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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
花の国編

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30/58

確信

 キョウは朝一番、始発のバスで大霊峰を目指した。街の入り口からバスで約3時間。

大霊峰は山の頂にあるが故に線路や空路が発達することなく、陸路を選ぶのが最もポピュラーだった。始発だからか大霊峰への用事がある者がそもそも少ないのか車内へ乗り込むと客は誰もおらずキョウは一番後ろの席に座り、初給料で買った携帯電話を使ってライカに来訪目的のメッセージを送った。

 全く景色の変わらない石畳をバスは一定のスピードで大霊峰を目指す。途中、いくつかの停留所を通過したが、乗り込む客は皆無だった。普段の現場仕事で早起きには慣れているが、石畳の揺れがキョウに眠気を誘い、抗う理由も無いので眠気に従い入眠した。

 キョウが目を覚まし、携帯電話の時刻を確認するとバスに乗り込んでから3時間は経っていた。相変わらず車内はキョウと運転手しかおらず、外の景色は以前とは一変して狭く、曲がりくねった山道を登っているようだ。

 「起きました?もう間もなく着きますよ」

 キョウが起きたのを確認したのか運転手から車内アナウンスで説明され、キョウは手を挙げるを返事とした。ライカからもバス停で待っているとメッセージがあり、間もなく着くと返信しておいた。

 目的地のバスロータリーは何台か無人のバスが停まっていたが閑散としていた。おかげで迷うことなくライカを発見することが出来た。乗車賃を支払い運転手へ礼を言い下車するとライカはこちらへ向かって歩いてきた。今日は執務用のローブではなく上下紺のスーツに髪をつむじの辺りで1つにまとめ、いかにも仕事が出来る女性という印象を与えた。

 「お久しぶりです。大霊峰へようこそ」

 「急に変な頼み事をしてしまってすまない。今日は宜しくお願いします」

 ライカの先導で歩きながら挨拶を交わす。すれ違う人達はキョウの赤目が珍しいのか露骨にジロジロと見ることは無かったが気になるようだった。

 大霊峰の正門を抜け、幾つかの廊下を曲がり中庭を抜け国防隊(ホーリーオーダー)の屯所に着いた。キョウ1人では「もう一度、正門からここに来い」と言われてもとても出来ない。それほど大霊峰の敷地は広大で部署が多い。

 屯所の敷地だけでもかなり広く隊員宿舎、模擬戦闘訓練室(シミュレーター)、整備室、格納庫(ハンガー)、開発室と、ここだけでディッシュの通う工学学校以上の規模だ。

 「ル・セレーネは処分が決まるまで地下で長期保存(モスボール)中です」

 地下へのエレベーターへ乗り、地下3階で降りると、純白の翼を2枚失ったル・セレーネは拘束具に固定されながら起立状態で沈黙していた。

 「事前に連絡を頂いていたので起動は済んでいます。こちらへ」

 拘束具に添えられた螺旋階段を上り、操縦室へライカは乗り込む。ル・セレーネも単独シートだったのでキョウは操縦室の外から覗き込む形になる。

 「欲しい情報はル・セレーネと赤い機体の音声ファイルでしたね」

 「そうだね。事前の取り決め通りデータの受け渡しや録音はしない」

 ライカは頷きモニターを細い指先で手早く操作すると目的のファイルをキョウに聞こえるように流した。

 全ての音声ファイルが流れ終わるとキョウは確信した。紅孔雀(べにくじゃく)と名乗った赤い機体の操縦者を。どういう経緯で僕達はこうなってしまったのか。日本最後の最悪の夜を味わった自分には喜ぶべきことだと頭では理解しているが、欠けたピースだらけのパズルを見せられても腑に落ちない感覚。

 「ありがとう。大霊峰まで来た甲斐があった」

 「お安い御用です」

 「迷惑ついでにもう一つだけ。《緋色研究》と名乗っているが、この組織について知っていることがあれば教えて欲しい」

 「初耳ですね。他にも幾つかありますが」

 「他はいいんだ」


 ライカとキョウは地下の格納庫から屯所を抜け再び正門のあるエントランスへ戻って来た。

 「教皇様に会って行かれますか?」

 「僕と紅茶を飲む時間は彼女には無いさ。ディッシュが恋煩いで食事の量が減ったけど痩せる気配は一向に無いと伝えておいてくれれば充分だよ」

 「彼らしいですね」

 

 ライカと別れキョウは再びバスに乗り込み、自宅へ帰ったのは夕方と差し支えない時間だった。もう慣れた集合住宅の我が家の扉を抜ける。

 「ただいまー」

 「おかえり。大霊峰はどうだった?」

 「観光に行ったわけじゃないからね。収穫はあったよ。やるべき事も見つかった」

 「やるべき事?」

 「緋色研究という組織の中にマドカが居る」

 「マドカってのはあんたの嫁さんだろ?死んだって聞いていたがなんでまた」

 「分からない。分からないから確かめに行きたいんだ」

 「そうだねぇ、私も爺さんがどこかで生きているって考えたら会いに行くと思う。当てはあるのかい?」

 「緋色研究って入り口で既に手詰まり。大霊峰で情報が集まりやすい立場のライカさんでも知らないらしい。でも、恐らくマドカも赤目だ。何か関係していると思う。まずは、以前話してくれたレッド・フィクション。ここから当たってみようと思ってる」

 レッド・フィクションとは以前、エルビアンが話してくれたゲストの研究施設の総称だ。長年、研究成果が芳しくないことから、今は予算が削られ施設としては機能しておらず、好きものの集まりだと聞いている。

 「まぁ無難な選択だね」

 「次の休みにレッド・フィクションへ行ってくる」


 その後、キョウはエルビアンと夕食を楽しみ、ライカに礼のメッセージを送ると明日からの仕事に備えて普段よりも早く床に着いた。

 新章突入です。次のキョウ君の行き先に幾つか候補はありましたが、キョウ君が1番望んでいるのはここかな、と思い花の国編、開幕です。

 祈りの国編同様、楽しんで頂けると幸いです。

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