開局
「全員、無線は聞こえるね?」
エルビアンの号令の元、各員が返事をする。音声はクリア。今日の為の装備品のほとんどはエルビアンとディッシュが準備期間に作成した。
「作戦開始は18:45。作戦終了は夜明迄だ」
現在の時刻は18:25。街の門は閉まった。それぞれが所定の位置に着き、司令官の合図を待った。
「ライカ、位置追跡出しな」
「位置追跡起動します。正常稼働確認」
エルビアン家、リビングルーム。司令室テーブルの上に広げた街と周辺の地図の中で、配置した人員のいる場所に光が灯る。行動中に無線が破壊、故障した際に救助へ向かえるよう、位置追跡発信機をそれぞれに持たせた。
ディッシュとシャムルは小高い丘の上、バイクに跨り静かに作戦開始を待っていた。姿は見えないがシャムルの護衛役のニコは少し離れた場所で待機しているようだ。
「主よ、祈りの国を左右する夜が来ました。私達の力だけで解決してみせます。どうか今晩だけは、お力添えをなさらぬよう」
シャムルは天に祈る。その祈りは大霊峰で毎晩彼女行っていたものとは明確に違っていた。
「シャルル」
緊張を隠せない声がシャムルの祈りを中断させる。
「絶対に君をクロック様の元へ送り届けてみせる」
振るえる手をハンドルを強く握ることで誤魔化し、ディッシュは眼鏡の上からバイク用のゴーグルを下した。通常運転であれば必要ないが、今夜は荒っぽい運転になる。ディッシュの背中にシャムルは頬を寄せる。
「ありがとう。今はそれしか言えないわ」
「やめてよ、今生の別れみたいなの」
「そうね」
「そうだよ」
「全員、生きて。また、笑いましょう」
ディッシュはバイクのエンジンを掛けた。離れた場所でニコの車もエンジンを掛けるのはほぼ、同時だった。
キョウはバッド=バットの操縦席に座り、機体の最終チェックを終え、目を閉じる。
日本に居た頃。対局前の静寂を思い出す。
「宜しくお願いします」
誰かに向けた言葉ではなかった。準備はしてきた。後は今の自分が出来ることを精一杯やろう。
「キョウ」
無線機から聞こえる声はエルビアンからだった。
「私をまた独りぼっちにさせるんじゃないよ」
「オーケービックマム」
続いてディッシュからも無線が入る。
「キョウ、聞こえているな?返事はしなくていい。お互いゲロ吐きながら走りまくったあの日に比べりゃ今日は天国だ。背中にすっげー美女もいる、最高のランデブーにしようぜ」
吐いてたのはお前だけだ。突っ込むのは野暮だろう。キョウは口角を上げるに留まった。
ライカはエルビアンに目をやる。この数日間彼女の手足のように動き、その度に彼女の思考の深さに尊敬の念が膨らんでいった。紅茶を飲みながら地図を眺めるエルビアンはどんな未来を想像しているのだろう。
「エルビアンさん」
「長いだろ?ババアでも構わないよ」
「司令官」
「可愛くないねぇ」
「私達、勝てますか?」
「勝たせるさ」
時計を見る。作戦開始まで1分。無線機を前にはエルビアンが。携帯電話とスイッチを手に持ったライカが椅子から立ち上がる。
「各機、作戦開始」
作戦開始はアメフトのプレイ開始の合図だったりします。アメフトが人気の米軍ではそのまんま「作戦開始」って意味で使われていたり。




