依頼
チコリの案内でフィフス・ガーデンの中心部へ向かう。ガーデンの中はキョウの住んでいる街とさほど変わらず、家畜の飼育や畑も見えたことから、このガーデンである程度の自給自足が可能なようだった。
移動可能な街。それがここに足を踏み入れたキョウの印象だった。
ガーデンの中心には他の住居よりも一回り豪奢で大きな建物があった。恐らく、ここがチコリの住居だろう。勝手知ったるといった様子で入室するチコリにキョウも続いた。てっきり使用人の出迎えがあるかと思ったが、そんな人物はついぞ現れずチコリは多くの部屋の中から1室へキョウを案内した。10人は収まる長い机が目を引く室内でキョウを椅子に促すとチコリも対面に座った。
「さて、どこからお話しましょうか」
切り出したのはチコリからだった。彼女に聞きたい事は色々とあるが世間話をする間柄ではない。キョウは本題から詰めることにした。
「緋色研究について知っていることがあれば。何でもいい」
「まずは貴方が知っていることを話すのが筋ではなくて?」
たった一言の会話のキャッチボールだがチコリは話の主導権を渡さない。花の国の第五王女と名乗ったのは伊達ではない。見た目以上にしたたかな少女だった。《お前は教えて貰う立場だ。分を弁えろ》。彼女はそう言ったのだ。
キョウは深く息を吐く。この手の相手に下手な駆け引きは悪手だ。キョウはマドカ、紅孔雀の固有名詞と関係性を伏せこれまでの経緯を説明した。
「親しい友人であろう人物が緋色研究を名乗ったと。それで?」
「確かめたい。本当に彼女が僕の知っている彼女なのか」
「それが貴方の目的ですか」
チコリは立ち上がり冷蔵庫から冷たいお茶を出してくれた。話が長くなる合図だとキョウは受け取った。
「私が持っている緋色研究の情報を1部開示しましょう。彼等の目的、戦力、人数は不明です。ですが、彼等の出現パターンには規則性があります」
「魔錬精機が出撃した戦場に彼等は現れます。そして、彼等の錬精機は魔錬精機と遜色ない力を有しています」
チコリの言っていることは合点がいく。紅孔雀と初めて会ったのはキョウが魔錬精機ル・セレーネに蹂躙されている最中だった。
「祈りの国の魔錬精機は地下で長期保存中と聞いていますが?」
「耳が良いんだな」
「そこで提案です」
チコリの筋書き通りに会話が進む。キョウも敢えて流れに乗った。
「我が国の魔錬精機が近々出撃予定です。祈りの国の国防隊を半壊させた腕。もう一度振るってみません?」
コイツ。どこから知っていた。どこまで知っている。少女の見た目に騙されてはいけない。コイツは花の国の交渉役だ。だが、ここで断れば話はそこで終わりだ。キョウに選択の余地は無い。しかし、あっさりと乗るのも駄目だ。相手の譲歩をギリギリまで引っ張る。
「魔錬精機に手も足も出なかった僕が役に立つとは思えないが」
「貴方が思っている以上に飛行タイプの錬精機は貴重ですよ」
彼女は紅孔雀が出てくる保証はしない。報酬も出さないが手を貸せ。そう言った。キョウは相変わらず拒否権を持ち合わせるわけもなく、今は手掛かりがこれしかない。か細い蜘蛛の糸は掴んだ。
「断る理由がない。やらせてもらう」
「話が早くて助かります」
「で?花の国の魔錬精機を出すくらいだ。相手は?」
ここでキョウはようやく相手と同じ会話の土俵に立つ。チコリもそれを察したのかこれまでの高圧的な態度を崩した。
「相手は《龍の巣》。害獣駆除に参加してもらいます」
チコリは害獣駆除と簡単に言うが言葉から想像するに相手は龍。花の国の魔錬精機が出ること、ル・セレーネや紅孔雀の甲殻に使われていたことから生半可な相手ではないだろう。それでも前進はした。キョウはチコリと連絡先の交換を済ませ、フィフス・ガーデンを後にした。
フィフス・ガーデンはキョウが退出したのを確認すると音も無く飛び立った。もしかしたらチコリの研究所訪問の理由はキョウに接触する為だったかもしれない。
チコリの設定は「しっかり者の妹キャラ」です。言葉遣いがブレているのはキョウ君にどこまで素を見せるか頭の良い彼女が伺っているからです。名前はSFC「半熟英雄」の将軍から。




