報酬会議は踊る。されど進まず。
多数の戻らない犠牲を出したが、龍の巣破壊作戦は成功と言えるだろう。格納庫に収容されたバッド=バットは満身創痍。キラー・ペインの銃身は焼き付き、ビー・アゲハ達も五体満足な機体を探す方が難しい。
キョウはルークから話があると言伝を受けていたが、肝心のルークがファースト・ガーデンへの報告で手が離せないらしく、手持ち無沙汰にサード・ガーデン内を徘徊し、救護室やブリーフィングルームは人が多過ぎた為スルーした結果、行き着いた先は操縦者休憩室だった。
あちこちから、無傷の操縦士達が今日の作戦について、己の戦果を誇らしく語る声が聞こえる。フリードリンクの冷蔵庫から冷たい紅茶を取り出し、カウンターの1席に座る。やっと落ち着ける。キョウのそんな思いをブチ壊したのはビー・アゲハ隊。あっという間にキョウの座るカウンターは囲まれた。
「凄かったな少年!」
「お前が居なけりゃ俺達は全滅していたかもしれん!」
「私が銀龍にやられる!って思った瞬間、スパーンだもん!かっこ良かったー!機体も操縦者もイケメンとか素敵!」
「あの機体、祈りの国の最新型か!?祈りの国は永世中立を名乗りながら、こんなに力強い錬精機を作っているだなんて!」
「やっぱりあれか?サヴァンで赤目だと祈りの国じゃ有名人なんだろ?モテモテか?」
「チコリ様の命令で地上の援護に俺も行ったんだ。あの赤い龍は何者だ?」
「霊剣フルール、見てきていいか?」
喝采と冷やかしと質問が矢継ぎ早に飛ぶ。キョウはどこまで答えていいのか分からず、「サヴァンとしての機密事項もありますので…」とお茶を濁した。サヴァンと言うブランドの効果は絶大で、アルコールでも入っているのかと、疑いたくなる操縦者達も「それなら仕方ないか…」といった空気に変わる。キョウは初めてサヴァンに感謝した。カウンターは満席になったが、これ以上野暮な質問は無かった。紅茶が丁度半分になる頃、艦内放送が流れる。
「現時刻を持って、龍の巣破壊作戦は終了とする。なお、本艦は警戒解除後、巡航態勢。これよりファースト・ガーデンへ向かう。諸君、良くやった。ファースト・ガーデン到着まで各自、休憩とする。キョウ・エルビアン・ナナオは艦長室へ来るように。以上だ」
放送を聞き、席を立ち艦長室へ向かう。ノックの後に「どうぞ」と短くチコリの声が聞こえたのを確認し、入室すると広くない個室は奥の正面にルークが座る椅子と黒い机。手前にも黒いソファーが2台とガラステーブルが配置しており、チコリはソファーに座っていた。
「掛けてくれ。ファースト・ガーデンに着いてしまってからでは、落ち着いて話す機会を作るも難しい」
ルークの指さすソファーにキョウは腰を下ろした。
「まずは龍の巣破壊作戦完遂おめでとう。君は事前評価以上の働きをしてくれた」
「事前の取り決めでは歩合制だったな。報酬は期待して良さそうだ」
「銀龍2体、双頭の金龍1体。君が倒した。当然の報酬だろう。好きに持っていくがいい」
「そうさせてもらう。祈りの国の大霊峰へ運んで欲しい」
大霊峰からディッシュのガレージに運ぶ方が手間は増えるが、ディッシュの個人情報を花の国に提供することはためらわれた。
「構わないよ。チコリ、手配を頼む」
「兄上、運送料はどうされます?」
「勿論、輸送を希望したキョウ持ちだ」
「まてまて、運送料?聞いてないぞ」
「物を運ぶにはお金がかかる。キョウさんの居た日本という国は無料で何でも運んで下さるので?地上から龍の死骸の引き上げ賃。荷物の大きさ、重さを加味し、大霊峰までの空輸代金、締めて350万クロムになりますわ」
払えるわけがない。キョウが朝から晩まで汗だくになりながら得る報酬は月に20万クロム。そのうち半分はエルビアンに生活費として納めている。残った給料もバッド=バットの修理代にほとんど持っていかれているのが現状だ。
「一括は無理だ。一筆書く。利率はそちらの言い値で構わない。分割にはならないか?」
「なりませんわ。花の国は遊牧民。私達がこの大陸を離れた時、どうして支払いが出来ましょう」
「チコリ、あまりキョウをいじめてやるな。そうだな。キョウにはもうひと働きしてもらおう。その報酬が運送費だ。どうだい?」
「最初から、こうするつもりだったんじゃないだろうな?」
「心外だな。キョウにとっても悪い話じゃない」
大袈裟に驚くルーク。しかし、キョウには選択肢が少ない。ディッシュの悲しむ顔を飲めばこの話は2秒で終わりだ。
「仕事の内容は?」
「サヴァンの徴兵権限を使って俺とチコリをキョウが新しく作る小隊に組み込んで欲しい。それだけだ」
ルークの提案は何とも不思議なものだった。
タイトルは「会議は踊る、されど進まず」から。有名なウィーン会議の揶揄ですね。
また、「2秒で終わりだ」は陰陽座の名曲「卍」の台詞から。




