母艦、嶺上開花。編隊、国士無双隊。
フラワーパレスを出て、街を抜けサード・ガーデンを目指すキョウ達に、街の住人達の反応は様々だった。フェン派の住人はルークとチコリの離脱を純粋に悲しみ、リッパー派の住人は花の国の戦力低下を嘆いた。何より、ルークとチコリは今回の作戦では最前線で指揮を執った。作戦成功で人気の上がった王族が作戦終了と同時に花の国を離れるということが、住人達に一抹の不安を与えたのはいうまでもない。キョウが2人を引き抜いたと思われても不思議ではない状況に、冷ややかな視線を送る住人も少なくなかった。
ファースト・ガーデンからサード・ガーデンへ入ると、ファースト・ガーデンへ帰投しなかった10名程の軍関係者に迎え入れられた。見知った顔もあり、オペレーターのライチや、休憩室でキョウを囲んだ女性兵士も居た。ルークは全員に、ファースト・ガーデンへ帰投し、リッパーの指示を仰ぐようにと言ったはずだが。闇討ちの可能性もあったが、そんな雰囲気では無い。彼等全員が何かを言いたいが、口に出していいものか。そんな困った顔をしている。ルークはそんな気配を察して、先回りした会話を展開する。
「君達、ファースト・ガーデンに嫌気でもさしたのか?」
俯き、返事は出来ない。ここでYESと言うことはリッパーに対する裏切りである。だが、NOと言えばルークはファースト・ガーデンへ帰れと一蹴するだろう。彼等の欲しい言葉をルークは選んだ。
「俺の下に着く気があるものだけブリーフィングルームへ来たまえ」
自由と自然を愛し、困っている人間は助ける。ルークの王としての片鱗を垣間見た瞬間である。その一言に人々はようやく顔を上げ、ライチは眼鏡の奥にある涙を拭き、サーヤと名乗る女性兵士は笑顔でキョウに近づいた。
「これから宜しくね、リーダー」
身体年齢は15歳のキョウよりも、若干身長の高いサーヤは横にしたVサインで右目を挟むように、奇しくもフェニックスポーズをとった。全く尊厳もあったものじゃない。あくまで彼等、彼女等はルークに着いて行きたいと思っている。早くも形だけのリーダーとなってしまったキョウは最後尾でサード・ガーデンのブリーフィングルームを目指した。
狭くない室内には8人掛けの長い縦長のテーブルが3個並びで各々、好きな席に座る。スクリーン前の主席用テーブルにルークとチコリが座り、キョウはその横で壁にもたれかかっていた。志願した者達全員の着席すると、チコリから説明が入る。
「みなさんの無言の英断は嬉しく思います。ですが、本当に宜しいので?このまま、私達に着いて来たところで何の保証も出来ません」
整備班と思われる作業着姿の40代の男性が回りを見ながら起立する。
「フェン王子もリッパー王子も極端過ぎるんだよ。俺達は潔癖症の集まりじゃない。本来は自由に生きる遊牧民だろう?」
これには全員が強く頷いた。どちらの言い分も分かる。考え方も悪くない。ただ、二人の王子は己の立場を明確にしたいのか、固執し過ぎているきらいがある。白衣を着た、医者と思われる痩せた初老の男性も立ち上がる。
「その点、ルーク王子とチコリ王女は前提に自然へのリスペクト、自由への責任を持っていらっしゃる。儂の求める本来の花の国の姿じゃよ」
各々、主張はあれどルークとチコリの考えに共感した人達であることは間違いなさそうだ。ルークはキョウに目をやる。
「サヴァンとしての意見を聞きたい。いいか?サヴァンとしてだ」
念を押すルークはキョウの司令官としての資質を問うようだ。今まで椅子に座らず、静観していたキョウが初めてこの部屋で話始める。
「僕達はこれから大きな力と戦わなければならない。花の国に居れば戦わなくてもいい相手とだ」
緋色研究の名前は出さずに3人の第一目標を話す。
「この話を聞いてファースト・ガーデンへ戻ることを、ここに居る誰も責めてはいけない。日々、平穏に暮らすのは僕だって望むことだ」
たっぷりと3分待ったが、退室するものは居なかった。ファースト・ガーデンへ戻ったとて、フェンとリッパーの権力争いは時間の問題だろう。であるならば、遊牧民らしく生きたいように生きる。花の国の国民らしい選択とも言えた。キョウは全員の意思を確認すると、頷いた。
「みんなの気持ちは分かった。ありがとう。ただ、ルークに着いて行きたいと考えている人達に僕が偉そうにするのは筋違いだ。自由意志の権利を持った志願兵として迎え入れたい」
全員から拍手が沸く。キョウの発言は志願兵だけでなく、ルーク、チコリ。全員の意思を最大限に尊重する結果となった。チコリが満足気に次の議題を提案した。
「3人だと必要なかったですが、もう15人。小隊と言うには聊か心許ない人数ですが、そろそろ名前が欲しいところですわね。花の国から離れるならサード・ガーデンも改名が必要ですわ」
この小隊の大多数はルークの求心力に集まった者達だ。全員の視線がルークへ向かう。
「おいおい、決めるのは俺じゃない。俺はキョウの下で自由にやらせてもらうだけだ」
ウインクしながらキョウへバトンを渡す。
「僕かよ…」
「折角なら、赤目らしい名前を頼むよ」
ルークからダメ押しが入る。逃げられないキョウは頭を振り絞り、閃いたのはやはり、前職の経験だった。
「この隊の名前は《国士無双》。意味は、国中の中で並ぶ者が居ない程、優れた人物。ここに居る全員がその名前にふさわしいと思う」
「国士無双隊。良いんじゃない?なんかカッコいいし」
「オペレーターとしては呼びやすく、分かりやすくていいと思います」
反対する者は居なかった。
「グッドネーミングセンスを発揮してくれた国士無双隊、総大将のキョウさんに、サード・ガーデンの改名もお願いしますわ」
チコリからの素早い追い打ちに、キョウは頭を痛める。もうどうにでもなれとやけくそに答える。
「本日よりサード・ガーデンは《嶺上開花》!意味は山の頂で咲く花!どうだ!?」
立て続けの無理難題にキョウは逆ギレ気味に答え、勢いで押し通そうと必死だ。
「意味は悪くないが、長くないか?」
ルークが水を差す。コイツ。勢いで押し通そうと思っていたのに。
「じゃあお前が考えろよ…こっちは少ないボキャブラリーの中で絞り出したんだぞ」
「嶺上開花でいこうか。考えるのも面倒だ。慣れも箔もそのうち着いてくるだろう。不満が多いようならまた、改名すればいい」
結局、採用されてしまった。自分達の居場所に名前が付いたことに喜ぶ搭乗員達。チコリが咳払いを一つし、キョウへ促す。
「それでは総大将。嶺上開花の最初の目的地へ指示をお願いしますわ」
「これより、嶺上開花は祈りの国、大霊峰を目指す。各員、発進準備を進めてくれ」
キョウとルークを残し、クルー達は駆け足で各々の持ち場へ散る。
「100点満点だよ、司令官殿」
「次からはお前がやれよ」
キョウとルーク。お互いを認め合った瞬間であった。
10月23日は小説家になろうへログイン出来ない1日でした。翌日、無事ログイン出来てほっとしています。




