せめて、先導者らしく
シャムル達が大霊峰へ帰り3日が経った。今日は19時に大霊峰から国営放送を使い大々的な発表があるので時間の許す限り、ジルチに生きる全ての人はぜひ観て欲しいとあらゆるメディアを使い事前に告知がなされていた。
19時丁度、エルビアンの家のリビングルームのTV前にはエルビアン、休学中のディッシュ、仕事終わりのキョウが集まっていた。
TVには正装用の純白のローブに身を包むシャムル。一歩下がり、後ろにはクロック、ライカ、ニコが控えていた。会場の大霊峰内放送室はマスコミで満席のようだ。会見が始まる。シャムルは1度原稿に目を落としたが、正面のTVカメラに向かい語り始める。
「本日は祈りの国代表、教皇シャムル=ロアから幾つか発表させて頂くことがございます。いずれも重要な事でありますのでご清聴のほどよろしくお願いいたします」
カメラのシャッター音とフラッシュがシャムルを照らす。フラッシュが止むと再び語り出す。
「祈りの国は本日を以て永世中立国へと進むことを望みます。つまり、いかなる武力侵略や軍事同盟を望まず、行わない国を目指します。決定は投票権を持つ全国民の選挙が最終決定となりますので詳細は追ってお知らせ致します」
これには記者からの質問が矢継ぎ早に飛ぶが「質疑応答の時間は別に用意していますので静粛に」と言うクロックの一言で場内は静まり返る。TVを見ているエルビアンもこの発言には驚いた。
「随分と思い切ったねぇ」
「エルビアン。この場合、国防隊は解散か?」
「いや、あくまで自国の防衛として現状維持だろう。まぁ予算は大分削らないと誰も納得はしないだろうね」
「先生、魔錬精機は?」
「良くて完全停止、悪けりゃ解体が妥当なとこじゃないかね」
賛否はあるだろうが戦争で一番悲しむのは国民である。この大霊峰からの問いかけに反対する者は少数だろう。
水を一口飲み、シャムルは「続きまして」と短く区切り発表を始める。
「条例により現在、祈りの国で行われている門限制度、及び免罪符の販売、効果を全て廃止致します。これには条例法を治める大霊峰の決定が最終決定となりますので、明朝より執行となります。関与していた教会関係者には事前に告知が行われておりますが、改めて失念のない様、ご注意を」
その後シャムルはクロックという国内外で有名人の人事異動。侍女の男性版である従者へクロックを招き入れ、大司教から司教への降格を告げた。
更に予算の大幅変更。大霊峰に勤める全役職員の年収8%をカット、防衛費を3%カット、教会予算全てを10%カット。浮く予定の予算は福祉、教育、インフラ整備に充てると発表した。
大霊峰をよりオープンなものにしたいとして、全ての会議の議事録を無料で公開することを約束した。また、街の教会が窓口となり、国民の意見を吸い上げるシステムを鋭意製作中と発表した。
「最後に」と一呼吸置いてシャムルは告げる。
「私は先代達同様にこの国を愛しています。愛には色々な種類があります。愛憎や嫉妬も愛の形の1つでしょう。以前の私は見守り、寄り添うことが愛と考え歩み寄ることを放棄していました。しかし、1つの出会いが教えてくれました。先導者として生きることが教皇としての矜持だと」
「これからは皆さまの祈りの具現として生き抜いてまいりますのでどうか、ご協力お願い申し上げます」
深く頭を下げたシャムルは会見を終了した。これより質疑応答に入るとクロックがアナウンスしたところでエルビアンはTVを消した。
「いいスピーチだ。ディッシュ、参考にしな」
「先生、俺にはそんな機会一生無いですよ」
「教皇の恋人だろ?明日にはお前の実家は千客万来だ。孝行息子だね」
「俺とシャルルはそんなんじゃないですってば」
照れるディッシュにキョウは指先で肋骨を軽く小突く。キョウなりの話題を流す優しさにディッシュは悲鳴で応えた。
「痛ぇ!お前な、肥満は経済の潤滑油だぞ。もっと丁重に扱えよ」
「全然うまくないぞ、それ」
ディッシュは茶菓子をつまみながら「そういえばよ」と前置きをしてキョウに問い掛ける。
「お前さ《封じ手》って単語分かるか?ジルチの共通言語にそんな単語ないからな。例の赤い新型の操縦者が言ってたんだよ。ゲストのお前なら知ってるかなって」
キョウは紅茶を飲む手を止めた。
「本当にそう言ったのか?」
「間違いない。証拠が欲しけりゃル・セレーネの戦闘記録を漁るしかないけどな」
「戦闘記録の保存期間は?」
「知らねぇよ。魔錬精機はこれから処分の決定待ちだ。気になるなら早い方がいいんじゃないか?」
キョウは携帯電話を取り出し、ライカへ電話を入れたが記者会見中の彼女が電話に出ることは無かった。続いて職場の事務所へ電話を入れる。今度は残業中の親方が電話に出た。
「親方すいませんキョウです。急で申し訳ないんですが、明日私用により欠勤させて下さい。大霊峰に急用が出来ました」
普段の職務態度が追い風となったのか親方は快く欠勤を許可した。
「エルビアン。明日、朝一で大霊峰へ行ってくる」
「門限は無くなるからって遅くなるんじゃないよ」
祈りの国に戦いは要らない。ただし、ジルチ全土に争いの火種はまだ燻り続けている。
祈りの国編。大団円を以て終了となります。
まずは、ここまで読んで頂いた方々に最大の感謝を。ありがとうございます。
反省点を挙げればキリが無いのですが、テーマとして書きたかったことだけは自分に及第点を与えたいと思っています。
次の章の構想は子供のスケッチ程度には出来ていますので、間を開けずに投稿しようと思っています。引き続きご一読の程よろしくお願い申し上げます。




