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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
祈りの国編

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進むべき路

 2人は朝食を済ませ、シャワーを浴びた。脱衣所の姿見で自分が本当に赤目であること。外見がキョウの中学校卒業アルバムと瓜二つであることには驚いたが、全てエルビアンの説明通りであったので動揺は最小限であった。「生きることに不便はないさ」皮肉を込めて笑った。入浴後は髪を乾かし、エルビアンが用意してくれた寝間着に着替えると教会が告げる正午の鐘まで眠った。

 エルビアンの言っていた通り、日本のインフラ整備と状況は変わらず、食事に好みはあるだろうが、出された食事に不満は一切なく、シャワーは適温まで調節でき、ベッドはフワフワな布団にパリッとしたシーツが嬉しかった。疲れていたからか、夢は観なかった。

 「そろそろ起きようか」

 エルビアンの短い一言でキョウは目を覚ます。着替えときな、と渡された衣類は街の人々とすれ違った時によく見た、ワタリがゆったりとしたシルエットの黒いカーゴパンツ、黒の長袖の肌着、そしてフード付きのポンチョのような灰色のマントだった。着替えを済ませエルビアンの待つリビングへ向かう。

 「あら、よく似合ってるじゃないか。死んだおじいさんの物だけど、とっておくもんだね」

 「赤目が気になるならフードを被ったって良い。そこはアンタに任せるよ」

 「えぇと印鑑と住民票は持ったね、あと必要なものは…」

 食卓に広げられたエルビアン自身の書類や筆記用具を片付けながらキョウをテーブルに促した。

 「キョウ、役所へ行ってこれからこの国の国民になる申請をしに行く、申請は基本、1度してしまったら取り消し巻き戻しは不可能だ。日本へ戻りたいなら申請はしない方が有利になることもあるかもしれない。その辺はどう考えているんだい?」

 「昨晩から今まで考えたんだ。自分にとってのこれからのベストを。結局、見つからなかった。エルビアンの言う通り、例えば、A国で日本に帰れる機能があってA国民以外使用禁止だ、と言われれば僕は日本へ帰る機会を損失するだろう。だが、エルビアン。貴方は賢く優しい女性だ。そんなものがあればとっくに教えてくれる。無いんだろう?日本に、地球へ帰る方法は」

 「見た目は可愛い坊やだがなかなかどうして。分かってるねぇ」

 「キョウの言う通り意図的に2つの世界を移動する方法は見つかっていない。この国じゃ嵐の夜に大霊峰から身投げすると落ちた先は地球だった、そんな眉唾ならいくらかあるけどね。戻ってきた人間は一人も居ない」

 「僕はベストが見つからない以上、ベター。次善策を実行するべきだと考えた。エルビアン、貴方には感謝してもしきれない。だが、いつまでも貴方に頼るわけにはいかない。正直、日本に帰りたいか、それすらもまだ迷っている。無くしたものが多いんだ。答えが出るまではこの国で自立した生活を送る地盤を固める必要がある。労働と衣食住の確保だ。そのためにも身分証明書は必須だ」

 キョウはこの家に着いてから今までの思考をエルビアンに伝えた。

 「アンタ何か勘違いしちゃいないかい?」エルビアンはまん丸と目を見開いておどけた表情を見せた。

 「は?」

 「いや、だからさ。自立するのは結構、労働も尊いものだ。アンタの考えは尊重する。だがね、どこの者かも分からない赤目のガキが明日から自国民?そんなこと許しちゃこの国は戦争孤児や犯罪者で溢れかえってしまうよ」

 確かにエルビアンの言う通り。そこまで身分証明とは簡単なものではない。そこに関してはキョウは自分の見通しが甘すぎた。

 「アンタは私の養子になるのさ」

 とんでもないことをサラッと言ってきた。

 「は?」

 「まさか、この歳で家族が増えるとはね」

 「いやいやいやいや、僕と貴方は昨日の晩、初めて会ったばかりだ。そんな事までしてもらう義理はない」

 「じゃあどうすんだい?日雇いですらアンタを雇うとこなんてこの街には有りはしないよ。明日のニュースで赤目のガキの死体が出たって夢見の悪い思いを私にさせんのかい」

 「いや、しかし…」

 「キョウ、あんた日本に家族は居るのかい?」

 「両親は僕の職業が理解されず、疎遠になった。兄弟もだ。妻が居たがここへ来る日、亡くなった」

 瞼の裏側にマドカの笑顔がはっきりと浮かんだ。

 「お互いバツイチ、いや、ボツイチだね。仲良くやっていこうや」

 2人の温度差をハッキリと感じた。ここまでのエルビアンとの付き合いで分かったことがある。それは彼女はとても聡明で優しい女性だが、それ故、結論の出たことは振り返らない。深堀せず、敢えて明るく振舞ってくれていることも分かった。

 「じゃあ、役所へ行こうか息子よ」

 「孫みたいな年齢差だけどね…」

 「間が居やしない、木の股をママとでも呼んでみるかい?あたしは嫌だね、自分の子供が庭に生えてるだなんて」

 「オー・マイ・マザー」

 「ベイビーベイビーとってもいい子だ。帰りに頭痛薬でも買ってやろう」

 二人は並んで歩き出した。フードは被らない。それはこの街で生きていくキョウの無言の決意表明であった。

エピソードタイトル「進むべき路」は平仮名を抜くと「進路」になります。

そんなわけでキョウ君の進路相談回でした。


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