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友情マギカプリ 〜魔法が使えるスマホアプリを開発して、二つの世界を守ります〜  作者: 秋乃 透歌
第三章:二つの世界のゆくえ

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第十一話:第三の攻防

 十月四日、第三の――最後の攻防があると計算された日。

 この一週間は、作戦会議やマギカプリの開発などに明け暮れ、あっと言う間に過ぎ去ってしまった。十分な準備ができたのか、見落としや考え違いがないのか、考え出すと不安になってしまうけど。それでも私達は、力を合わせて、考えうる限りの、出来うる限りの備えをして、今日この日を迎えていた。

 空を仰ぐと、その色は夕方から夜へと変わるところだった。

 場所は、分京区中央総合運動場の駐車場。第三の攻防の舞台である第二グラウンドは、すぐそこのフェンスの向こう側だ。例によって師匠の車で移動した私達は、電車を使ったさくらさんを待ち――予定通りの時刻に合流することができた。


「さくらさん、マギカプリが使えるスマホ、用意しておきました」

「ありがとう。でも私、スマホの操作が……」

「難しい操作は不要です。こんな感じに、縦にスマホを振ったら、【風の矢】で攻撃できます。で、こんな風に、横にスマホを振ったら、【風の盾】で防御です」


 師匠が、身振り手振りで使い方を説明した。スマホで動作を検知して、最低限の攻撃と防御を発動させるようにプログラムしたらしい。


「あら、ありがとう。それなら私でもなんとかなりそうね」


 さくらさんが、改めてスマホを受け取った。


「静流ちゃん。剣士で行くか、魔法使いで行くか、決心はついたか?」

「ええ、決めました。基本的には、今まで通りに木刀で行きます。でも必要に応じて魔法も使えるよう練習してきました。なので、強いて言うなら、魔法剣士ですね」

「おお、そう来たか。格好良いな」


 師匠が、右手の親指を立ててみせた。師匠、それ多分、ちょっと古いです。


「優香ちゃんは――今日のお洋服は、いつもより気合入ってるな」

「ふふふ。分かります? 手足を守るバトルモードでありながら、可愛さも失わないように、まるでデートの前日みたいに、悩みまくってコーデしました」


 自分で言ったように、優香の今日の服装は、長袖長ズボンなのにポップというか、活動的な雰囲気を感じさせるものだった。


「華やかで良いね」


 そう評価してから、師匠は私に向いた。


「不測の事態が起きた場合は、まずオレの奥の手その一、次に奥の手その二を使う」


 師匠の言葉は、これからの作戦の重要な部分の確認だった。


「真保ちゃんの切り札は、最後の最後まで取っておこう。状況次第だけど、使わないままで終わってしまっても良いと思っている」

「分かりました」


 私は、しっかりと頷いた。


「ミカエラちゃん」


 最後に、師匠は、私の右肩に乗るミカエラに声をかけた。


「魔法陣の設置を含め、戦力として頼り切りになっちゃうけど、よろしく頼む」

「もちろんだよ。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ミカエラは、そう言って頭を下げた。


「皆で勝とうな」

「それは、真保にも釘を刺されてるよ」


 師匠の念押しに、ミカエラは苦笑して、そう応えた。そのやりとりに、皆の表情に笑顔が戻った。


「――これが、最後の攻防、なんだよね」


 そんな中、優香が、少し重たい雰囲気でそう言った。重くなる気持ちも分かる。もしこの攻防に負けてしまったら――二つの世界は切り離されてしまう。切り離された反動で大きな衝撃が発生し、大災害が起きる。私達の勝敗次第で――。


「先の事を心配しすぎるな。試合の間は、その試合に集中するんだ」

「そうそう。さすが静流ちゃん、良いこと言うじゃん」


 師匠が軽い調子でそう言った。多分、意識して軽くしてくれているのだ。実際に、私の気持ちは少し軽くなった気がした。本当に、静流さんと師匠に仲間になってもらって良かった。私と優香だけでは、この場にたどり着けていたかも怪しい。さくらさんも含めて、みんなが集まったこの状況への感謝を、忘れないようにしよう。


「大丈夫。このメンバーは、考えられる最高のメンバーだよ」


 私の心を読んだかのように、ミカエラがそう言った。


「そうだね。第三の攻防、皆で勝ちに行こう」


 私は、そう言って、自分自身の気持ちも引き締めた。

 第三の攻防は、ここ分京区中央総合運動場の第二グラウンドで行われる。グラウンドの中央に、先に魔法陣を設置した方が勝ちだ。まもなく開始時間の十七時半、時間制限は無し。勝利の条件である、結束の魔法陣の設置は、マギカプリでは実現できなかった。そのため、ミカエラを元の姿へと戻して、【転写】の魔法を使う必要があった。ミカエラが元の姿に戻っていられる時間がたった数分であるため、どのタイミングで彼女をオコジョから魔法騎士へと戻すのかが重要なポイントになる、と作戦会議では話し合った。


「いよいよね」


 さくらさんの声に背中を押されるように、私達は、ついに第二グラウンドの敷地へ入った。グラウンドの中央まであと少しという位置まで移動したところで、ちょうど反対側にアンデザイトが現れた。ゆらりと空間を歪ませて移動する魔法で――【転移】の魔法だとミカエラは言っていた――音もなく移動して来たのだ。

 あれ、アンデザイト一人? プルナスが一緒ではないようだけど……。


「アンデザイト。今日こそ決着を付けよう」


 ミカエラが、私の右肩で声を上げた。私達は、アンデザイトに向かい立つように、自然と横一列に並んだ。ミカエラと私を中央に、左右に優香とさくらさん、その外側に静流さんと師匠が位置取った。

 師匠のスマホが、ピッ、と定刻を知らせた。さあ、いよいよ最後の攻防が、始――。


「ミカエラ=プライマルシールド。時間制限のない攻防だ。少し、話をしないか?」


 驚くことに、アンデザイトが対話を提案してきた。まさか、最後の攻防の前に、話し合いができるとは思っていなかった。


「私の目的に立ちふさがる障害だと言えど、正直なところ、機械世界の人間をいたずらに傷つけたくない。その点では、話し合いのメリットは、双方にあるのではないか?」


 ミカエラが私を見てきたので、私は頷いた。


「いいよ。それじゃあ、まずは、話し合いをしよう」


 ミカエラの応えに、アンデザイトは頷いた。


「私が、二つの世界を切り離したいと思うのは、遠くない未来に侵略が起きるという確信があるからだ。――一方で、お前達が、二つの世界を結合させ続けたいと思うのは、大災害を避けたいという想いがあるからだ」


 アンデザイトの問いに、私達は頷いた。


「その通り。オレ達は、侵略を阻止するためだとしても、大災害は許容できない」


 師匠が、私達を代表して返事をした。


「そして私は、大災害を乗り越える必要があったとしても、侵略を避けたい。――この二つの主張に、優劣をつけることができるか?」


 確かに、もしそれが可能ならば、第三の攻防を魔法バトルなしで決着させることができる。しかし、そのためには、侵略の未来と大災害を天秤にかけて、大災害こそ避けるべきだという理論を展開する必要があった。


「わ、わたし達は――」


 最初に口を開いたのは優香だった。


「ミカちゃんに協力することになってから、二つの世界の分離と結合、どちらが正しいのか、いっぱい話し合いました。わたし達の結論は変わりません。――たとえ侵略の未来を避けるためであっても、大災害が起きることを許容できません」


 優香の声は、感情に任せた強さだけではない、強い芯があった。


「その理由は、大災害が、人々の平穏な生活を壊してしまうものだからです。――わたし達の国でも、大きな地震や津波によって、たくさんの人が亡くなりました。生き残ったとしても、今だに大変な思いをしている人達も大勢います。大災害は、毎日のなんてことない、だけどかけがえのない、平和で、平穏な生活を壊すものです。もしもその発生が避けられるなら、どうしても避けなければいけないと思います」

「話は分かる。だが、お互いの主張の優劣を決めるには足りない。感情的な自説の補強に過ぎない」


 アンデザイトの言葉は、こちらの主張を、感情的なものだと切り捨てるものだった。


「それに、人々の平穏な生活を壊してしまうから避けるべきだという理論は、侵略に対しても適応される。侵略を避けたいという気持ちも分かるはずだ」


 アンデザイトの言葉に、優香は反論できなかった。最初にアンデザイトから教師のようだという印象を受けたが、それを裏付けるように、彼の弁舌は厳しいようだ。

 今度は、私が、優香に続こうと息を吸った。


「大災害の発生は確実とあなたは言った。一方で、侵略の未来は、まだ不確実な可能性なのでは?」

「大災害の発生が確実だと言ったのは、確かに私だ。そして、同じく私に言わせれば、遠くない未来で侵略が起こる可能性は、百パーセントだ」

「議論の余地があるのでは?」

「議論の余地というのならば、大災害の発生もそうだ。起こらないかもしれない。では、その可能性にかけて、自説を取り下げることができるか?」

「では、魔法は考慮している? 機械世界の人間と、魔法世界の魔法使いが戦ったら、魔法使いが勝つのでは? それなら、侵略は起こらない」

「魔法バトルで魔法使い達がぶつけ合うエネルギーは、機械世界の人間が個人で扱える力を遥かに超えている。それだけ見れば、確かに、侵略はないかもしれない。しかし、機械世界の技術力や武器、兵器を考慮すれば、戦力は一気に逆転する。魔法を発生させるための一瞬があれば、銃弾は魔法使いの命を奪える。高度な兵器は、高度な魔法を圧倒するだろう。戦車や戦艦や戦闘機、ドローンやロボット、さらに核兵器まで考慮すれば、結果は火を見るより明らか。侵略は起こる」


 アンデザイトの言葉は、理路整然としていて、気を張っていないと納得したくなってしまうものだ。細かく重箱の隅をつつくことはできるかもしれないが、主張を根本的に覆すには至らない。別の論点で攻めるしかない。

 私は、改めて息を吸った。


「侵略の未来は、別の方法で回避することもできるはず。――そのための努力をせずに、大災害を承知で二つの世界を切り離すのは乱暴では?」

「確かに、乱暴だという意見はあるだろう。では聞くが、今の段階で、侵略を回避する確実で具体的な方法があるのか?」

「それは――」

「二つの世界を切り離すためには、タイミングが重要だ。二つの世界の間の、結合の力と分離の力の大小、その周期と、特異点とも呼べるようなピンポイントの時刻を見計らう必要がある。今回の三つの攻防の機会を逃すと、次に二つの世界が分離可能となるのは数十年後となり――おそらく、その前に二つの世界の同一は進んでしまうだろう」


 アンデザイトは、彼の主張の前提条件に言及した。


「同一の完了までに、侵略を回避する方法を思いつき、実行することができるのか? ――それは、今の時点では、誰にも分からないだろう。しかし、努力すると約束しておいて、できませんでしたでは、未来のこども達に顔向けができない。なぜこの時、世界を分離しなかったのかと問われて、何と答える。――確実に侵攻の未来を避ける方法は一つ、今、二つの世界を分離することだ」


 私は、返す言葉を探せなかった。侵略を止める案を――確実かつ具体的な物を、提示できない以上……。


「塚井、良く頑張ったな。――話は分かりました。でも、あなたの意見も感情的な補強に過ぎません。――しかし、どうやら、こちらからは、俺達の主張の正しさを示すことも、あなたの主張の誤りを示すこともできないようです」


 それは、負けを認めると言う事では――。


「だけど、それは、あなたも同じです」


 いつも冷静な静流さんだけど、その論理はアンデザイトの弱みを明らかにするものだった。そうか、言い負かされた気になっていたけど、まだ負けていないんだ。


「ではどうする? やはり、魔法バトルの勝敗で、主張を通すことにするかね?」


 アンデザイトは、少しだけ声に不機嫌をにじませてそう言った。


「切り口を変えてみましょう」


 静流さんは、そう言った。


「あなたのアプローチの正しさはどうでしょう?」

「魔法世界では、アンデザイト討伐部隊なんてものが組織されたと聞いている。自分の主張を、力で実現しようとするあなたを、制圧するためのものだ。事実、あなたはゲートを閉じて、【認識阻害】魔法を放ち、力で三つの攻防を手の内にしようとしている」


 師匠が、静流さんの言葉に続いた。


「そこから考えられる事は、こうだ。あなたの主張は、魔法世界で開示され、議論されて、その上で否定されている。だから、力で押し切ろうとしているんだろ?」

「確かに私は、魔法世界でこの主張を発表し、二つの世界を分離するための同志を募った。しかし、大多数の意見は、お前達の主張と同じものだったよ」

「つまり、あなたの主張は――民主主義的な多数決なのか、議会の承認なのか、国王のような人の決裁なのかはともかく――認められなかったということですね」


 静流さんが、ダメ押しした。


「正しいと認められなかった主張を、それでも自分達が正しいと言い張り、力で押し通してしまおうとする――それは、テロリストのやり方だよ」


 師匠の言葉は辛辣だった。


「では、正しい少数意見は、無視され、踏みにじられて当然だと言うのか!」


 アンデザイトの叫びは、悲痛なものだった。


「議論すべきだったんです。何度でも、諦めずに。そうでなければ――」


 優香が、静かな声色でそう言った。


「――認められなかったことを受け入れて、侵略を防ぐために尽力すべきだったんだよ」


 ミカエラが、優香に続いて、そう言った。


「私の主張の正否、それは、歴史が判断する! ――後の世では、世界を救った英雄と呼ばれているかも知れない」


 アンデザイトの言葉は、聞いていても苦しいものだった。


「英雄と呼ばれたかったの?」


 それは、議論の終わりを告げる言葉だった。ミカエラの言葉を聞いて、アンデザイトは言葉を止めた。数秒の沈黙。そして、アンデザイトは、肩を震わせ、笑いだしていた。


「分かった。私の負けだ。またしても、私の負けらしい」


 アンデザイトは、両手を上げて見せた。


「どうやら、私は、ここでも悪と断じられるようだ」


 言葉とは裏腹に、アンデザイトは、どこか嬉しそうだった。まるで、気が晴れた、とでも言いたそうな――。


「これでようやく決心がついた。――これでようやく、私は私らしく、そう、悪と断じられる方法で、二つの世界を分離することができる――」


 そして、アンデザイトは叫んだ。


「決着を着けようじゃないか! 魔法バトルの結果をもって、私は、主張の正しさを証明する!」


 それは、唐突に、第三の攻防の開始を告げるものだった。私達は、言論を封じられ、それでも、留まることもできずに、一斉にスマホを構えて――。


「プルナス!」


 アンデザイトが、唯一の協力者の名を呼んだ――。


「――はい」


 応える声は、私のすぐ右隣から聞こえた。


「えっ――?」


 何が起こっているのか理解する前に、私の右肩からミカエラの重さが消えた。振り向こうとした私の視界の端で、さくらさんが、機械世界の人間には不可能な高さまで跳躍した。風魔法による跳躍。そして、彼女が着地したのは、アンデザイトのすぐ隣だった。

 さくらさんに首根っこをつかまれたミカエラは、次の瞬間には、魔法で編まれた檻の中に閉じ込められていた。


「――【茨の鳥籠】」


 さくらさんの口から、魔法の詠唱が遅れて聞こえた。さくらさんは、左手に魔法の檻を持ったまま、右手で後頭部のヘアクリップを外した。ばさりと広がった髪が、落ち着く先からその色を、黒から金へと変化させて行った。くるりと身を翻した一瞬で、服装も、いつものローブ姿へと変化していた。そして、こちらを向いた彼女の額の右側には、鬼を思わせる角が現れていた。それから、さくらさんは、師匠から借り受けたスマホを、私達に見せつけるように投げ捨てた。

 そうか――。さくらさんは、プルナスが変身した姿だったのだ。


「そんな、さくらさん?」

「まさか、そんな……」

「おいおい、さすがに想定外だぜ」


 優香、静流さん、師匠が、驚きに動きを止めてしまっていた。

 さくらさんが、プルナス。ああ、そうか。

 私は、不思議とその事実を受け入れる事ができる気がした。

 もしも、さくらさんがプルナスだとしたら――。オコジョへと姿を変えたミカエラの動向を確認するために、偶然を装って出会ったことも。再会した時に、マギカプリや私達の実力を測るために、本の魔物を召喚していたことも。第二の攻防を有利にすすめるために、分散攻撃を提案したことも。この第三の攻防で、こうしてミカエラを手中に収めたことも。スマホをはじめとする機械全般が苦手だと言っていたことも。グーとパーの掛け声を知らないことも。全て、さくらさんがプルナスだという事実を示していたのだ。


「ミカエラがいなければ、あなた達が、魔法陣を設置できないことは知っています」


 プルナスは、静かな声色でそう言った。


「そこで、自分達が敗北する所を見ていなさい」


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