龍殺し
キョウが自分の街に着き、門番の居ない入り口からバイクを返却しにディッシュの待つガレージに着いたのは夕飯時をとうに過ぎた頃だった。ガレージの隅でも目立つ小太りの長髪青年は排気音で察したのかキョウとバイクの無事を歓迎した。帰り道に音声通話でディッシュにはあらかたの事情は説明済だ。
バイクを所定の位置に停め、木製のテーブルに腰掛けるとディッシュから缶コーヒーが投げ渡された。
「収穫はあったみたいだな」
「半歩前進ってところかな。ディッシュ、次の作戦にバッド=バットが必要になった」
「修理は終わってる。次の相手は花の国の魔錬精機と龍退治だって?よくまぁ次から次へと。分相応って知ってるか?」
「それでもやるしかない。獣との戦闘は初めてだ。まずは一般常識の鉄人からレクチャーを授かろうかな」
「固い、速い、強い」
「おいおい」
「事実だ。錬精機相手みたいに足を破壊したら沈黙、なんてことは無い。奴等は自分達が敵と認識した相手には本能ままにどちらかが死ぬまで戦い続ける」
キョウは日本に居た時のことを思い出す。どんなに毟っても逆転手を狙ってくる連中。確かに厄介そうだ。これ以上ディッシュに余計な心配をかけるわけにもいかない。これはキョウが単独で選んだ戦いだ。前回とは違う。
「ディッシュ。ありがとう。お土産は確約出来ないが龍の甲殻、持って帰ることを期待していてくれ」
キョウはバッド=バットのレンタル料として金銭ではなく作戦成功の暁には花の国へ戦利品の要求。それをディッシュに差し出すつもりだ。これにはディッシュも飛びついた。
「親友、絶対成功させろよ。オークションでは買わせる気のない金額かパチモンしか出回らねぇ。ル・セレーネとバッド=バットの戦闘記録を観て俺がどんなに歯痒い想いをしたか…」
どうやらキョウが思っている以上に龍の甲殻とは貴重品のようだ。ル・セレーネと紅孔雀。立て続けに接敵した為、イマイチ実感が沸かないがそういうものらしい。
ディッシュに別れを言い、自宅へ徒歩での帰り道、キョウは大霊峰のライカへ電話を入れた。ル・セレーネの甲殻が龍ならば、過去祈りの国の戦力で龍殺しを成功させた事実があるということだ。ライカはほどなくして電話に出た。
「もしもし、キョウさんですね。電話の予定はなかったはずですが。どうされましたか?」
「ライカさん。先日は助かりました。ありがとう。今日は別件なんだ」
キョウはライカに花の国による龍の巣への作戦参加することを説明した後、過去の祈りの国による龍殺しの詳細を求めた。
「残念ながら私の知識ではキョウさんの希望には添えかねます。ご存じの通り我が国の魔錬精機には龍の甲殻が使われています。しかし、これは精霊大戦の戦後報酬で各国が分配したものです」
「つまり、祈りの国で龍殺しの経験はないと?」
「私の知識では、と言いましたよ?私の敬愛する司令官。貴方のお母様にお話しを聞いてみて下さい。きっと力になってくれるはずです」
ライカの意外な提案にキョウは礼を言い電話を切った。確かにエルビアンは過去、大霊峰で最高技術顧問を務めていた過去がある。ル・セレーネのメインメカニックを任されていたことから理解は深いかもしれない。キョウはエルビアンの待つ我が家へ足を早めた。
「ただいま」
「おかえり。夕飯は食べてきたのかい?」
ジルチに来てから何度、この会話を繰り返しただろう。キョウの最も安心できる空間は間違いなくここだ。エルビアンはいつもの笑顔を絶やさずキョウに紅茶を差し出す。
「夕飯はまだなんだ。でも、その前に聞きたいことが」
「ご飯を食べてからにしよう。腹が減ってちゃいい話は出来ないよ」
エルビアンはキョウの話を遮り夕飯の準備を進めた。キョウは従いエルビアンを手伝い程なくして2人で温かい夕飯を囲む。今晩のメニューはキョウの大好物。メキシコのタコスに酷似した祈りの国ではポピュラーなメニューだった。キョウはピリ辛のソースを好み、エルビアンはマイルドなヨーグルト味のソースを好んだ。育ち盛りのキョウは5個も食べ、エルビアンは2個に留めたところで夕飯は終了した。
「で?話があるって?」
「うん。今日のレッド・フィクションから色々ありすぎて」
「穏やかじゃないねぇ」
キョウはエルビアンに今日ここまで起きたことを包み隠さず説明した。心配はかけたくなかったが、それ以上に嘘を吐きたくなかった。エルビアンは時折、相槌を打ちながらキョウの説明を全て聞いた。
「花の国が読めないねぇ。龍の巣は確かにジルチの人間、動物、獣にとって厄介だ」
エルビアンの説明によれば龍の巣とは龍が交配期に入るとペアで作る縄張りのことらしい。このペア縄張りは2匹の龍で1個の縄張りを持ち、侵入する者は何であれ破壊する。問題は巣が何処に作られるかだ。チコリからその情報はまだ届いていないが、エルビアンの推測ではいずれかのガーデンの航路上に巣を張ったはずだと私見を述べた。しかし、花の国は自然と共に生きることを選んだ国である。相手が自然の産物であれば静観するのが通常の花の国のやり方だ。そこがエルビアンの思考に疑問点を与えた。
「他国のキョウに協力要請するのも気になる。キナ臭いねぇ」
過去何度も助けられたエルビアンの慧眼をもってしても不安要素が拭い切れない。花の国がどういった意図を持っているのか。それが分からない以上、今のキョウに出来ることは無かった。
「ライカさんが龍殺しに関してエルビアンに聞けと言っていたけど?」
「あの小娘、余計なお節介だけは1流だね」
エルビアンは言葉を選び紡いだ。
「祈りの国が精霊大戦で勝利側に入れた要因の1つさ。龍殺しの剣《霊剣フルール》。私が大霊峰にいた頃に長期保存されている。今はどうだか分からないがル・セレーネと同じで未だに安置されているはずだ」
少しづつ、朧気ながらキョウはやるべき事が見えてきた。チコリからの連絡は未だに無いが、準備期間と考え次の目的地を再びの大霊峰と定めた。
キョウ君、ディッシュ君、エルビアンのトリオは勝手に喋ってくれるのでとても書きやすいです。
投稿予約リベンジは果たして成功しているのか。出来れば毎日12時に投稿したいと思っています。




