人が恋に落ちるのは重力の責任ではない
エルビアンの作戦終了宣言から7日が経った。
キョウは戦いの後、ライカによって回収され、病院へ直行。精密検査の結果異常無しと診断を受けその日のうちに帰宅。エルビアンにこっぴどく怒られたが彼女はどこか嬉しそうだった。
仕事に復帰すると親方を始め職場の仲間は自分達の直した現場が再び滅茶苦茶にされ、最初は怒っていたが2度目だから効率も上がっているはずだと、謎のポジティブ感情むき出しで一丸となり汗を流している。
出自や年齢、学歴関係無く、一生懸命に働けば評価されるこの環境はキョウには新鮮で居心地が良かった。
ディッシュもやはりニコの車で病院へ直行した。眉間の傷は今ではカサブタになり、跡に残るようなことは無いそうだ。折れた肋骨2本は自然治癒を待つしかないと診断を受けた。ギプスなどで固定出来ないので笑うと痛いから笑わせるなとキョウに釘を刺した。工学学校の休学も伸び、年内に再開出来るかもわからないらしくオンライン講義が始まった。
エルビアンも以前の生活に戻り、日課の図書館と自宅の往復。紅茶とキョウの労働報告を楽しみに過ごしている。1つ困ったことはライカがエルビアンへ大霊峰への復帰を強く望み、毎日のように電話がかかってくることだった。携帯電話の番号は教えたがこうも毎日だと辟易するとエルビアンはぼやいていたが、やはりどこか嬉しそうだった。
シャムル、ライカ、ニコは一晩ホテルに泊まると翌日の夕方には大霊峰へ帰還した。これまでは祈りの国の象徴として椅子に座っている時間が長かったが、これからは国中を走り回ることになる。1つ1つの街を巡り、最後にもう一度、この街へ来ると言ったシャムルの顔は以前のような愛想笑いで固めた笑顔ではなく、とても晴れやかだった。
出発の朝、ディッシュとシャムルはまだ焦げ臭さの残る丘へ2人きりで出掛けた。エルビアンの提案でニコの車にニコ、エルビアン、ライカ、キョウを乗せこっそりと尾行した。最初は悪趣味だから止めようと進言したキョウだったがエルビアンの「友達が教皇と恋人になる瞬間を見たくはないのかい?」とここでも無駄に先読みしたエルビアンの鶴の一声に全員が確かに。と納得した。見たくは…ある。
丘の上、ディッシュとシャムルはライカから借りた車の中で流行りの音楽を流しながら、ここに来るまでに喫茶店で購入したコーヒーを飲み、談笑しているようだった。ニコ達は焼け残った木の陰から様子を伺っていた。
「ライカ、なんで盗聴器くらい用意してないんだい。グズな子だね」
「司令官、それは犯罪なのでは…?」
「なぁもう帰ろう。やっぱり良くない事している罪悪感がフツフツと」
「チキンヤローめ。歩いて帰れ」
「なんだかじれったいねぇ、ライカ、あんたちょっといやらしい雰囲気にしてきな」
「司令官はディッシュさんに死刑でも望んでいるのですか!?」
「ほら、日本じゃこう言うんだ《人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ》って」
「お前だけ馬に蹴られて死ね」
野次馬達は好き勝手言っているが実に楽しそうである。
一方、車内では野次馬共の喧騒などどこ吹く風、とても穏やかな時間が流れていた。生死を共にした2人には2人にしか分からない絆のようなものが確かに芽生えていた。
「俺の作り上げたバッド=バットは祈祷白虎を6機もやったんだ!キョウの腕もたいしたもんだが、俺も自分の技術に自信がついた!」
「やられたのは我が国の国防隊ですが…複雑な気分ですね」
困った顔で笑うシャムルだったが、ディッシュはメカの話をしている時が一番生き生きとしている。そんな顔を見るのが好きだった。
「バイクも結構やられちゃったし、バッド=バットは大破。頭が痛いよ。でもな、修理ついでにカスタム案もあるんだ」
「ディッシュは本当に機械が好きなんですね」
「ああ、シャルルと同じくらいに好きだ」
「私も祈りの国と同じくらいディッシュが好きよ」
「今回の騒動で分かったことがある。大破したバッド=バットを診た。関節モーター類は全て焼け焦げていた。キョウはバッド=バットの限界の一歩上で戦っていたんだ。それでも魔錬精機に手も足も出なかったらしい。悔しいよな。メカしかやって来なかった人間がメカで負けるのは」
この瞳だ。私はこの瞳に恋をしている。シャムルはハッキリと自覚している。しかしシャムルはそんな態度を一切見せない。お互いに分かっている。
「目標が出来たようですね」
「先生には一度言われたことがある。それは人間の度を越えているって。魔錬精機を超える錬精機。そいつが今の俺の目標だ。だから…」
シャムルはディッシュの口を人差し指で噤んだ。
「私もディッシュに負けない目標が出来たの。この国をジルチで一番、いえ、キョウさんの居た世界を含めて。この世の中で最も素敵な国を作るわ」
「お互い大変な道のりを選んじゃったなぁ」
「そうね。見つけてしまったからには進みましょう」
二人はどちらかともなく握手を交わした。今はこれが二人にとって最上の愛情表現だった。
「ところでさ、気付いてる?」
「ええ、悪趣味な最高の友人が4人」
「ちょっとだけサービスしてやろうか」
「ちょ、えっ?」
ディッシュはシャムルを強く抱きしめた。シャムルに見えない角度のディッシュの手はニコ達に向けてVサインを作っていた。
「もう、ディッシュ。あなた肋骨折れているのよ!」
「すっげー痛い。嫌だったら振りほどいて」
「出来るわけないじゃない」
祝福なのか嫉妬なのか。ニコ達は車からクラクションを盛大に鳴らした。2人と4人は笑った。
バトルメインの作品でたまにやる日常や恋愛パートが大好きなのでやってみました。
これまで大変な目にあってばかりのみんなは普段はこんなにもチャーミングでふざけています。
その分、メインストーリーはもっとカッコよく書かないと余計にダサくなると実感しました。精進します。




