舞いあがる
「武器が欲しい。継戦能力が高く、軽いやつだ」
キョウがガレージで作業中のディッシュにこの相談を持ち掛けたのはそれぞれの役割を理解し、各々、準備を進めている時だった。
「お前の役割は陽動だろ?逃げ回る訓練だけしておけ」
目も合わせず、チョコバーを食べながら自分の作業を進めるディッシュ。
「それじゃあ駄目だ。降りてばっかりだとやられる。相手の思考に《こいつには刺されるかも》って印象を与えるから動きを縛れるんだ」
「経験則か?」
「あぁ、そんなやり取りを20年近くやってきた」
「お前の麻雀感は当たるからなぁ。乗った方が良さそうだ。具体的にはどんな武器が欲しい?」
「射撃武器は駄目だ。僕は射撃訓練なんてやっちゃいない。出来れば打撃」
軽く息を吐き、立ち上がる。テーブルに座り白紙の設計図に向き合うと、ものの5分と経たずキョウへ披露する。
「例えばこんなのはどうだ?腰部にマウントできるし軽量。高機動が売りのバッド=バットにも合うとおもうぜ」
「いいね、イメージ以上だ」
「操縦者の要求以上に応えるのがメカニックの務めだ馬鹿野郎」
「始まった」
ホテルの屋上の爆発をモニターで確認するまでもなく、キョウの待機地点にも轟音が鳴り響いた。
インカムを装着する左耳に意識を集中する。その後、エルビアンとライカは自分達の仕事を見事にやってみせた。
ここからはキョウの出番だ。軽く肩を伸ばし、息を吐く。ライカへ無線を入れる。
「ライカさん、こっちもいける」
「バッド=バット、どうぞ!!」
「出ます!」
キョウは暁の帝国と大霊峰の中間地点である石畳の街路からバッド=バットを発進、垂直離陸させ軽くターンさせ空中停滞させる。前回と違い、日々の錬精機を使った労働と準備期間の自己訓練により動きは洗練されていた。夜の月を背景に黒い翼を広げ、砂塵のレーダー阻害を展開させる様子は花吹雪を一身に浴びる西洋の吸血鬼のようだ。
「エルビアン、ディッシュ、親方。あんた達はやらせない」
キョウは今回の最大行動理念を呟く。守りたい者が増えた。
肉眼では確認出来ないが、モニター上で国防隊を捕捉した。数は15。エルビアンの読み通り前衛に15、後詰に5。クロックは自分をどちらに配置したのか。国防隊の錬精機は祈祷白虎。最新式のフレームに白虎の甲殻を乗せたお手本のようなパワーとスピードの陸の王だ。珍しい飛行タイプとはいえ旧式のバッド=バットでは1対1でも分が悪いのに相手は20。後詰が来る前に前衛を全滅させることは無理だ。足止めと陽動の為には相手の虚を突く必要があった。
「喰れてやる」短くつぶやくとバッド=バットは黒い翼を更に広げる。同時に数えきれない金属製の球体を落下させた。
街路を無警戒で全力疾走する祈祷白虎は突然の空中からの襲撃に対応しきれない。
地面に球体が着地すると同時に爆発。バッド=バットが祈祷白虎に肉薄。砂塵を纏い、爆発の衝撃で巻き上げられた石畳の中、腰から抜いた獲物を2本の手に持ち虎の群れを低空飛行で駆け抜ける。キョウが今回の作戦に際し、用意した近距離用の武装は「斬る」ではなく「叩き潰す」に主眼を置いた手斧だった。斬撃武器では最新精鋭機相手の装甲を抜けないと考え、四肢のいずれかを行動不能にするしかないと考えてのチョイスだった。
「敵襲!!」
「敵機反応は無いぞ!どうなっている!?」
「状況不明!上空から絨毯爆撃!所属不明の錬精機1機確認!黒い奴だ!」
「暁の帝国か!?以降、所属不明機は蝙蝠と呼称する、全機、蝙蝠の掃討に当たれ!まだいるかもしれん!敵の増援に注意しろ!」
「「了解!」」
「5機か」キョウの先制攻撃によって脚部及び動力部を破壊出来た機体は5機。歩くことすら出来ない虎ならば、たとえ到着出来たとしても市街地で暴れている熊達でも叩けるだろう。残り10機。
祈祷白虎達がARを両手持ちで構え、バッド=バットにフルオートで発砲する。しかし、放たれた弾丸はことごとく空を斬る。
「レーダー補助に頼りきった射撃がコイツに当たるものかよ」
回避行動を繰り返しながら中空へ舞い、バッド=バットは再び爆弾投下の絨毯爆撃を開始する。
「卑怯とは言わせない。こっちも必死なんだ」
相手の有効射程外から一方的な攻撃。一見、有効のようだが、相手に回避のみを強要することになり、最初の虚を突いていない今回は威嚇にしかならなかった。
「散開!蝙蝠の本命は近接戦だ!レーダーに頼るな!蝙蝠は妨害機能を装備しているぞ!」
虎の群れが方々へ散る。中空から急接近し1機に狙いを定める。片手に持った手斧を虎の左肩に振り下ろす。逆手に持った手斧で右の脚部を薙ぎ払う。
「あと9…!!」
キョウに出来ることはこのヒット&アウェイしか無かった。爆弾の残量は大分減ったがやり続けるしかない。中空へ逃げるバッド=バットの背後を虎の爪が捉えた。バッド=バットの右の翼へ鎖鎌が突き刺さった。
「くぅ!やる!国防隊ってのは伊達じゃないな!」
右の翼が引っ張られ、このままでは地上へ引き戻されると咄嗟の判断で右翼の一部を破棄しながら中空へ逃げる。
「エルビアン!右の推進力をやられた!」
「確認している。左翼の一部を破棄しな。多少機動力は落ちるが空中機動バランスは保てる。最終フェーズまであと5分。やれそうかい?」
「やるしかないだろっ!」
キョウは自由に飛べない空中でARの有効射程内で回避行動を繰り返す。相手を足止めする為にはこれ以上離れるわけにはいかなかった。
回避行動と同時に現在のバッド=バットのコンディションを操縦感覚だけで探る。左翼を破棄。この時のキョウは知らない。左右の翼の変化質量は100gと違わない恐ろしい精度で行っていた神業を。
「さぁ放銃はあったが東3局だ。こっちはまだまだやれるぞ」
最初のキョウの待機場所から離れたが、キョウは手斧を構えファイティングポーズを崩さない。逃げ一辺倒であれば国防隊は追跡せず、熊狩りへ移行していたことだろう。
満月の下、どのくらい繰り返しただろう。空中で踊るバッド=バットは敵の銃弾を躱し、ありったけの爆弾を投下する。これ以上重りを抱えていれば限界が先に来るのはこちら側と判断しての行動だった。
刹那、制空権を支配しているはずのバッド=バットの更に上空から殺意。キョウの全身に危険信号が響き渡り、咄嗟に殺意を躱す。バッド=バットのモニターがワンテンポ遅れて敵機の接近を伝える。
「流石に、これ以上は看破出来ないな」
全方位スピーカーから発せられた声はTVで何度も聴いたことがあった。間違いない。
「お前がクロックか?」
キョウも全方位スピーカーで応える。
「君は?見たところ暁の帝国と錬精機が違うようだが」
「名乗るほどじゃない。コイツは友達の借りものだ。そっちも教皇様が操縦者じゃないのか?」
現れた機体はジルチに7機しかいない魔錬精機が1機。祈りの国の守護神「ル・セレーネ」だった。
純白の龍を骨格ベースに西洋の仮面のような顔。スラリと伸びた長い手足。機体の隙間からは自立したように動く純白の尾と翼が4枚。右手には刺突用の槍を携えていた。
「こっちも借り物でね、教皇様は荒事が苦手なんだ」
「お前は好きみたいな言い方だな」
「嫌いじゃないね」
中空で睨み合う黒と白の2機。エルビアンから撤退の指示が再三飛び交う。しかし、キョウは背中を見せた瞬間に撃たれると本能で理解していた。
微動だにしないル・セレーネの方角から熱源が発射された。自立制御の尾から発射された極細熱線。バッド=バットは躱すことも出来ず右手を焼かれる。偶然にも爆弾は使い切っていた為、誘爆が無かったのは幸運だった。
「月の精霊と契約している魔錬精機に敵うとでも?」
中空へ舞った右腕を左手で拾い上げ、右手の持っていた手斧を投擲する。ル・セレーネは避けもせず、槍の操作だけで叩き落す。
「事情があってね。もう少し遊んでいけよ」
地面からの祈祷白虎の銃撃を避けながらバッド=バットは加速。ル・セレーネに向けて接近戦を挑む。
キョウに残された武装は左手の手斧1本。
「君は何か勘違いしていないか?」
キョウの振り下ろした左手は闇夜を裂く。
「遊び相手ってのは同じ実力だから成立するんだよ」
右手の槍をバッド=バットの脇に突き刺す。操縦室への直撃は避けられたが確実に機体へのダメージは受けた。
「国防隊全機へ!蝙蝠は私が始末する。教皇様の捜索を最優先!暁の帝国殲滅は教皇様確保後に迅速に行え!」
再び走り出そうとする国防隊へ向けて串刺しにされたままのバッド=バットは左手の手斧を投擲する。
「行かせないって」
「しつこいな」
ル・セレーネの槍から電撃が発射される。電磁槍から伝わる衝撃が操縦室へ伝わる。
「があぁぁぁぁぁぁ!!」
キョウは絶叫を上げる。金属フレームを伝う電撃。地面に接していないバッド=バットに電撃を逃す術は無く、砂塵の精霊による加護、絶縁装甲を抜き全身を駆け巡る。ガクリと頭部を落とし各センサーは機能不全をせわしなく伝える。
槍を一振りすると地面へ叩き落されるバッド=バット。各種バランスセンサーは機能を失い、受け身をとることすら許さなかった。
クロックは尾の熱線でバッド=バットを仕留めることも出来たが、電磁槍で突き殺すことを選んだ。中空から超スピードで槍を構えバッド=バットへ一直線に突進してくる様はさながら全てを塵と化す龍の蹂躙を思わせた。
キョウはバッド=バットが空中へ回避するのは不可能と判断し、地面を転がる。なんとか、初撃は回避した。
「次は外さない」
滑空し、第2撃を構えるル・セレーネ。初撃を外してプライドを刺激したのか、クロックは軽く舌打ちした。狙い澄ました刺突はキョウの回避パターンを読み切り完璧に捉えた。ように見えた。
「王手飛車取り…この場合は王手香取り…かな」
ル・セレーネとバッド=バットの間に1機の錬精機が割って入って来た。ル・セレーネの刺突は地面に刺さり、バッド=バットは無事とは言えないが破壊には至らなかった。
赤に染め上げられた闖入者の機体はル・セレーネと瓜二つのフォルムをしていた。
違うのはカラーリングと右手に持つのが槍ではなく剣と呼ぶには短く、ナイフと呼ぶには長い。小太刀を2本。それぞれの手に構えてていた。ル・セレーネは死に体のバッド=バットより赤い機体の方が危険と判断したのか、空中へ飛翔。一度、距離をとる。赤い機体はル・セレーネを追撃、キョウの肉眼では確認出来ないが、空中で閃光が何度も交差していることだけは分かった。
地面に投げ出されたキョウは作戦本部に無線を入れる。
「正体不明機が1機増えた。残念だが終局だ」
キョウは緊急脱出装置を起動し、バッド=バットの操縦室が最後の力を振り絞りキョウを空中へ射出させた。勢いよく飛び出し、充分な距離を稼いだと判断し、背中に背負った落下傘を展開させる。
「キョウさん、想定以上の戦果です。クロック様はバッド=バットとの戦闘記録により追跡可能になりました。あなたは戦い、生き残りました」
ライカから無線が入る。
「キョウ、怪我は無いかい?無事なんだね?」
「エルビアン、ライカさん。多少痺れたが身体は無事だ。後はディッシュに任せよう」
落下傘は着地し、キョウは赤い瞳で閃光飛び交う空中を睨みつける。
「次は、僕も混ぜろよ」
キョウの初陣は単騎で国防隊6機を沈黙させるという常識では考えられない戦果だが本人にとっては納得出来る成績では無かった。
タイトルは一番好きなバンド「陰陽座」の一番好きな曲名から頂きました。今回のエピソードの台詞には陰陽座の歌詞が色々と出ています。
この曲を題名にするからにはとにかく「カッコ良く」だけを考えて書きました。
私の中で黒猫様は世界一のシンガーです。




