三千世界の蝙蝠を殺し
赤い鷹と相対するバッド=バットの武器は霊剣フルール一本。中、遠距離戦に引きずり込まれたら勝ち目は無い。キョウは1歩、また1歩と間合いを詰める。
「銀龍沈黙!残り2匹ですわ!」
チコリからの通信はキョウにとっても朗報だが無視した。今は目の前の赤い鷹を倒す。それだけに集中する。キョウは一足で間合いを詰め、上段からフルールを打ち下ろす。赤い鷹はいとも簡単に躱し、レイピアを一突き。射程距離はキョウの方に分があり、浅い。表面を傷つけるにとどまり致命傷には至らない。そして距離をとると、2機は空中で円を描くように周回する。
「君はマドカ・ナナオの何なんだ?」
意外にも声を掛けてきたのは赤い鷹からだった。先程の会話に少なからず興味を持ったか。
「僕にとってマドカは、かけがえのない大切な人だよ」
「彼女は赤目だ。ジルチに知人等居ない」
「生憎、僕も赤目でね。出身も同じ。彼女は日本ではちょっとした有名人なんだ」
マドカの万が一の身を案じ、キョウとの関係性は隠し、あくまで一方的な知り合いとする。
「貴様も赤目か、ならば私と共に来るか?」
赤い鷹からの提案は意外なものだった。
「僕が緋色研究に?そもそも、緋色研究とは何だ?」
「知っているだろう、全魔錬精機の破壊だよ」
「そんな事をしてどうする。魔錬精機は祈りの国では守護神として祀られる存在だ。国民が許すわけがない」
「お前が赤目なら話は早い。魔錬精機は地球における抑止力、核と同じだ。魔錬精機を持つ国は意見を押し通し、魔錬精機を持たざる国は武力をチラつかされ、飲むしかない」
確かにこれまで見た魔錬精機2機はいずれも、一般の錬精機と一線を画す性能だ。
「私達赤目は地球で核の先を知っている。だからこそ、ジルチで同じ過ちを見過ごすことが出来んのだよ」
「未来から来た預言者気取りか。祈りの国は対話を選んだぞ」
キョウは赤い鷹の上から言うモノ言いにカチンと来ていたが、あくまで挑発に留める。
「預言者は言葉だけだ。私達は違う。実行する。力ずくでもだ」
「それを日本じゃ空気読めないって言うんだよ」
「平和ボケした日本人らしい発想だな。私の生まれた国は内戦が絶えない、明日の命も補償されていない所だった。そんな私が世界を導けるかもしれない。天命とはこのことか!」
「勘違いだ。力の上書きの先は破滅だ。アンタ、名前は?」
「ギャレットだ。ギャレット・オースマン」
「ギャレット。事情は分かった。悪いがここから先は行かせない」
キョウはフルールを右手一本で下段に構え、赤い鷹もレイピアをバッド=バットの頭部目指し構えた。
先程と同じく、先制はリーチに勝るキョウだった。下段からの逆袈裟斬り。上体を捻り、躱す赤い鷹の顔をバッド=バットの左手で掴む。間髪入れず赤い鷹の頭部に膝を叩きこむ。2発、3発と入れたところで赤い鷹がバッド=バットを振りほどき、闇雲にレイピアを突いてくる。精度の欠いた刺突を簡単に躱し、フルールを一閃。横薙ぎで赤い鷹の左脚部を地に落とした。赤い鷹からバチバチと内部構造のショートする音が激しく鳴る。
「ここまでだ。勝負はついた。帰ってマドカに伝えてくれ、キョウもジルチに居ると」
キョウはフルールを鞘に納める。片翼を失った戦闘を経験済のキョウにとって、片足を失った赤い鷹に勝機が無いことは分かっていた。
「我々の信念はこの程度では折れんよ!」
赤い鷹は明らかにバランスを失いながらも突貫。しかし、背後から一撃の弾丸が赤い鷹の頭部を打ち抜いた。
「話は聞かせてもらった。魔錬精機操縦者として君を見過ごすわけにはいかない」
ルークの2発目の弾丸は赤い鷹の右脚部を正確に射抜いた。勝ち目を完全に失ったと察した赤い鷹はキラー・ペインの有効射程外へ逃げるよう飛ぶ。キョウは追撃せず、見逃した。
「キョウ。良いのかい?」
「欲しい情報は少なからず入った。これ以上時間を掛けるとビー・アゲハ達も持たないだろう、援護に向かう」
「視野が広いね。戦士よりも指揮官向きだ」
キョウは龍の巣へ向け空を駆ける。そろそろ作戦が始まって1時間が経とうとしている。操縦者達の疲労と集中力が心配だ。キョウの操縦者の強みの1つに強靭なスタミナが挙げられる。日本にいた頃、頭をフルに使う対局を日常としていた彼にとって、1時間集中を続けることなど造作もないことだった。
三度、戦場へ舞い降りる。「よく持っている」キョウは呟くと3匹目の銀龍に向け参戦する。そのスピードはこの戦場の誰よりも速く、力強かった。
戦いはまだ、終わらない。
赤い鷹の機体名は「梅釈天」と言います。作中で紹介する流れにならなかったので…操縦者のギャレット・オースマンはイスラエル出身の野球選手の2名の名前から拝借しました。




