貧乏暇なし、されど光明ありけり。
リッパー王子の追撃を振り切り、祈りの国の領空へ入ったのは夜の9時を回った頃だった。祈りの国、首都大霊峰は山岳地帯という地形の問題から、嶺上開花を安全に着地する敷地を持たず、結局、麓のバス停近くにある現在は稼働していない工場の敷地を一時的に借りることになった。いつ、花の国からの追撃や緋色研究の襲撃があるかは誰にもわからない。あくまでも今回は安全地帯に逃げ込み、準備期間を稼いだだけだ。祈りの国へ戦火を持ち込まない為には長居は出来ない。工場を借りた期間は10日間。この限られた時間で国士無双隊は次の目的地を決め、準備をし、出発しなければならない。暫定艦長であるチコリはブリーフィングルームに全員を集め、今後の方針を話し合う場を設けた。
「さて、問題は山積みですが、やれることからやりましょう」
調理師であるジャルーが、夕食を載せた銀のワゴンをガラガラ運び入れながらと遅れて入室する。
「食べながらで構いませんわ。今は時間が惜しい」
各々、手掴みで食べれる夕飯を摂りながらチコリの話を聞く。
「私達への脅威は現在2つ。花の国のリッパー王子と緋色研究。同時に相手にするには、国士無双隊の戦力では厳しいと言わざるを得ませんわ」
現在の保有錬精機は中破のバッド=バット、ビー・アゲハが5機、魔錬精機、キラー・ペイン。全機稼働出来たとしても、花の国本隊に太刀打ちできない。おまけに、キラー・ペインを出すということはいつ、緋色研究が来てもおかしくない状況を作り出す。八方塞がりとはこのことか。
「そこで、まずはフェン王子をトップに置いた花の国の一本化。つまり、リッパー王子の失脚を狙います」
国士無双隊を狙っているのは、あくまでもリッパー王子。フェン王子は敵意をこちらへ向けてはいない。
「それが出来たら、こんなことにはならなかったんじゃない?」
サーヤが食べ終えた軽食の紙袋をまとめながら、当たり前の疑問を口にする。
「敵の喉元で色々と工作するには危険すぎました。ですが、今は状況が違いますわ」
チコリも一口、サンドイッチを食べ、紅茶で流し込む。
「やりたいことは非常にシンプル。《買収》です。フェン王子を金の力で徹底的に援助する。逆に、リッパー王子の打ち出す政策を金の力で徹底的に妨害する。これだけですわ」
政治とは金集めと言い換えてもいい。その源泉を根本から破壊する。単純だが強力な発想だ。
「問題はその資金ですが。国士無双隊の運用に必要ない、嶺上開花のブロックを売却することで資金作りをしたいと考えておりますわ」
現在の嶺上開花には住居、商業、学校や教会等、「空飛ぶ街」そのままで運用している。ブロックとブロックを繋ぎ合わせ、街を形成しているのだが、本格的に空母としてのみ運用には必要ないブロックを全て売却しようとチコリは提案した。
「そんなの欲しい奴いるのか?」
キョウの疑問にもチコリは即座に答える。
「《グレート・ゴーンマス》。鉛筆からロケットまで。何でも売り、何でも買う。この街へ私が直接、交渉へ行こうと思っています」
「俺もチコリと一緒に行こう。チコリの見た目で相手に舐められては困る」
「兄上、私はもう13ですわ」
「世間でそれを子供と言うんだ」
不貞腐れるチコリの頭を撫で、ルークは諫める。
「その間、私達の仕事は?」
残った者を遊ばせておく余裕はない。自覚ある発言をしたのはライチだった。
「勿論、たっぷりと用意してありますわ」
チコリはブリーフィングルームのモニターを表示させ、各員に与える仕事を説明する。ブロックの切り離し作業、龍の死体の運搬。商品であるブロックの清掃、整備。錬精機の修理、売れるものと使うものの選別。街1つの断捨離をたった15人。期限は10日でやれと言うチコリに全員の顔が青ざめる。
「僕は?」
モニター上で仕事を割り振られていないのはキョウのみ。久しぶりの里帰りを許す暫定艦長でないことは薄々感じていた。
「キョウさんには特別な仕事をしてもらいますわ」
「特別な仕事?」
「国士無双隊に必要な人材確保です」
ようやく着いた安住の地、祈りの国。しかし、休む暇は無い様だ。
グレート・ゴーンマスは商業の英語、コマースをもじって付けました。




