キラー・ペイン
銀龍だった物は2つに割れ、断末魔と共に地に落ちた。フルールを鞘に納め龍の巣へ向かう。30m超えの龍の巣の上空で改めて目標を見た。チコリから通信が入る。
「龍の巣Aの解析が終了しましたわ。目標は龍の巣Bへ移動しました」
「龍の巣の破壊は?」
「予定通り桔梗隊が取りつき、破壊工作中です」
キョウは足を止め、読みを入れる。相手が獣とはいえ生き物である以上知能、或いは本能に従って行動するはずだ。ビー・アゲハ達がキョウとチコリを追い越して龍の巣Bへ向かう。
前進する味方機とは違いキョウは上空へ飛ぶ。キョウの読み通り事が運ぶとまずいことになる。
「チコリ、周囲の反応は?」
バッド=バットよりも索敵能力に優れた装備を積んでいるチコリは戦闘空域を常に監視している。
「味方機以外は生体反応が3つ」
マドカはまだ出てこないか。魔錬精機が待機しているサード・ガーデンへ奇襲を掛けるならビー・アゲハが出張りサード・ガーデンが空になったこのタイミングだと思ったが。
案外、我慢強いじゃないか。キョウは盤上を俯瞰で見る。サード・ガーデン、龍の巣達。そして自分のいる位置。キョウの出した結論はもう一歩押すことだった。バッド=バットは重力の力を借り、目標を斜め下に浮かぶ龍の巣Bと定め加速する。戦況は芳しくなかった。1小隊は全滅。1小隊は破壊工作中。半分の戦力で2匹の龍を相手にするビー・アゲハ達は明らかに劣勢であった。
「こちら遊撃隊、バッド=バット。ビー・アゲハ各員へ。1匹は僕が引き受ける。桔梗隊が終わるまで堪えてくれ」
キョウの発言は先程、銀龍を1撃で仕留めた様を見ていたビー・アゲハ達にとって説得力は充分にあった。もう一度、銀龍と今度は正面から対峙し、フルールを抜き半身に構える。
先制は銀龍だった。口を開け、頭から突っ込みバッド=バットを噛み砕くか如く上下の牙が襲う。サイドステップで躱し、すれ違いざまに一閃浴びせたが手応えはなかった。浅い。
振り返る銀龍の頭にバッド=バットは後方宙返りを決め踏みつける。銀龍の頭に乗った形になったバッド=バットは間髪入れずフルールを突き刺すが、銀龍は首を捻り躱した。突きを外した勢いを殺せずバッド=バットは地面に向け落下。漆黒の翼を広げ姿勢制御とるも上空から銀龍の口から炎が襲う。
(躱せない)キョウは防御姿勢をとるが炎がバッド=バットを焼くことは無かった。
「全員、私の射線に入るなよ」
ルークの声と共に炎の塊は消滅した。サード・ガーデンの画像を見ると緑色の巨大なカブト虫のようなフォルムの1本角の魔錬精機がスナイパーライフルを構えていた。間髪入れずに龍の巣へ超長距離からの射撃を放つ。1発撃つ毎にサード・ガーデンをしっかりと噛んだ、かぎ爪状の足部が反動で揺れる。
放たれた弾丸は寸分違わず龍の巣の中心部を射抜く。3発目の狙撃が着弾したところで龍の巣は爆発四散、4つに別れ地面に着く頃には桔梗隊の仕掛けた爆弾により、粉々になった。
「助かったが防御専念じゃなかったのか?」
「君を守ったろう?私は自然も人も愛している。これ以上はやらせんよ」
「博愛主義か」
「ただの気まぐれさ」
魔錬精機キラー・ペインの援護射撃により、自由を得た桔梗隊は白菊隊へ合流する。このまま押し込めると判断したビー・アゲハの群れは攻勢に出る。キョウも上昇、再度、銀龍と相対する。
不意打ちでやった前の個体に比べてコイツは賢く、慎重だ。キョウは動くことが出来ない。銀龍の方もキョウを危険と判断したのか、睨みつけてくるだけで動きは見せなかった。膠着状態続く間にもう一匹をビー・アゲハ達が仕留めれば打開出来る。だが、戦局を動かしたのはチコリの一言だった。
「未確認錬精機確認!サード・ガーデンに向かっています!」
(来たか、思ったより待たせるじゃないか)キョウは銀龍に背を向けサード・ガーデンへ反転。銀龍は深追いせず、ビー・アゲハ達相手に苦戦しているもう一匹へ向かった。全力疾走でサード・ガーデンへ向かうキョウはルークへ通信を入れた。
「約束通り、そいつは僕の獲物だ、龍の巣から離脱する」
「良いだろう。君は充分にやってくれた。私はビー・アゲハ隊の援護に回る」
「チコリはルークの援護に。狙撃手の目になってやれ」
「はい。兄上、座標をこちらへ」
チコリのサポートを受けたキラー・ペインはより正確に射撃を行い、確実に銀龍へダメージを蓄積させる。サード・ガーデンの正面を陣取るキョウの15m前に、遅れて機体が到着する。赤のカラーリングは変わらないが紅孔雀ではない。赤い龍の甲殻ではなく、頭部に鳥の姿を持つそれは恐らく鷹がベースだろう。鋭い嘴と翼よりも羽に近いものを羽ばたかせ空中に停滞した。
「緋色研究だな?狙いは魔錬精機か?」
外部チャンネルでキョウは問い掛ける。赤い鷹からの返答は早かった。
「如何にも。魔錬精機打倒の邪魔をするなら消えてもらう」
声から察するに、男性の操縦者はバッド=バットを脅威と感じていないのか淡々と答える。
「マドカ・ナナオという名前に聞き覚えは?」
赤い鷹の目が見開くのを見て臨戦態勢に入ったとキョウは感じた。フルールに手を掛ける。
「知らんね」
「ダウト」
両者の距離は一瞬でゼロになり激突する。キョウはフルールを、赤い鷹は細身のレイピアを振るった。鍔迫り合いは五分。いや、大剣であるフルールに対して、細身のレイピアで互角に持ち込んだ相手の方が若干有利か。サード・ガーデンに居座るキラー・ペインに干渉させず、この赤い鷹を拿捕する。キョウは操縦と同時に、目標遂行に向けて思考のパズルを高速で組み上げた。
龍の巣討伐戦、中盤突入です。




