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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

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34/58

サヴァン

 キョウは再び大霊峰を訪れた。ここのところ、仕事の休みは私用で全て潰れ、ゆっくりと休む暇も無い。それでもキョウは自分の置かれている立場、やるべき事を理解し前進する道を選んだ。

 今回の案内人も気心の知れたライカにお願いした。彼女はキョウ以上に多忙なはずだが、侍女チームにクロックが加わったことにより、実務の消化は以前よりも格段に効率よく回っているらしい。

 国防隊(ホーリーオーダー)の駐屯地入り口で待ち合わせと言われ、別れ道の度にあちこちの人に聞きながらなんとか辿り着いたのは待ち合わせ時間5分前だった。もはや見慣れたパンツスーツの女性は腕時計に目を落とし辺りを伺っていたので駆け足で近づく。

「ライカさん。何度も済まない。待たせたかな?」

「私も今来たところです」

「日本の待ち合わせの常套句だ」

 二人は短い再開の挨拶を交わし、再び地下の長期保存(モス・ボール)室へ向かう。霊安されているル・セレーネを抜け、いくつかの見慣れぬ錬精機、火器の並ぶ中、鉄床を歩く乾いた音が2人分響く。

 ライカが足を止め見上げた。キョウもそれに倣うと目の前には錬精機の上半身ほどの長さの鞘に納められた剣が拘束具に縛られながらも堂々と鎮座していた。キョウは鞘に納められてなお剣の静かな威圧感に圧倒され、恐怖さえ覚えた。

「これが過去、龍殺しに使用されたと伝わっている霊剣フルールです」

「その時の戦果は?」

「龍を屠(ほふ)ったとも言われていますが証拠はありません。なにせ魔錬精機はおろか、錬精機がやっと実戦配備された頃の伝承にも似た昔話です。精霊大戦の予感から各国の緊張が徐々に高まっている中、祈りの国としては錬精機の実力を他国にアピールする為にはこの剣をもって龍を退治した、と当然言いたいわけです。交戦したのかすら今となっては分かりません」

 ライカの客観的かつ、過不足ない説明は充分合点のいくものだった。しかし、キョウは感じている。この剣の内側から放たれる隠し切れない圧力を。鞘から覗く剣の柄は美しい宝石の装飾がなされ、握りには彫刻で《我、空と共に有り、龍を断つ剣也(つるぎなり)》と記されていた。

「ライカさん。この剣を譲り受けたい」

 キョウは臆する事なくこの剣を欲した。ライカは頷くとキョウに自分の携帯電話を差し出した。

「教皇様に繋がっています。キョウさんがこの剣を望んだ時に話があると」

 携帯電話を受け取り耳に当てる。

「キョウさん。お久しぶりです。シャムルです」

「シャムルさん。お久しぶりです。何度も大霊峰にお邪魔してその度にライカさんを借りて申し訳ない」

「貴方はこの国の恩人です。無下にするわけにはいきません」

「そう言ってくれると助かります」

「さて、霊剣フルールについてですね。祈りの国に争いは不要です。ですから譲渡することに問題はありません。ただ、キョウさん。貴方自身に問題はあります」

「僕に?」

「はい。貴方はゲストとはいえ今は祈りの国の国民です。争いを嫌う祈りの国の国民と自然と共に生きる花の国と共闘し、龍を打とうとしている。この意味が分かりますか?」

 シャムルの言いたいことはキョウにしっかりと伝わった。

「シャムルさん。それでも僕はやらなければならない。祈りの国の国民として相応しく無いと教皇が判断したのならば追放してもらっても構わない」

 キョウは引かない。ここで引けばマドカへの道は断たれる。

「結論を急がないで下さい。あの人に似てせっかちですね」

 ここで初めてシャムルはクスクスと笑った。しかし、一変しシャムルはひとつ咳払いをした。

「キョウさん。よく聞いて下さい。貴方の人格と戦績を鑑(かんが)み《サヴァン》の勅命を与えます。サヴァンに選ばれた者の制限は教皇でも出来ません。つまり、貴方が何処で何をしようと自由です。貴方の考える正義の為に行動することを許しましょう」

「シャムルさん…」

「私の独断が間違っていなかったと、これからの貴方の行動で証明してみせなさい」

「ディッシュが惚れるわけだ」

「期待していますよ」

 キョウは携帯電話をライカに返した。自由には責任が伴う。それは日本で自分の判断で勝負を続けていたキョウには嫌というほど経験していた。

「ライカさん。シャムルさんの許可をとれた。フルールをディッシュのガレージに運んで欲しい」

「承知致しましたキョウ様。私のことはライカと」

 サヴァンの位は大司教より上だ。恭(うやうや)しく頭を下げるライカの行動は祈りの国で生きる彼女にとって当然の行為であった。

「やめて下さい。僕にとってライカさんはライカさんだ」

「いえ、そういうわけには」

「じゃあサヴァンから命令!ライカさんは以前のまま僕に接すること!」

 キョウはライカの手を強引に取り握手をした。キョウはライカにとても感謝している。彼女が居なければ絶対にここまでは来れなかった。頬を赤らめたライカは頭を上げる。

「…キョウさん。教皇様が貴方にサヴァンを与えた意味が今、少し分かった気がします」

「突然過ぎて実感なんて無いけどね」

 キョウはおどけてみせたが内心、覚悟はとうに決まっていた。マドカへと続く道はか細いながらもまだ繋がっている。

 

《サヴァン》はロシア語のサヴァから。意味はフクロウでフクロウは大いなる英知の象徴だったりします。

サヴァンにはサヴァン性症候群の意味も含めてます。特定の分野に極めて突出した才能を発揮する人のことを指しています。キョウ君の場合、操縦、麻雀、正義といったところでしょうか。

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