縁
翌日早朝、ルークとチコリは経済自治区であるグレート・ゴーンマスへ出発した。残った国士無双隊の面々もそれぞれに与えられた作業は山ほどあり、いくつかのグループに別れ、現場へ散る。1人残されたキョウは住居ブロックにあったバイクに跨り、自分の街を目指す。キョウへ与えられた仕事は「国士無双隊に相応しいと思える人材の確保」昨晩寝る前に幾つか行き先を考えたが、まずは一番知り合いの多い街を目指した。
昼前に街に着いたキョウは自宅へ戻り、自室で図書館へ行っているであろう待ち人を待った。ほどなくして玄関が開くベルが鳴る。
「おかえりなさい。お目当ての本は見つかったみたいだね」
数冊の本を抱えるエルビアンは息子の帰宅にホッとした表情を見せた。
「おかえりはこっちの台詞だよ。連絡1つよこさないで。とんだ放蕩息子だ」
それでもどこか嬉しそうなエルビアンは自室へ本を運び、リビングへ戻って来た。
「昼食はまだなんだろ?」
腰にエプロンを掛け、昼食の準備を始めるエルビアンの背中に、キョウは何度かタイミングを伺い、決心し、切り出す。
「エルビアン、聞いて欲しい事がある。大事な話なんだ」
「大事な話は食事の後だ。前も言ったろう?」
エルビアンはキョウの急な帰宅に何か感じていたのだろう。「良い話合いは良い食事の後で」キョウの住むエルビアン家の家訓だ。その為に彼女は帰宅一番、昼食の準備を始めたに違いない。
暖かい昼食を済ました後の定番の紅茶を飲み、エルビアンはニコニコと何事も無かったように話を始める。
「さて、放蕩息子の話でも聞くかね」
キョウは花の国での緋色研究を含めた事情を話し、ここへ戻った理由も包み隠さず話した。
「単刀直入に言う。エルビアン。貴方の知識と経験が必要だ。力を貸して欲しい」
椅子から立ち上がり、頭を下げる。キョウがエルビアンに任せたいポストは整備班長、もしくは副艦長。メカニックの人員不足は深刻だし、副艦長にはルークが任されているが、彼は本来キラー・ペインの操縦者だ。その、どちらのポストでも最上の仕事をしてくれるのは彼女しかキョウは知らない。頭を下げたままのキョウにエルビアンが「ふむ」と一言置いて返答する。
「事情は分かったよ。力になってやりたい気持ちはある。でもね、私は70過ぎた老いぼれだ。いつ、お前さん達に迷惑掛けるかわからない。それくらい老いってのは脆いもんなんだよ」
エルビアンは自虐的に笑った。彼女の言わんとすることは尤もだった。環境も変わる。仕事も、生活そのものが大きく変わる。その体力が本人にあるかも分からない。人は必ず老いる。これだけはどれだけの知識と経験でもカバー出来るものではない。それでも、キョウは彼女が欲しかった。エルビアンに無断で彼女の部屋に入り、机の上に広げられた書きかけの設計図を乱暴に掻き集め、リビングに戻る。
「情熱は消えてないんだろ?この家で引きこもって設計図を幾ら引いても新しい錬精機は作れないよ。魔錬精機を超える錬精機。もう一度、目指してみないか?エルビアンが歩けなくなったら僕が車椅子を押す。食後の紅茶も僕が淹れる」
椅子から転げ落ちたエルビアンにキョウは手を差し出す。
「僕の幸せの為に貴方が必要だ。貴方の幸せの為に僕は必要だろうか?」
「ったく。レディーの部屋に無断で入った挙句、プロポーズかい?マドカに会ったら言っておくよ。お前の旦那はとんでもない人たらしだってね」
エルビアンはキョウの差し伸べた手を握った。その目は少女の様に輝いていた。
この親子はどこまで行っても親子です。キョウ君がどれだけ偉くなってもエルビアンには一生諭される。そんな関係を描いていけたらと思っています。




