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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

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討伐戦

 龍の巣討伐作戦当日、民間人をフィフス・ガーデンへ移動させ、龍の巣へ空中移動中のサード・ガーデンは緊張に包まれていた。チコリとキョウは格納庫(ハンガー)で機体の最終チェックを作業中。バッド=バットの隣に並ぶのは今回、チコリが使用する錬精機《ビー・アゲハ》。バッド=バットに合わせ黒にカラーリングに塗装した錬精機は蜂の骨格を使い、本来ならば腕の鋏(ハサミ)と尾の毒針をメインに戦う機体でが、チコリは情報伝達と状況把握に徹するので武装は外され、代わりに通信用のバックパックを背負う形だ。自分の機体のチェックを早々と終わらせたチコリはバッド=バットのチェックも手伝ってくれた。

「このセッティングは誰が?」

 キョウよりも小柄なチコリは狭い操縦室を苦にせず、感嘆した様子で尋ねる。

「バッド=バットの持ち主だよ。コイツは借り物だ」

「セットアップ画面を見るだけで分かります。このセッティングを施した人は変態です」

「そこは否定しない。ゲロ吐きながら全力疾走出来る男だ」

「そういう意味ではないのですが…まぁいいでしょう。貴方の強さの一端を見た気がします」

「ところでルークの魔錬精機は?」

「兄上はサード・ガーデン上で守備専念ですからね。準備万端です」

 チコリの目線の先には灰色のシートが掛けられた機体が1機。恐れくこれが魔錬精機だろう。

「魔錬精機の名前は?」

「名は《キラー・ペイン》。上位精霊《生命》と契約しています。祈りの国のル・セレーネと違い、正真正銘、花の国が造り上げた珠玉の逸品です」

 

「本艦はこれより戦闘空域に入る。各員イエローシグナル。第1種戦闘配備」

 ルークの声がサード・ガーデン内に放送され操縦士達はそれぞれ愛機に乗り込む。チコリもバッド=バットから降り、ビー・アゲハへ乗り込んだ。

「ご武運を」

 バッド=バット内にチコリの短い通信が飛ぶ。今回、チコリとキョウだけの個人回線、サード・ガーデンからの全体、個人回線を並行して走らせている。

「これより龍の巣殲滅作戦を開始する。各員の奮起を期待する」

 開戦の合図と同時に、サード・ガーデンから出撃を援護するけん制射撃が絶え間なく行われた。

 「白菊隊、出撃。続いて桔梗隊、出撃。桜花隊、青薔薇隊、1番、2番発進カタパルトへ」

 ルークの命令で白いカラーリングのビー・アゲハが7機空へ飛び立ち、龍の巣へ向かい加速する。紫色のカラーリングに塗り上げた同数のビー・アゲハも続いた。

「桜花隊、青薔薇隊、出撃。バッド=バット、チコリ機、発進カタパルトへ。私はこれよりキラーペインに乗り込む。オペレーターの指示に従え」

「オペレーターのライチです。これより2機の発進をサポートします。以降、本部からの通信は私が担います」

 事前に挨拶は済ませていた女性。ライチから抑揚の無い声が飛ぶ。ピンクと青が空に色づき、加速の残光を残し目標へ向かう。キョウはバッド=バットを1番カタパルトに乗せ、発進の合図を待った。

「バッド=バット、どうぞ。続いてチコリ機、どうぞ」

「バッド=バット、キョウ・エルビアン・ナナオ出ます」

「チコリ機、いきますわ」

 発進カタパルトからの強烈な加速の補助を受け2機は接地感を失い、空へ。キョウは姿勢制御モニタを睨みタイミングを見定め漆黒の翼を広げ機体の安定を確認した。斜め後ろのチコリ機もキョウよりやや遅れ、ビー・アゲハの透明な翼を広げ安定飛行に入る。ルークの言う通り、チコリの腕もなかなかのものだ。

「全機の発進を確認。これより龍の巣Aへ。5km奥の龍の巣Bへの侵入と流れ弾には留意すること」

 ライチから通信が入り、肉眼で小さな石のような物が次第に大きく、鮮明に映る。映像で確認済だが、改めて見る龍の巣は半径30mの巨大な隕石のようだ。赤茶色のそれをゆっくりと回遊する銀色が1匹、大きさは錬精機よりも一回り大きい、巣の中にいるであろうもう一匹と併せてバッド=バットのモニタは捉えた。先行したビー・アゲハ達が回遊する銀の龍に向け射撃を開始する。各個撃破を良しとする今回の作戦、1匹を巣から剥がし、28機の蜂の群れで一斉に襲い掛かる。

 銀龍は敵意を察知すると射撃を意に介さず、空を泳ぐように巣から離れ接近、交戦を始める。接近されたビー・アゲハは銃を捨て、近接用の鋏で巨大な銀龍の鱗に噛みつく。鱗に傷つけることは出来るが切断には至らない。銀龍から流れる鮮血が空に幾つもの赤い尾引く。相手の戦力が未知数だと判断したキョウはバッド=バットを濃い雲の中に身を隠し、現在の戦況を観察。まずは見(けん)から入った。

「行かないのですか?初手に乗るのは兵法の常套(じょうとう)だと思いますが」

 チコリから通信が入る。

「まだだ。相手の手の内が見えるまではじっと目を伏せて好機を待つのさ」

 現在、戦況は拮抗している。このまま蜂達が押し切る流れもあるが、その逆もあり得る。この拮抗は長く続かない。天秤が傾くまで息を殺して待った。蜂の群れに襲われ、埒(らち)明かないと判断したのか銀龍は更に上空へ飛翔し、全長10mの姿を縦に広げ、大気を吸い込み長い腹を膨らませる。

「熱源反応!!」

 チコリとライチから同時に通信が飛ぶ。銀龍の口から横薙ぎに吐かれた炎が蜂達を襲う。銀龍の飛翔に追従していた機体は炎に包まれた。なおも銀龍は単発の炎を吐き、各個撃破に向け休む間もなく炎を浴びせ続ける。何機もの錬精機が空中で爆発。龍の腹は以前に戻り、ビー・アゲハに接近。今度は強靭な顎(アギト)で頭から足先までを一噛みで食い潰した。

「青薔薇隊全滅。桜花隊、白菊隊の支援へ回れ」

 ルークからの命令にピンクの蜂達が白の蜂の後ろへ構える。均衡が崩れたと判断したキョウはチコリに通信は入れず、バッド=バットを加速させ、銀龍の視界に入らない様、雲の中を飛び龍の巣と銀龍の背後にポジションを取った。

 霊剣フルールを抜く。実戦は初めてだがキョウに不安は微塵も無かった。シャムルから託され、ディッシュと練り上げたこの機体そのものがキョウに根拠の無い自信を与えている。

「行こうか、空の精霊」

 キョウはフルールを構え、銀龍の背中に向け最大速度で接近。射程距離に捉えると左手に持った手斧を銀龍へ投擲。反応し、振り返る銀龍の右目に両手に持ち替えたフルールを突き刺す。間髪入れずキョウは頭から尾まで一刀両断。銀龍の返り血が雨の様に降り注ぎ、漆黒の機体を赤く染めた。

「さぁ、攻撃開始だ」

 キョウは龍の巣へ反転、銀龍の血を靡(なび)かせ飛ぶ。半壊した蜂達も陣形を組み直し追従した。

 霊剣フルール。その龍殺しの伝承は、証明された。

開戦です。この後もしばらくバトルパートが続く予定です。

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