と一緒で守りたいものが俺にもあるんだ。必要としてくれるのはありがてぇよ。力になれなくてすまねぇな」

 話は終わりだと立ち上がる親方の前に立ちはだかったのは親方の嫁、事務員のイライザだった。

「あんた、ビビッてんのかい?」

 親方を見上げるイライザは上目遣いで親方を睨む。

「お前は黙ってろ」

「ウチには最高の仕事をする社員しか居ない。そう言ったのはあんただろ?この街を離れられない社員に会社を任せる。ここはそんな事も出来ないくらいヤワな会社なのかい?」

「黙ってろって!」

 乾いた音が事務所内に響く。親方の頬が赤く染まる。

「キー坊も大事な大事な社員だろ?あんたがやらないなら私がやる、2人でこの会社を立ち上げた時、私だって現場に出てたんだ」

 イライザの頬から涙が流れたが、拭うこともせず、親方を睨み続ける。

「今と昔じゃ錬精機の使い方だってまるで違う。お前じゃ何の役にも立てねぇよ」

 親方は社長室とプレート乗った机の電話へ向かい、どこかへ電話を掛ける。

「おう、俺だ。休みの日にすまねぇな。お前な、明日からここの親方やってくれるか?うん?大丈夫だ。何人か下につける」

 次々と電話を掛け終わると親方はもう一度、キョウの頭にゲンコツを振り下ろした。

「全員じゃねぇぞ」

 ぶっきらぼうな言い方にキョウは思わず吹き出した。今度はイライザがキョウの頭を撫で、抱きしめる。

「キー坊、良かったねぇ」

「はいっ!」

 キョウの祈りの国での日々に1日だって無駄な日は無かった。エピロット工務店はその日の内に役所へ届けを出し、親方は社長から会長になり、本社は現在地、子会社事務室を嶺上開花(りんしゃんかいほう)整備室とした。

キョウ君の過酷な肉体労働の伏線をようやく回収出来ました。親方の名前は決まっていますが、親方は親方だよなぁ…ってことでこのままだと思います。

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