第十三話:決着
「【土の乱杭】」
アンデザイトが、何度目かの攻撃魔法を放った。
「――っ」
ミカエラは、土の触手が伸びるように迫るその攻撃を、空中で全てかわしきった。
「【風の斬撃】!」
「【土の盾】」
そして、ミカエラも攻撃魔法で牽制を続けていた。ミカエラが放った攻撃魔法が、アンデザイトの防御魔法に阻まれるのも何回目だろうか。ミカエラは、風魔法をまとう【飛行】の魔法で空を飛び、同じく風魔法で作り出した足場を蹴って急激に方向を転換しながら、休む間もなく攻撃魔法を撃ち続けていた。
「いつまでも、ちょこまかと――」
さすがのアンデザイトの言葉にも、苛立ちが混じった。ミカエラは、アンデザイトが分離の魔法陣を設置する時間を与えないように立ち回っていた。加えて、新たな召喚魔法が使われる事がないように、妨害することにも成功していた。一方で、彼女が結合の魔法陣を設置する余裕も全くなかった。この状況になってからの時間は短かったが、膠着状態であることは間違いなかった。しかし、運動量が多い分、長期戦になればミカエラの不利は明らかだった。それに加えて、魔法騎士の姿でいられる時間が限られている事も、ミカエラの焦燥の理由だった。
「このままじゃ――」
ミカエラが、状況の変化を求めて口を開いた。そのタイミングで。
「ミカエラ!」
私達は、ミカエラのもとに駆けつけることができた。
「真保!」
ミカエラは、動きを止めずに、私の名を呼んだ。私達は、走り込んだ流れのままに、ミカエラに加勢した。
「【炎の投擲】っ!」
「【雷の大槌】!」
「【風の斬撃】――!」
私、優香、師匠の魔法が、次々とアンデザイトへと迫り――。
「【土の大盾】!」
アンデザイトは、一際大きな魔法の盾を作り出し、私達の攻撃を受けきってしまう。
「【光の弩弓】」
そして、盾が消失するタイミングを狙いすまして、ミカエラの魔法が放たれた。複数人数だからこそできる、時間差攻撃だ。光の矢を巨大化した、眩く光る攻撃魔法が、アンデザイトの肩を撃ち抜いた。
「ぐうっ――」
アンデザイトのうめき声が、魔法の立てる轟音の向こうに聞こえた。
「再装填完了!」
静流さんの声が、会心の一撃を予告した。マギカプリブースターが、もう一度使える状態になったのだ。
「そのまま撃てぇっ!」
師匠が叫んだ。
「アンデザイト!」
驚くことに、静流さんは、アンデザイトに呼びかけた。
「防御は無理だ! そこから下がれ! ――【雷神の――」
「――くっ!」
静流さんの呼びかけは、武士の情けの警告だったのか、それともアンデザイトを下がらせるための策略か。どちらにせよ、放たれるのが超上級魔法だと悟ったアンデザイトは、静流さんの言葉通り、風魔法をまとって跳び下がった。
「――一撃】っ!」
静流さんの叫び。同時に、雷撃が放たれた。轟音、衝撃、閃光。三回目の超上級魔法は、アンデザイトが先刻まで立っていた場所に突き立ち、稲光を周囲に撒き散らした。その余波だけで、距離をとっていたはずのアンデザイトが吹き飛ばされてしまった。
「ミカエラ、魔法陣!」
私は、空に向かって、叫んだ。ようやく、第三の攻防のターゲットが――グラウンドの中央が、手の届く状況になったのだ。
「了解っ! 皆、防御をお願い! ――【転写】!」
ミカエラが、魔法陣設置のための魔法を唱えた。私達四人は、アンデザイトに立ちふさがるように、ミカエラを背後にかばった。足元に緑色の光の線が現れた。それは二重の円を描き、不完全な六芒星を描き――。
「熱っ!」
静流さんが、声を上げてマギカプリブースターを取り落とした。
「お兄ちゃん!?」
優香が駆け寄ろうしたところを、静流さんが手を上げて留めた。
「オーバーヒートだ。三回の連続使用で限界だったんだ。そのまま落としとけ」
師匠が、静流さんに声を飛ばした。これで、マギカプリブースターは使えなくなった。攻撃力だけでなく、防御力としても期待していたのに。
「あと少し!」
ミカエラが、声を上げた。足元に浮かび上がった光の線は、いよいよ判別不可能な文字を描き始めていた。
「グオオオオォォッ!」
次の瞬間、轟く方向が、背後から私達に浴びせかけられた。
「さっきのドラゴン!」
優香の叫びに応えるように、体を起こしたドラゴンが、空中へと急激に飛び上がった。優香と静流さんが、後方を担当するように立ち位置を変える。私達は、ミカエラを囲むように、円形に並び直した。
「今度はこちらから忠告しよう。――防御は無駄だ。下がれ」
そして、私と師匠が向かい立つ前方、アンデザイトがゆらりと立ち上がり、そう言った。それは、静流さんの言葉に対する返礼であり、グラウンド中央を取り戻すための言葉。――大魔法が来る。魔法陣の設置中であるこの場所を、絶対に譲れないのに。しかし、ドラゴンの息吹だけでもこちらの防御は限界だった。アンデザイトの全力の魔法が加わるなら、彼の忠告通り下がるしかないが――。
「よし、今しかない。奥の手その二、いくぞ!」
師匠が叫んだ。その手は既に、手元のスマホの操作を終えていた。私達は、事前の打合せ通り、音声入力のために息を吸った。
『――リンク・マギカプリ!』
四人の声が重なった。その音声入力を受けて、四人のマギカプリの画面に、新たなアイコンが二つ現れた。
「複合魔法モード! 全員、防御魔法を選択!」
師匠の指示通りに、私は、そのうちの片方のアイコンをタップした。まさにその瞬間に。
飛来したドラゴンが、炎の息吹のために息を吸い込み――。
「――【神世の石柱】っ!」
アンデザイトが、渾身の超上級魔法を唱え、横倒しされた巨大な岩の柱が、アンデザイトの頭上に生成され――。
「複合防御魔法――【戦乙女の四色戦旗】っ!」
師匠が叫んだ。
電波を介して接続された四台のスマホが、連動して魔法を生成した。その防御魔法は、私達全員を覆い隠す半球状のバリアだった。その名の通り、赤青緑黄の四色がマーブルに混ざりあった半透明の表面が、柔らかく光っている。この複合防御魔法は、単純に四つの防御魔法を重ねているのではない。四台のマギカプリの連携により、四つの元素が、それぞれの短所を長所で補い、からみつき、足し算でも掛け算でもなく、乗算のような強度を実現する――文字通り魔法のような魔法だった。強固さよりもしなやかさを感じさせるその外観を裏切らず、私達の複合魔法は、ドラゴンの炎の息吹と、アンデザイトの超上級魔法を、柔らかく受け止めた。炎熱も、轟音も、衝撃も、どこか遠くの出来事のように感じるほど、防御の内側には伝わって来ない。ドラゴンがブレスを吐き切り、アンデザイトの魔法が崩壊するまでの、永遠にも感じるような時間の後――。
「魔法陣、設置できたよ!」
ミカエラが叫んだ。その声に呼応するように、私達の足元で、緑色の光で浮かび上がる結束の魔法陣が、一際強い光を放った。ミカエラは、喜びに満ちたそのテンションのまま、上空へと飛び上がった。内側からの衝撃に、ぱちん、と複合防御魔法が弾けた。
「グオオオオォォッ!」
同時にドラゴンの咆哮が響いた。ミカエラが、その額に――マギカプリブースターによる一撃が貫いた、寸分違わぬその場所に――白銀の剣を突き立てていた。今度こそ、その咆哮は、断末魔のものだった。ドラゴンは、地響きを立てて倒れ、足元に現れた赤い魔法陣の底へと沈んでいった。
「んんんんっ、最後の攻防は――」
空中で、ミカエラは右の拳を突き上げた。そのタイミングで。ミカエラは白い光に包まれ、体積をするすると減らして、もとのオコジョの姿に戻ってしまった。
「わっ、とっ、とっ」
私は、魔法を失って落ちてくるミカエラを、なんとかキャッチする事に成功した。
「――ボク達の勝ちだ!」
私の両手の上で、スマホと並べられ、オコジョの右手を振り上げたまま、ミカエラは勝利宣言の続きを叫んだ。そうだ。結束の魔法陣をグラウンドの中央に設置し、第三の攻防に勝利したのだ。皆で力を合わせた結果、アンデザイトの企みを阻止できた。これで、二つの世界は分離されない。大災害も、起こらない。
「ミカエラ……」
私は、言葉が出なくて、ただミカエラの名前を呼んだ。
「やったー!」
そんな私とは対照的に、優香が飛び上がって叫んだ。
「はははっ! やったぜ!」
師匠が、そう笑って、静流さんの背中を叩いた。
「痛っ。やりましたね!」
静流さんも、師匠の胸を叩き返したりしている。
「やったー!」
「わっ」
優香が、飛び跳ねた勢いそのままに抱きついてきた。なんとか抱きとめると、優香の突撃を跳び上がって回避したミカエラが、すとんと私の右肩に着地した。
「真保ちゃん! ミカちゃん!」
「優香!」
もう、嬉しすぎて、お互いの名前を呼び合うだけの状態になってしまっていた。静流さんとも、師匠とも、ハイタッチをした。ミカエラを胴上げした。そうしてはしゃぎ回って、息切れしてきた頃になって、ようやく。
「アンデザイト――」
私達は、ミカエラのその呟きに、同じ場所に敗者がいることに思い至ったのだ。
「……プルナス、プルナス」
アンデザイトは、倒れていたプルナスを抱き起こしたところだった。共に戦った教え子であり助手である女性に、声をかけている。小さな呻き声をもらして、プルナスはアンデザイトの腕の中で目を覚ました。
「先生。――第三の攻防は……どうなりました?」
まだ焦点の定まらない目で、それでもプルナスは、アンデザイトに声を返した。
「負けてしまったよ」
アンデザイトのその答えに、プルナスは深く息を吐いた。
「私が至らぬばかりに――」
「それは止めよう。終わった話だ」
アンデザイトは、泣きそうなプルナスの声をさえぎった。アンデザイトがプルナスを支え、彼女はなんとか立ち上がった。
「……」
私達は、自然と二人に向かって立っていた。
「ミカエラ。そして機械世界の人間達よ。――まさか敗北するとは思っていなかったよ。敵ながら、良く最後の攻防を戦い抜いた。特に、私の超上級魔法を真正面から防ぎきったのは見事だった」
「アンデザイト――」
私の右肩に戻っていたミカエラが、何かを言おうと口を開いたが、それをアンデザイトが片手を上げて止めた。
「勝者が敗者にかける言葉などなかろう」
それから、アンデザイトは、再度プルナスに向かい立った。
「プルナス。後は頼んだ」
その短い言葉を受けて。
プルナスは口を開き、思い直して閉じ、それからもう一度口をひらいた。
「……はい、先生」
その声は、堪えきれない感情に震えていて。
え、待って。
その言葉、その反応、その流れって……。
まさか――。
「アンデザイト、あなたは――」
声を上げた私に、アンデザイトは視線を向けた。
「悪いな。――それでも、私は、諦める訳にはいかないのだよ」
その言葉が意味するところを理解する間もなく――。
「【認識阻害】――【解除】」
アンデザイトが、パン、と両手を打合せた。私の右肩の上で、ミカエラがぞわぞわ、と毛を逆立たせた。
「また嫌な感じがした。え? 【認識阻害】魔法を、【解除】した?」
ミカエラが疑問の声を上げた。そして、次の瞬間。暴風が、衝撃が、いや恐らく、とんでもない量の魔力が吹き付けた。私達はそれぞれに悲鳴を上げて、体をすくめた。その向こうで、低く唸るようなアンデザイトの声が聞こえている。私達は、上から押さえつけられるような重圧を感じて、膝をついてしまった。
「アンデザイト――!」
ミカエラが叫ぶが、その声はもう、彼には届かない。砂埃が巻き上がる風の障壁の向こうへ、語りかける術はない。
「プルナス! アンデザイトは何をしようとしているの?」
私は、プルナスへと声をかけた。彼女も、先程の魔力の噴出に、地面に倒れていた。
「……アンデザイト先生は、最終魔法で、二つの世界を強引に切り離そうとしています」
プルナスの返答に、しかし、私の理解が追いつかない。
「強引に、って――そんなことが可能なのか?」
「先生の、命をかけた最終魔法です。必ず成し遂げるでしょう」
「そんな、そんなのって。だって、プルナス、あなたは……!」
優香が、そう言葉にした。ああ、優香も気付いていたのだ。プルナスの、アンデザイトに対する気持ちに。
「私は、先生に従います。この第三の攻防の前から決めていました。もし負けることがあれば、と。――もう誰にも止められません」
私は、絶句した。アンデザイトは、侵略の未来を避けるために、自身の命をかける覚悟をしていたのだ。命をかけるほどの意志。そんなものに向かい立つだけの意志を、私達は持っていただろうか。彼の意志を否定するだけの意志の強さがあったのだろうか。
ずっと考えていた。未来に待ち構える侵略。避けようとすれば引き起こされる大災害。この二つの世界が衝突したことは、良くないことだったんだろうか。間違っていたのだろうか。
「違う……」
私は、そう呟いていた。二つの世界は出会うべきではなかった――そんな考えを、今なら、しっかりと否定できる。機械世界にも魔法の存在が伝えられた。マギカプリが作られた。そして、私は、ミカエラと出会い――友達になった。二つの世界が衝突したからこそ得られたものも、間違いなく存在するのだ。
「私は、ミカエラと出会ったことを、間違いなんかにしたくない」
そう改めて言葉にした。
「世界を守りたい、って意志も、その強さも、絶対に負けてない」
私は、自分自身にそう確認した。だから。
「アンデザイトの最後の魔法だって、皆の力で、なんとかして見せる――!」
私は、そう言い切った。そのタイミングで――。
吹き付けていた大量の魔力は、噴出した時と同様に、唐突に消えた。いや、練り上げられ、生成が完了したのだ。おさまった土煙の向こうに、アンデザイトの姿が見えた。
「【驚天の魔王樹】――!」
そう高らかに呪文の言葉を響かせて――。アンデザイトは、どう、と倒れた。死んでしまった――?
魔法は? 魔法はどこに発現している? 驚天の――? アンデザイトの呪文に連想が働いて、私は、上を見上げた。
夜闇が満たされた空、街明かりに照らされて、巨大な――表現しきれない大きさを持つ巨木が、存在していた。その枝葉を天へと向けて、その根をこちらへと向けて。まるで、月より巨大な、新しい月が現れたようだった。月よりもずっと低い軌道に、それは確かにあった。確固として見えるその姿は、叩きつけられれば、容易に二つの世界の結合など断ち切ってしまえそうな質量を感じさせた。起こるかもしれない大災害どころではない。それ自体が、間違いなく未曾有の大災害だった。
こんなの無理だ。私達のマギカプリでなんとかできるエネルギーを、とうに超えている。皆の力を結集しても、なんとかするなんて不可能だ。
絶句して硬直してしまった私の視線を追いかけて、優香達が空を見上げ、それぞれが驚きの声を上げた。驚嘆と絶望の声。手持ちの力はわずかで、策も通じず、希望も探せない。そんな皆の声を聞いて――。
「そんなのってないよ……」
ミカエラの声を聞いて――。
あれ? でも、おかしくない?
ミカエラ達の声が、私の中の何かを呼び起こした。私は、冷静になる自分を感じていた。そして、改めて、空の巨木を見た。何かがおかしい気がした。いや、そもそも。
「落ちてこない――?」
空の巨木は、その位置を全く変えていないように見えた。認識できないようなわずかな速度で動いている? それとも、遠すぎて分からないだけ? なぜ射出されない?
ああ、そうだ。私は、ひっかかっている何かに思い至った。なぜアンデザイトは、このタイミングで認識阻害魔法を解除したのか? 私は、急速に、自分の中で連想が働くのを感じた。思考が繋がっていく。そもそも、アンデザイト一人で――その命をかけたとして――それが魔法だとしても――これほどの現象を作り出すことができるのか。
三つの攻防のように、二つの世界を切り離すために、世界の間の結束・分離の力を利用するというのは、納得できる。元々大きな力のかかっている二つの世界が、絶妙なタイミングで力をかけることで、ぱちん、と切り離されることはあるだろう。
だが、命をかけた最終魔法が――命をかけた程度で――人ひとりが扱うことができるエネルギーだけで、二つの世界が切り離されたりするのだろうか。そんなことができるなら、三つの攻防などに頼らずに、最初からやれば良かったのだ。
まだだ。私は、この魔法について、知らなければいけないことが、まだある。
「ミカエラ、あの魔法は何?」
私は、肩の上のミカエラに向けて尋ねた。
「ボクの知らない魔法だよ。あの規模だから、古代魔法の一種だとは思うけど」
ミカエラは呆然としたまま、そう応えて――瞳に輝きを取り戻した。
「真保、何か思いついたんだね?」
私は、それには応えられない。まだ足りない。ミカエラも知らない魔法となると――。
思考がつながる感覚。
ああ、そうだ。そんな時に頼れる存在がいるじゃないか。
「あー、こんな時に、色んな知識にアクセスできて複雑な計算もできる、頼りになる精霊がいてくれたらなー」
私は、召喚の呪文を唱えた。すると、ぽん、と言う小さな破裂音とともに、計算と検索の精霊が現れてくれた。
『呼びました?』
二人の小人が、私の左肩で、声をそろえて尋ねてくれた。私は、真っ直ぐに上空の巨木を指さした。
「あの魔法について、私達に必要な情報を全部教えて下さい! 大至急!」
「真保の言う通りにお願い!」
私の言葉通りに調べるように、ミカエラも口添えしてくれた。
『いーですよー』
二人の小人は、気軽な調子で答えた。緑の小人が、すごい勢いで本をめくりだした。同時に、赤い小人も黒板に複雑な数式を黒板に書き始める。すぐに、検索の精霊が、あるページで動きを止めた。
「あの魔法は、古代魔法【驚天の魔王樹】。複合魔法の一種で、主に木属性と石属性によって構成されている。使用方法は――省略して――その効果は、使用者の命と引き換えに、天空に巨大な世界樹の外側を作り出す」
検索の精霊が、流れるように魔法について語りだした。
「外側?」
私は、気になった言葉をそのまま聞き返した。
「その通り。あの魔法、今は外側だけで、中はカラの状態。それを見た人々の恐怖や驚きを魔力に変えて、その内側の質量を増やしていく。今は夜で気付く者も少ないが、夜が明ければ人々はパニックになる。今はゲートも閉じ、魔法世界に問い合わせもできず、恐怖は増大する一方。概算で申し訳ないが――」
「三日!」
計算の精霊が、数式を解き終わって叫んだ。
「――そう、三日もすれば、世界を切り離すに足る質量を手に入れる。十分な質量を手に入れたら、巨木は自動的に射出される。そして術者は命を失う」
「ただし、三日というのは古の時代の話。現代の機械世界で情報が伝搬するスピードを考慮すると、明朝には射出される可能性もある」
私は、必要な情報が揃ったと感じた。――アンデザイトは、まだ命を失ってない。――彼が認識阻害魔法を解除したのは、人々に空の巨木を認識させるため。――人々の恐怖を変換して、巨木の質量に変える。――刻一刻と質量は増える。――射出は明朝。――今は、外側だけで、中身はカラ。だったら――。
「今なら、まだ――」
私は、その考えにいたった。
「――あの魔法を破壊できる」




