マドカ再び
全ての龍を地に落とし、残った龍の巣を破壊すれば任務完了となる。破壊工作を任務とした桔梗隊以外のビー・アゲハ達のうち、負傷した機体はサード・ガーデンへ帰投し、数少ない無傷の機体は桔梗隊に合流。桔梗隊のフォローに回った。ルークの目が必要なくなった黒いビー・アゲハ。チコリ機がバッド=バットに近づく。
「霊剣フルールの龍殺し伝説、しかとこの目に焼き付けましたわ」
「僕も驚いている、まさかここまでやれるとは思っていなかった」
「それでも赤い鷹には遅れをとった」
「痛いところを突くね。ルークの援護が無ければ、穴空きチーズにされていたかもしれない」
「その兄様が話があるようです。サード・ガーデンでお待ちですわ」
「了解。チコリは先に戻っていてくれ。僕は龍の巣破壊を見届けた後に行く」
チコリと別れ、キョウはバッド=バットを地上に着地させた。祈りの国の緑豊かな大地に勝るとも劣らない、四季折々の大小様々な花が乱れ咲く、美しい花畑がどこまでも続く。
「居るんだろ?索敵レーダーは誤魔化せても、殺気は消せないみたいだな」
大きな松の木から影が伸び、ゆらりと姿を現した紅孔雀。
「梅釈天をやったのは君だよね?」
懐かしい声だ。もう2度と聞けないと思っていた。この世で1番好きな声だ。
「梅釈天?」
「赤い鷹の錬精機だよ。ギャレット君が黒い蝙蝠と緑の魔錬精機にやられたって」
「ああ、間違いない。そんなことより、僕が分からないのか?」
「君、誰?」
少し幼い感じはあるが、声は間違いなくマドカだ。聞き間違えるわけがない。キョウはバッド=バットの操縦席を開け、生身の姿を晒し、紅孔雀に呼びかける。
「キョウだ、日本で愛し合い、夫婦になったろう?」
「キョウ…?夫婦…?ごめん。分からない。何でだろう?君と話していると頭が痛いの…」
日本でよく聞いた。マドカが将棋で敗戦後、砂を噛む思いで感想戦をしていた時と同じ声だ。
「お願いだ、操縦室を開けてくれないか?」
お互いの顔を見れば。藁にも縋る思いでキョウは懇願する。しかし、キョウの願いは届かず、紅孔雀の操縦室は開く気配を見せない。
「魔錬精機でない君は私の敵ではないわ。でも、この頭痛の原因は君?だとすれば緋色研究とは関係ないけど消えて欲しいの」
紅孔雀は両手に小太刀を構える。これ以上話し合いをする気は無いらしい。キョウも慌ててバッド=バットの操縦室を締める。
「マドカ!聞いてくれ!僕は君の敵じゃない!」
「頭が痛い!胸が苦しい!もう喋らないで!」
紅孔雀は子供が駄々を捏ねるように小太刀を振るう。キョウは右手でフルールの握りを掴むも、抜けない。バッド=バットの両肩に2本の小太刀が刺さる。
「…!!」
操縦室まで伝わる痛みと衝撃、だが、叫びたい気持ちを必死で殺した。彼女の頭痛の原因がキョウの呼びかけであるのならば、声を出すわけにはいかない。胸の操縦室を守るように動く右手でバッド=バットの左肩を掴む。一方的な暴力はどれくらい続いただろう。マドカの斬撃が止んだ時。バッド=バットの機体には数えきれない刀傷で傷つき頭部、両腕、肩からは金属のフレームが見え、漆黒の翼は1枚しか残っていなかった。
「どうして…?」
「…」
キョウは無言を貫く。紅孔雀も小太刀をだらりと下げ、これ以上攻撃をする意思は無い様だ。
「キョウさん!!」
上空から無数のビー・アゲハを引き連れ、チコリのビー・アゲハが接近してくる。サード・ガーデンへ到着が遅れたのが心配だったのか、紅孔雀の反応をキャッチしたのか。
「…もう2度と私の前に現れないで」
紅孔雀はその場を音もなく消える。最高位精霊、光の為せる屈折率を利用した完全消失、名を夢幻。レーダー妨害の完全上位互換とも言えるそれは視認もレーダー探知も無効化した。
「消えた…??」
チコリはモニターを凝視するも、先程まで点滅していた地点に反応は無い。ビー・アゲハは着地し、周囲を索敵するがやはり反応は無い。そこにあるのはボロボロになったバッド=バット1機だけだった。
「チコリ、ありがとうでいいんだな。うん、ありがとう。僕は。僕も彼女も無事だ。今はそれを喜ぼう」
「彼女?」
「いつか紹介出来るといいな。とても素敵な人なんだ」
こうして龍の巣破壊作戦は幕を閉じた。
花の国編、序破急で言うならば序盤終了です。




