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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

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我、空と共に有り、龍を断つ剣也

 霊剣フルールがディッシュのガレージに空輸されたのは翌日のことだった。龍の巣殲滅作戦に間に合わないかもしれないと思っていたキョウの心配は杞憂に終わり、現在はバッド=バットの左腰にディッシュの手によって収納されている。現在のバッド=バットは修理も終わり、祈りの国陽動作戦の時に使用した爆弾をオミットした状態なので武装は霊剣フルールと手斧が2本。相変わらず射撃武装は搭載していないが以前よりも心強いラインナップとなった。

「しっかしお前がサヴァンとはねぇ。祈りの国でサヴァンってお前だけらしいぜ?」

 作業に一区切りついた所でディッシュは木製の机でココアを飲みながら雑談を始めた。

「他国にはいるのか?」

「俺の知っている限りじゃ剣の国の餓狼団の団長だろ、芸術の国の深淵の歌姫もか。そのくらいしか思いつかん」

 フルールと一緒に送られ、シャムル自らキョウの首に掛けられた梟をモチーフにした銀のネックレストップ。今も身に着けているこれがサヴァンの証となるらしい。授与式典を辞退したキョウにはどこにでもあるアクセサリーの様に見えるが本人が思っている以上に貴重な品のようだ。

「まぁサヴァンの名に恥じないように精進するよ」

 やはり、実感の沸かないキョウにはこう言う他に無かった。

「それよりさ、フルール乗せた後のバランスはどうだ?以前に比べて重量が増した分、どうにも当たりが出ねぇ」

 フルールは左腰に差しているため左右のバランスがどうしても悪くなる。ディッシュは右荷重重視のセッティングを繰り返し試したがキョウはPCシミュレーターですら納得するセッティングはまだ出せていない。

「いっそ背中にマウントしちゃうとかはどうかな?」

「アホか、そんなんしたら前屈関連動作全滅じゃねーか」

 なるほど。確かにキョウが観て来た時代劇に背中に刀を差すサムライは居なかった。

「うーん、僕が右利きって都合上、左脇にあるのが一番しっくり来るんだけど」

「そこは確定だろ。抜けない剣に意味なんてねぇ。問題は左右バランスだって何回言えばわかるんだよ。地上型ならまだ良いけどコイツは飛行タイプだ。セッティング出ないと常に左回りで錐揉み飛行になっちまうぞ?」

「フルールを使う時だけ射出してもらうとかは?」

「何処から?誰が?ジョイント動作は?」

「なんか…ごめん」

 キョウもPCシミュレーターから離れココアを飲むディッシュの座るテーブルに腰掛ける。右に重量を足せばバランスは取れるが軽量スピード型のバッド=バットの強みを殺してしまう。それでは意味が無い。何か抜本的なアイデアが必要だった。ディッシュはテーブルの周りをグルグルと歩き回った。そして、徐々に左側によれる。バッド=バットの気持ちにでもなっているのだろうか。膝立ち状態のバッド=バットに近づきフルールを見上げ握りの刻印を読み上げる。

 「なぁ、お前の前の御主人はどんな錬精機だったんだ?俺のバッド=バットじゃ満足出来ないか?」

 ディッシュはメカニックとしては既に1流の領域に足を踏み入れている。しかし、相手は祈りの国の本物の軍隊ですら再起動を躊躇い、霊安した霊剣フルール。一筋縄ではいかない。メカニックとしてでは足りない。錬精機ビルダーとしての閃きが必要だった。

 テーブルでこれまでのテスト結果を芳しくない顔で眺めるキョウから素朴な疑問がディッシュに飛ぶ。

「これじゃあ龍退治すら怪しいな。紅孔雀が出て来る以前の問題だよな」

「今のバッド=バットじゃ紅孔雀が出て来た瞬間に捕捉されてなます切りにされんぞ」

 会話の中でディッシュに稲妻のような天啓が舞い降りる。頭の中に高速で設計図が書きあがっていく。

いける、計算をし直す必要もなくいける。フルールを自在に操るバッド=バットを明確にイメージ出来る。何故、こんな簡単な事を今まで思いつかなかったのか。ディッシュは小走りにキョウに駆け寄ると興奮した表情そのままにまくし立てる。

「精霊だ、Eシステムを書き換えよう。フルールには今の砂塵の精霊じゃ駄目だ。こいつが望んでいるのは空なんだ!」

 ディッシュはフルールの握りを指差す。確かにフルールは空を望んでいる。

「そんな簡単にいくもんなのか?」

「俺を信じろ」

 バッド=バットに乗り込みEシステム書き換えの準備をあっという間に終えてしまった。以前、一晩かかるとか言っていた気がするが、集中した時のディッシュもまた、異形なのかもしれない。

 キョウもバッド=バットの操縦室に乗り込む。初めて錬精機を操縦した時と同じ。狭い操縦室の後ろには窮屈そうなディッシュが居る。モニターにはEシステムの文字が浮かんでいた。

「契約する精霊は分かっているな?あの時よりも強く想え。フルールで龍を穿つバッド=バットを想像しろ。紅孔雀と刃を重ねるお前を具現させろ。今までのお前を超越しろ。必要なのは力じゃない、想いだ」


 頷きシャムルから、祈りの国から受け取った銀の梟を一度握った。

 

 「キョウ・エルビアン・ナナオの名に於いて汝との対話を求める」


 「中位精霊 空 解放(リリース)」


 Eシステム…クリア。ドライバー…キョウ・エルビアン・ナナオ。クリア。霊剣フルール装備認識。

モニタ上に浮かぶ文字達を見てキョウは背中に親指を立てた。

「お前すげぇよ!」

「お前の方がすげぇよ」

 今度はキョウが後部へ下がり、ディッシュが以前との変更点を確認する。

「全てノープロブレム。フルールとよっぽど相性が良いんだな、空の精霊がバランス制御も担ってくれている。パワーもスピードも段違いだ。関節モーターの焼き付きが心配だったが空冷も強化されてる」

「他に問題は?」

「操縦者だな。無茶しかしない奴にバッド=バットが愛想尽かさないか心配だ」

 軽口を叩く余裕が出てきた2人は操縦室から出ると木製のテーブルでココアとコーヒーで乾杯した。雑談に花を咲かせ、話はディッシュの恋愛事情や果てにはマドカとの馴れ初めまで聞かれた。雑談を打ち切ったのはキョウの携帯電話の呼び出し音だった。画面には登録こそしていたが初めてのコンタクトだった。

「チコリか?」

「サヴァン授与おめでとうございます」

「相変わらず耳が早いな」

「作戦の概要がようやく固まりました。近々、伺いますわ」

 それだけを伝えるとチコリは電話を切った。こちらの準備は整った。チコリがどんな草案を持ってくるか。決戦の日は近そうだ。

バトル物の定番であるパワーアップ回はなるべく丁寧に書きたかったので1エピソード使って書きました。

今後はお昼に投稿をしていく予定です。

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