表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友情マギカプリ 〜魔法が使えるスマホアプリを開発して、二つの世界を守ります〜  作者: 秋乃 透歌
序章:出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/9

第二話:決意

 私と対馬、そしてミカエラは、連れ立って対馬の自宅へと向かった。


「着いたよ。ここが私の家」


 公園のある交差点から十分も歩かないうちに、対馬が到着を告げた。


「対馬の家、ここの大きなマンションだったんだ?」


 大きなマンション、という表現になったのは、敷地面積や建物がシンプルに広いし高いからだ。瀬尾駅や学校からも、建物の一部が見えていたはず。


「うーん、大きいかな? 普通だと思うよ。……さて、鍵はどこにあったかなー」


 対馬は、そんな風に言いながら、カバンから鍵を取り出した。共用のインターフォンパネルに鍵穴があり、そこでエントランスへ続くゲートを開けるらしい。しかし、彼女がゲートを開ける操作をする前に、それは内側から開かれた。他の住人が出てきたのだ。


「あれ。お兄ちゃん?」


 その人物を見て、対馬が声を上げた。


「優香か。今帰りか?」


 対馬の言葉を聞くかぎり、彼女の兄のようだ。

 妹と同じく明るめに見える髪を短くしていて、英字がプリントされた半袖のシャツに、濃紺のデニムのパンツ姿。まだ夏の装いという感じだった。彼は、私に気付くと、軽く頭を下げてくれた。私も同じく頭を下げておく。


「俺はこれからコンビニに、って、何だそれ。イタチ? テンか?」


 何かを言いかけて、お兄さんは妹の肩に乗っている小動物に気付いたようだ。


「オコジョだよ」

「まさか、家で飼いたいとか言い出すんじゃないだろうな?」

「だ、ダメかな……?」

「うちのマンションは、ペットは全面禁止だぞ。小動物とか鳥とか爬虫類とか、種類によらず、全部禁止」

「いや、そこをなんとか」

「いつだったか、二人で子犬を拾って来た時のこと、忘れたのか? 父さんや母さんに頼み込んでも、ダメなものはダメだっただろ? マンションの管理組合とかにかけあっても、どうにもならなかっただろ?」

「それは……。覚えてる、けど……」


 何かの思い出に触れたのか、対馬はしゅんと肩を落とした。


「家で粘っても無駄骨に終わるぞ。じゃあな」


 そう言って、お兄さんは、適当に手を振りながらコンビニへと向かってしまった。


「うう。まさかの、家に辿り着く前にダメになっちゃったよ。ごめんねミカちゃん」

「気にしなくて良いよ。ルールは守らないといけないからね」


 対馬の方がミカエラに慰められていた。


「真保ちゃん……」


 そして、対馬がこちらを見た。すがるような目というのは、こんな感じなんだろう。当然オコジョもこちらを向くので、二組のつぶらな瞳が私を見つめることになった。無言でも、二人の言いたいことが、伝わってくる気がした。

 ああ、もう、仕方ない。


「まあ、こんなこともあろうかと、ここまでついて来た訳だしね」


 ここで見捨てたら寝覚めが悪い。攻撃魔法から助けてもらった恩もある。そのせいでオコジョの姿になってしまったとも言える。覚悟を決めて、私は言葉にした。


「今度は私の家でトライしてみよう。それでダメなら、何か別の手を考える」


 私が右手を伸ばすと、ミカエラは器用にそこに飛び乗り、私の右肩へと登った。軽いことには違いないが、確かな重みを感じた。


「ありがとう、真保」

「お礼は、お母さんを説得できてから」


 それから、私達は移動を開始した。当然のように付いてくる対馬と一緒に、先程通った道を逆に辿り、ミカエラと出会った公園のある交差点を通り過ぎた。


「ねえ、真保ちゃん。オコジョを肩に乗せたままで電車はまずいよね」


 対馬が、思いついたように、そう言った。


「あ、確かにそうだね」


 私も、その状況を想像して、同意した。瀬尾駅に着く前に気付いて良かった。そのままオコジョを連れていたら、間違いなく、注目の的になってしまうところだった。


「確か、この辺りに……こんなのあったよ」


 対馬が、カバンの奥底から、可愛らしいピンク色の手提げの紙袋を取り出してみせた。


「対馬ナイス。ミカエラ、悪いけど、ここに入って」

「了解だよ」


 特に文句を言うでもなく、ミカエラは紙袋の中に飛び込んでくれた。

 私がいつも使っている学校への最寄り駅からは、さらに電車で三十分。統京(とうきょう)都の中でも、学校のある瀬田谷(せたがや)区の瀬尾駅から、私の自宅のある椙並(すぎなみ)区の椙町(すぎまち)駅への移動である。

 椙町駅で降りて、人通りが少なくなったことを確認してから、ミカエラには私の右肩に戻ってもらった。そうこうしていると。


「お、真保ちゃん?」


 背後から声をかけられた。この声は――。


「師匠」


 振り返って相手を確認すると、私はいつものように、そう呼びかけた。しかし、我ながら、嬉しそうな声が出てしまっていると思う。普段の愛想のなさから数段高いテンションだ。まあ、数段高くてようやく普通の女子中学生くらいかもしれないけど。

 師匠は、染めたりしていない黒色の髪を少し長めに伸ばしている。黒いフレームのメガネをかけていて、情報系の大学生らしい、黒色のスラックスに濃紺単色のシャツ、その上に薄手の白系統のジャケットを羽織った格好だった。季節先取りで秋めいた服装だけど、暑くはないのだろうか。

 師匠は、私のマギカプリ開発の師匠だ。知り合った後で判明したことだけど、ご近所に住んでいる。私のような中学生を相手にしても、こども扱いしたり、変に気を使ったりすることなく、自然に、気さくに相手をしてくれる人だ。


「友達と一緒とは珍しいな。それに、フェレット? 小動物を肩に乗せてるなんて、真保ちゃんは魔法少女だったんだな」

「全部違います。クラスメイトだし、オコジョだし、魔法少女ではありません」


 私は、そう返した。


「なるほどなるほど。大体分かった」


 師匠は、適当に返事をした。大体じゃなくて、ちゃんと理解して欲しい。

 そう言えば、と師匠は喋りだした。


「この前の、マギカプリのインターフェース周りのイシューは、要望がきちんと伝わりやすくて良かったよ。今の開発態勢は、魔法周りをやりたいメンバーが多いからね。分かりやすく使いやすくの発想が出にくいんだよ。真保ちゃんみたいな視点のメンバーがコミュニティにいてくれるのは本当に助かるよ」


 それは嬉しい。

 顔が赤くなったりしていないだろうか。師匠の言葉は、そんな心配が思い浮かぶほど、嬉しいものだった。


「いえ。お役に立てたなら」


 私の胸中とは別に、私の言葉はそっけないものだ。対馬なら、きゃー、とか言って飛び跳ねるのだろうか。そういう素直な感情表現ができない自分が少しだけ嫌だと思うけれど、それ以上に私はこれで良いんだと思ってしまっている。私は、可愛くないのだ。


「おう、これからもよろしく頼むな」


 師匠の言葉に、私は、黙って頷き返した。


「むむむ。これはもしかして――?」


 そう言いながら、対馬が、なんとも言えない表情でこちらを見てくる。


「何?」


 聞き返すが、対馬は返事をしなかった。それから、対馬は、まじまじと師匠に視線をやった。あんまりジロジロ見たりしないで欲しいんだけど。そんな視線に気付いたのか、師匠は、対馬に軽く会釈をした。対馬も同じく会釈を返した。


「そう言えば、師匠――」


 私が口を開いたタイミングより一瞬早く、師匠がポンと手を打った。


「ああそうだ。オレ、家に忘れ物したんだった。ちょっと急ぐから、またね――」


 そんな風に言って、師匠は慌ただしく走り出した。あっという間に通りの向こうに見えなくなってしまった。なんだ、もう少し話したかったのに。


「真保ちゃん、今の人は? 師匠って?」

「あー、師匠はマギカプリ開発の師匠。統京大学の四年生。ただの知り合い」

「ふうん、ただの知り合いかぁ。なるほどなるほど」


 師匠のようなことを言って、対馬は何やら納得しているようだ。


「あ。ちなみにわたし、クラスメイトじゃないよ。友達ね、友達。そこ大事」

「真保、あの人の前では、なんだか嬉しそうだったね」

「そう? 別にいつもと変わら――」

「だよね! わたしもそう思った」


 ミカエラに応えた私の言葉を遮って、対馬が声を上げた。きゃあきゃあと盛り上がる対馬とミカエラにあきれながらも、私は、通い慣れたいつもの道を先導して歩いた。

 そうこうしながら、私の家まであと数分と近付いてきたところで。


「あら、あなた達――」


 正面から歩いて来た女性に声をかけられた。今日は良く声をかけられる日だな。

 彼女は、長い黒髪を頭の後ろでヘアクリップで止めている、働くお姉さんといった雰囲気の女性だった。スーツほどではないが、秋色のしっかりしたスカートと上着を着て、足元は低めのヒールだった。左手には同じく秋色のバッグを持っている。その顔には、見覚えがなかった。知らない人である。


「えっと、何ですか?」

「その肩に乗ってるの、オコジョでしょ。珍しいな、と思って声をかけちゃったの」


 人の良さそうな笑顔でそう言われたので、私は少しだけ警戒を緩めた。


「オコジョですね」

「あら? でも、不思議ね。今の季節だと、オコジョは茶色の夏毛のはずだけど。オコジョじゃないのかしら」


 え、夏毛? 思わずミカエラに視線を向けるが、オコジョはお姉さんに注目されていて首を振ることもできないのか、固まってしまっていた。


「あなた達、この子を飼っているの? 確かオコジョは飼育禁止のはずだけど」


 え、そうなの? 気軽にオコジョを連れている私は、犯罪者? そうだとすれば、この状況を説明できるような、上手い言い訳を探すのは難しい。


「実は私達、とっても急いでいるんです。ね? もう行かないと、さよならー」


 話題の行く先が怪しくなってきたのを察知して、対馬が私の手を引いて連れ出してくれた。驚いた顔のお姉さんが取り残されたけど、対馬ナイス判断だ。


「オコジョって飼っちゃいけないの? 知らなかった」

「今の季節なら茶色の夏毛って言ってた。あなたオコジョじゃなかったの?」

「ボクにも分からないよ。プルナスの変身魔法で、冬毛のオコジョにされたのかな。そうでなければ、オコジョじゃなくて、ストートっていう魔法世界の精霊なのかもしれない。オコジョそっくりなんだよ」


 魔法世界の精霊か。まあ、この件はこれ以上気にしないことにしよう。本人にも分からないのなら、確かめようがないことだから。

 そうこうしているうちに、私の家の前に着いていた。この区画に何軒も並んでいるような、ごく普通の二階建ての家だった。


「着いたよ。ここが私の家」


 私は、そう言いながら、玄関の鍵を取り出した。


「ここが真保ちゃんのお家かぁ。大きなお家だね」


 そんな対馬の言葉に、私は首を傾げた。


「そう? 大きいかな? 別に普通だと思う」


 どこかでこんなやり取りをしたなと思いつつ、私は玄関の鍵を開けた。ちょうどそのタイミングで――。

 ぞわり、とミカエラがその全身を震わせた。頭のてっぺんからしっぽの先まで、驚いた猫のように毛が逆立った。一回り体が大きくなってしまったようだった。


「わわわ、なんだか今、すっごく嫌な感じがした。魔法だよ、それもすごく大規模な。アンデザイトが何か魔法を使ったのかな」

「え、そんなの感じた?」


 対馬の言葉に、私は首を横に振った。別に何も感じなかったけど。魔法世界の人にしか分からない、魔法に対する感覚というものがあるのかも知れない。


「あら、おかえりなさい」


 そこで、お母さんが顔を出した。


「ただいま。あのね――」

「あらあら、お客さんね。真保がお友達を連れてくるなんて珍しい」


 ああ、そうだった。オコジョの前に、そっちの話があったか。


「こんにちは」


 と、愛想よく挨拶する対馬。


「クラスメイトの対馬優香。ちょっと用事があって家まで来てもらったんだけど」


 対馬のことは適当に説明して、私は、本題を切り出すことにした。


「この家って、ペット飼ったりできる?」

「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの?」


 そう言って玄関まで来たお母さんに、肩の上のオコジョを差し出して見せた。


「オコジョ。拾ったというか、実は――」


 事情を話そうとして、違和感に気付いた。ミカエラを見せた瞬間に、お母さんの動きがギシッと音を立てたように止まったのだ。しかも、目が不自然に虚ろになっている。


「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの?」


 お母さんが、そう言った。でも――。


「え? お母さん――?」


 その言葉は、ついさっき聞いたような。


「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの?」


 お母さんは繰り返した。


「は?」

「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの?」


 お母さんが、もう一度同じ言葉を――。


「っ――!」


 私は息を飲んだ。これ、絶対におかしい。


「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの?」


 壊れた音楽プレーヤーのように、お母さんは同じ言葉を何度も繰り返している。


「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの?」

「ちょ、ちょっとお母さん?」


 何だこれは、何がどうなっているんだ?


「真保。ボクをさっきの紙袋にしまって!」


 ミカエラが、お母さんの前だというのに、大きな声を出した。しかし、もちろんお母さんはそれに反応したりしない――できないのだ。私は紙袋を取り出し、その中にミカエラを押し込んだ。


「ペット? 子犬か子猫でも拾ってきたの? ――あら?」


 ミカエラの姿が完全に見えなくなると、お母さんは何事もなかったかのように、我に返った。目に光が戻り、体の動きも自然に戻った。


「優香さん。どうぞ上がって。真保の部屋、ちゃんと片付いていると良いんだけど」


 先程までの動作の続きを、突然、再開したかのようだった。お母さんは、不自然に感じるほど、自然に言葉を続けた。

 その様子に、私は対馬と顔を見合わせた。呆然としたまま、私は、対馬を二階にある私の部屋へと案内した。ばたん、と扉を閉めると、私と対馬、そして紙袋から顔を出したミカエラは顔を見合わせた。


「今のって、何?」

「多分、【認識阻害】魔法だと思う」

「に、認識阻害?」

「アンデザイトの魔法だと思う。機械世界の人達が、ボクを認識できないように――ボクに協力できないようにしたんじゃないかな。多分、ボクがいないところでも、アンデザイト達の話題になった途端、さっきみたいになってしまうと思う」

「そんな……。あれ、じゃあわたし達は? ミカちゃんのこと認識しているよ?」


 確かに、対馬の言う通りだ。矛盾している。私も対馬も、オコジョの姿を見ても動作を止めたりしていない。ちゃんとその姿がミカエラだとも分かっている。


「さっき玄関で嫌な感じがしたけど、多分、あの瞬間に魔法がかかったんだと思う。だから、それまでにボクを認識していた二人には効果がなかったんじゃないかな」


 そういうことか。なるほど、理屈は通っている気がした。

 しかし、【認識阻害】魔法は大きな問題だ。ミカエラが認識できないなら、当然、ミカエラを助けることもできない。私達以外の人に、協力を頼むことができなくなってしまったのだ。他の誰にも頼れない。他の誰にも任せられない。相手は、機械世界の人を大勢巻き込むような魔法を、ためらいなく使えるような人達だ。大きな災害と言う話も、本当のことなんだろう。止めないと。私が。私達が。何をするべきか分かっているなら、ためらっている場合ではない。こうなってしまった以上――。

 私も、覚悟を決めないといけない。


「分かった」


 対馬とミカエラを交互に見て、決意を固めた。そして、私は、自分自身に言い聞かせるように言葉にした。


「私も、ミカエラに協力する」


 そう、しっかりと言葉にした。


「二つの世界を切り離すなんて企みは、私達で阻止しよう」


 改めて、この決意を言葉にした。


「この二つの世界を、私達で守ろう――!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ