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友情マギカプリ 〜魔法が使えるスマホアプリを開発して、二つの世界を守ります〜  作者: 秋乃 透歌
第三章:二つの世界のゆくえ

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第十二話:激闘

「さくらさん! わたし達が出会ったのは、偶然じゃなかったってことですか?」


 優香が悲痛な叫びを上げた。


「再会して図書室で本を探したことも、本の魔物に驚いたことも、全部嘘ってことですか?」


 優香は、まだ事実を受け入れられないのだ。


「そうです。本の魔物は、あなた達やマギカプリの実力を測るために、アンデザイト先生が召喚したものです。あの稀少本もそのために準備した偽物です」

「そんな……」


 プルナスの応えに、優香は言葉を失ってしまった。


「俺も信じられません。それじゃあ、第二の攻防では、分散攻撃を提案した上で、大量のスケルトンを用意しておいたってことですか? 思い通りだった、って訳ですか?」


 静流さんも、ショックを隠しきれていない。


「その通りです」


 プルナスの応えは、簡潔な肯定だった。


「なるほどな。一緒にバドミントンなんかして、楽しくって笑い合った、あの笑顔も嘘か――。なんてこった」


 師匠は、自嘲気味にそう言った。


「……そう、全て嘘ということです」


 プルナスの答えは変わらなかった。

 私は、三人とは違い、さくらさんの正体を聞かされて、むしろ納得した。ああ、確かに、と。

 それでも。どうしても、彼女に尋ねておかなければいけないことがあった。


「さくらさん――いえ、プルナス。一つだけ確認させて。あなたは、アンデザイトがやろうとしている二つの世界の切り離しについて、完全に納得しているの?」

「私は、アンデザイト先生の一番弟子であり、研究や教導の助手なのです。だから――。いえ、立場の話は良いのです。私は、アンデザイト先生と共に行くと決めました。それがどんな判断であろうと、その結果どれほどの人に恨まれる事になろうとも、アンデザイト先生に従います。そう決めているのです。そのためなら、あなた達に紛れ込んで状況を操作する事も、偽りの笑顔を浮かべる事もいとわない。私は、そんな女です」


 あ、そうか。多分、プルナスは、アンデザイトのことを――。


「アンデザイト先生が諦めない限り、私が諦めることはありません。あなた達の言葉で、これを覆すことは不可能です。私の前に立ちふさがりたければ、魔法でも暴力でも振りかざしてこの命を奪うしかありませんよ」


 プルナスは、そう宣言した。


「さあ、ことここに至っては問答無用。第三の攻防の決着を付けましょう!」


 続いたその言葉は、闘いの再開を告げる合図だった。


「それでは、分離の魔法陣を設置させてもらうぞ。【転――」

「マギカプリ・オープン! ――【炎の投擲】!」


 アンデザイトの魔法を遮って、師匠の魔法が放たれた。アンデザイトは跳び下がってそれをかわした。


「ミカエラちゃんを取り戻さないと勝ち目がない。アンデザイトはオレに任せて、みんなはあの魔法の檻を何とかしてくれ」


 師匠が、次の魔法を撃つためにスマホを操作しながら、指示を出した。

 私は、スマホを取り出して、マギカプリを起動した。次いで、音声入力によるロック解除。


『マギカプリ・オープン!』


 私、優香、静流さんの声が同時だった。


「壊れて! 【雷の矢】」


 優香の魔法が、先陣を切った。しかし、驚くことに、プラナスの手の中の檻は、彼女の魔法を弾き飛ばしてしまった。


「それなら――【風の斬撃】!」


 静流さんが別の攻撃魔法を放った。連続する真空の刃が、ミカエラが閉じ込められた檻に襲いかかる。しかし、その魔法も、連続して硬質な音を響かせただけで、無効化されてしまった。


「中級程度の魔法では、この【茨の鳥籠】はびくともしませんよ」


 プルナスは、余裕を感じさせる声色でそう言った。その言葉が本当なら、私達のマギカプリでは、檻を壊せない。私達の手の内を知っているからこその余裕だということだろう。


「真保ちゃん、スイッチ!」


 師匠の短い指示が飛んだ。役割の交代。


「――【炎の投擲】」


 私は即座に応じて、檻に向けていた魔法を、アンデザイトへと放った。その魔法は、師匠に続いて、アンデザイトの体勢を崩すことに成功した。おそらく【転写】の魔法を使うための集中が、即座に防御の魔法を展開することを妨げているのだ。師匠の役割は、私がカバーした。一方の師匠は――。


「静流ちゃん! 早速だが、奥の手その一だ!」


 師匠はそう叫んだ。魔法の檻を破壊するために、奥の手その一を出すようだ。師匠は、上着のポケットから取り出した、スマホ大の黒くて薄い箱を、静流さんへと投げ渡した。


「USBで接続!」


 静流さんはそのデバイスを掴み取り、師匠の指示通りにスマホへと接続した。


「そいつはマギカプリ専用外付けデバイス――マギカプリブースターだ! 超電力と超計算力で、上級魔法も楽々扱える特製だぜ! 連続使用ができないところが難点だけど――新しく使えるようになったアイコンを選べ!」


 師匠が、デバイスの解説とともに、使い方を叫んだ。


「了解です! でも、なんで俺に?」


 静流さんが、スマホを構えながらも、師匠に問いかけた。


「会心の一瞬を狙うなら、剣道で鍛えた静流ちゃんの出番だろ! 行け、魔法剣士――!」


 師匠の言葉に頷き、静流さんは、右手に木刀、左手にスマホと接続されたデバイスを握った。そして駆けた。ほんの一瞬で、静流さんは、プルナスまでの距離を駆け抜けた。


「【雷の武装解除】!」


 プルナスの魔法が、静流さんへと放たれた。第一の攻防で優香がやられた、武装解除の魔法だ。それを、体をぐっと沈めて、静流さんはかわして見せた。そして次の瞬間、巻き上げられた木刀の切っ先が、プルナスの持つ魔法の檻を打ち付けた。たまらず、プルナスが檻を手放してしまう。


「今だ! 行っけえぇっ!」

「【雷神の一撃】っ――!」


 師匠の叫びに、静流さんの魔法が応えた。魔法は、真っ直ぐに魔法の檻に向かって――。


「超上級魔法っ――!?」


 プルナスの声は、途中でかき消された。これまでに聞いたことのない轟音。足元から震えるような衝撃。魔法の檻が消滅する、その消失現象すら飲み込んで――雷撃が、全てを押しつぶした。視界を奪うような閃光とともに、押し寄せる爆雷と爆風。その中から、オコジョが飛び出した。尻尾でバランスを取り、器用に着地すると、一目散に走り出して――。


「無駄です!」


 プルナスが叫びを上げた。


「たとえ檻を破壊できても、何度でも捕まえれば同じことです。【影の拘――」

「【風の矢】!」


 プルナスの魔法の詠唱を、風の矢が遮った。


「このスマホなら、ボクにもマギカプリが使えるからね!」


 それは、ミカエラによるマギカプリの魔法だった。魔法の檻から解き放たれたミカエラは、プルナスが投げ捨てたスマホに走り、短い腕で持ち上げ、縦に振ったのだ。


「おのれ、ミカエラっ!」


 完全に虚を突かれたプルナスは、次の魔法を放とうと――。


「――【雷の大槌】」


 優香の魔法が、背後からプルナスに直撃した。雷撃に打たれたプルナスは、全身を硬直させ、一度踏みとどまったかに見えたが、地面へと倒れ伏した。悲鳴一つ上げる間もなかった。プルナスは、気を失ってしまったようだ。

 そして、同時に。


「【炎の投擲】!」


 何度目かの私の魔法が、アンデザイトの集中を妨げた。


「くっ……。そう何度も邪魔をされれば――」


 アンデザイトはそう言いながらも、倒れて起き上がらないプルナスに視線を送った。


「プルナス。ここまで、よくついて来てくれた……」


 そんな呟きが、アンデザイトの口から漏れた。


「真保!」


 ミカエラが、私の右肩へと駆け上がって来た。


「真保ちゃん!」

「塚井!」

「良く保たせた、真保ちゃん」


 優香に静流さん、師匠も私に合流した。これで、戦力差は五対一。ここで決めるんだ。プルナスが戦線離脱した今、一気に畳み掛けるしかない。


「ミカエラ」


 私は、右肩に乗っていたミカエラに左手を差し出した。意図を理解した彼女が、手の平に乗ってくれた。私は、彼女を両手ですくい上げるように、顔の高さまで持ち上げた。


「元の姿に戻って――」


 そう言って、私は、ミカエラにキスをした。次の瞬間には、オコジョの白い体が、白い光へと変わっていた。その光は大きく膨らみ、バサリと空中で光の翼をはためかせた。次の瞬間には、その中から、魔法騎士の姿のミカエラが現れていた。ミカエラは、私に向けて微笑んだ。


「皆、行こう!」


 元の姿に戻ったミカエラは、開口一番、そう呼びかけた。


「現れたな、魔法騎士!」


 アンデザイトは、体の周りに魔力のゆらめきを作りながら、そう叫んだ。【転写】の魔法を使おうとしていたこれまでとは、雰囲気が違っていた。


「【風の――」


 ミカエラが、先んじて魔法を放とうと呪文を口にしたが、アンデザイトの方が一歩早かった。


「【炎龍の召喚】!」


 アンデザイトが見下ろす地面に、赤い炎で大きな二重円が描かれた。その内側が、どろりとした黒色へと塗り替えられた。その黒から現れたのは、鋭い爪の生えた、巨大な手だった。


「召喚魔法は想定内だが、これは――!」


 師匠が、炎の円から姿を現したものを見て、思わず呟いていた。それは、西洋の伝承に描かれるような、巨大なドラゴンだった。見上げる程に巨大な赤色の体、牙の生えた口、鋭い角に鋭い爪、長く振るわれる尻尾に、羽ばたく翼。


「気をつけることだ。そいつは、私達のように手加減はしてくれないぞ」

「グオオオオォォッ!」


 アンデザイトの声に反応したかのように、ドラゴンが咆哮した。炎のゆらめきのような息を吐き出す、恐ろしい雄叫び。吹き付ける迫力に、私達は後ずさってしまう。


「炎の龍の召喚か――。相手にとって不足はないよ。ここはボクが」


 今にも飛び出しそうなミカエラの肩を、私はつかんだ。正直、ドラゴンなんて相手にしたくない。見上げるだけでも足が震えそうだ。遊びではない、手加減もないことが、ひしひしと伝わってくる。それでも。それでもここは――。


「このドラゴンは、私達に任せて」


 私は、自分を必死に奮い立たせて、そう言っていた。


「真保。でも――」


 私の意図を察して、ミカエラは反論を口にしようとした。


「ドラゴンも、アンデザイトも、魔法陣の設置も、一人で全部やるつもり?」


 私は、軽い調子を心がけてそう言った。


「一人で行かないで。私達を信じて」


 そして、できるだけの気持ちを込めて、そう言った。ミカエラの手をとって、彼女の目を見つめた。

 おそらく、五人全員で協力してドラゴンを倒し、その後にアンデザイトに向かう方法が一番安全だ。でも、一番安全な方法が最善の方法とは限らない。一つ目の理由は、制限時間だ。ミカエラが元の姿でいられる時間は数分で、この間に少なくとも魔法陣の設置は完了させる必要がある。もう一つの理由が、アンデザイトのさらなる召喚魔法だ。彼をフリーにすることで、ドラゴンの大群を相手にするような事になれば、目も当てられない。

 私の目を見つめ返して、ミカエラは小さく頷いた。


「さっさとこのドラゴンを片付けて合流するから、一緒にアンデザイトを倒そう」


 精一杯背伸びをして、私は言った。


「その間に、ボクがアンデザイトを倒しちゃうから、真保達はゆっくり来てよ」


 同じ様に背伸びをして、ミカエラが応えてくれた。

 単純な魔法の打ち合いなら、ミカエラはアンデザイトには敵わないと言っていた。アンデザイトには五人で対峙する必要がある。であれば、ミカエラがアンデザイトを牽制しているうちに、四人でドラゴンをなんとかして――その後、合流した五人でアンデザイトを打ち倒すのが最善であるはずだ。


「師匠」

「おう。異議なしだ」


 師匠の応えを確認して、私はミカエラの背中を押した。


「ミカエラ、気を付けて」

「真保達も」


 私の声にそう応えて、ミカエラは風の魔法で空へと飛び上がって、ドラゴンを飛び越し、アンデザイトへと向かった。ドラゴンの視線が、目の前を通過するミカエラを追いかけるが――。


「【風の矢】――あなたの相手は、私達」


 その顔面に、風でできた矢を直撃させられ、ドラゴンはこちらを向いた。


「グオオオオォォッ!」


 ドラゴンは威嚇の声を上げた。そのドラゴンの動きに注意を払いながらも、私達は、この時間で手短に作戦を共有する必要があった。


「静流ちゃん。マギカプリブースターなら、ドラゴンにも効果がある――はずだ。というか、そうでないと、手詰まりだ」


 師匠は、情けない手の内を言葉にした。


「しかも、マギカプリブースターは、連続使用ができない。冷却と再装填に一分程度かかる。その間は、守って逃げてかわすしかない! 残りの三人で、全力防御だ!」


 師匠の言葉は、さらに状況の困難さを伝えてくる。


「静流ちゃんは、再装填完了次第、会心の一撃を頼むぜ! 真保ちゃ――」


 師匠が、私に声をかけてくれたようだが、聞いている暇はなかった。


「【水の盾】――三重!」


 ドラゴンが気だるげに振り下ろした腕を――その爪を、私は、なんとか防ぎきった。けれど、三重に展開したはずの盾が、全て砕け散ってしまった。


「足を止めるな、走れ!」


 師匠の声に、私達は、いっせいに駆け出した。グランドの中央から後方へ、グラウンドの端に向けて。それを見たドラゴンは、その翼を羽ばたかせて空へと飛び上がった。


「あの巨体で、空を飛ぶのか!」


 静流さんが、空を仰いでそう言った。そして、ドラゴンは、ゆうゆうと上空で旋回すると、こちらにめがけて急降下して来た。その巨大な口を開け、凶悪な牙をこちらへと――。


「【土の盾】――三重!」

「止まって! 【氷の盾】三重!」


 師匠と優香の防御魔法が、ドラゴンの牙に立ちふさがった。衝突の衝撃と、魔法が砕け散る高い音。再度、私達は、攻撃を受け切ることに成功した。二度も攻撃を防がれ、ドラゴンの表情に苛立ちが混ざった――気がした。ドラゴンは、何かの予備動作のように大きく息を吸った――。


「炎を吐く! 真保ちゃん!」


 言われなくても。私は、考えられる最大の防御を選択した。


「【水の盾】――五重!」

「受け止めるな! 受け流せ!」


 師匠の声に、とっさに反応することができた。私は、ドラゴンの炎を正面から受け止めるのではなく、激流に斜めに板を立てるように、盾の位置を調整した。そして、ドラゴンは、予想通りに炎を吹き出した。迫りくる火炎の濁流を、その圧力を受けるのではなく、上方に受け流すことができている。

 でも――。

 その熱量は、私の予想など遥かに超える物で――。あっと言う間に水の盾の四枚が蒸発してしまった。最後の一枚が、かろうじて、炎に抗い――。それが消し飛ばされるのと、炎の奔流が終わるのが同時だった。炎の余波が――余波にもかかわらず、私達の肌を炙った。こんな攻撃を連発されたら――。


「再装填完了っ!」


 静流さんの声が、轟音による耳鳴りの向こうから聞こえた。ナイスタイミング! 炎を吹き終わったドラゴンの顔が、すぐ間近にあって、ここを狙える――。


「【雷神の一撃】――っ!」


 静流さんは、まっすぐにスマホを構えた両腕を伸ばしていた。狙いすましたタップ。マギカプリブースターが、その超電力と超計算力にうなりを上げて、加熱される。増強されたエネルギーを魔力へと変換し、拡張された計算力で、高速に、並列に、魔法を生成する。そして生み出された雷撃が、叩きつけるように、ドラゴンの額を撃ち抜いた。先程も聞いたはずの轟音、二度目のはずの衝撃、けれども決して慣れはしないその一撃が、放たれた。圧縮された雷撃が、ドラゴンの額から全身へと駆け抜けた。


「グオオオオォォッ!」


 雄叫び――それは、断末魔なのか。一瞬の間。そして。ぐらり、と。ドラゴンの体が揺れ、頭を大きく振って、その巨体が倒れた。やった! なんとか倒すことが――。


「皆、走るぞ!」


 師匠が、安堵のため息をつく時間も与えず、そう叫んだ。そうだ。休んでいる暇はない。ミカエラが魔法騎士でいられる時間は、あとわずかなはず。


「こいつを倒せても、倒せてなくても、次はないんだ」


 師匠が、正しいけど情けない補足をした。


「ミカエラちゃんのもとに、駆けつけるぞ!」


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